第2話 わたくし、お友達ができましたわ!
途中、視点がかわり、読みづらいかもしれませんが、お付き合いください
よろしくお願いします
「今日はアリントン侯爵家のお茶会に行くそうですよ。ですから、とびっきり可愛くいたしますね」
「アリントン侯爵家?」
「はい。なんでも、大人たちは他家との交流や商談を。子供たちは将来のための交流を目的としたお茶会だそうですよ」
なるほど。これが貴族社会のお付き合いというものなのか。
侍女のリーナが楽しそうに私の髪を整えながら教えてくれた。……そういえばうちって伯爵だったっけ? 格上の家のお茶会は断れないのか。
もう夏も終わりだというのに、まだ暑い日が続いている。でもそろそろ社交シーズンも終わりを迎える。なので、これが今年最後の貴族社会のお付き合いになるのだろう。
リーナが話しながら、私の髪をツインテールに結い上げる。可憐なツインテールが首元で揺れ、フリルが愛らしい柔らかなサーモンピンクのドレスと相まって、あざやかなつつじ色の髪と透き通るライラックの瞳をぐっと引き立たせる組み合わせだ。さすがリーナ。私はどこからどう見ても、お人形のようでかわいい。
「お嬢様。完璧です!」
「ふふふ。リーナありがとう。とってもかわいい!」
鏡の前でくるくるっと回ってみる。うん。ほんと完璧!
(……今日のお嬢様はきっと誰よりも一番だろう。どこぞの息子たちがこぞってお嬢様の虜になるに違いない! ……愛らしい!)
そんな私にリーナが内心で悶絶していたらしいが、そんなことに一切気づくことなくこうして可愛くしてくれたことに一人大満足していた。
とんとん、とノックがして、お父様が部屋に入ってきた。そして、私を見て瞳を細め、満足そうに頷いた。お父様のお眼鏡にもかなったらしい。
「うん。とってもかわいいお姫様だ。今日はきっとお友達もたくさんできるだろうね」
「はい! リーナに可愛くしてもらいましたの。わたくしも大満足です。お友達もたくさんできるといいのですけれど」
お父様の前でもくるくるっと回って見せる。ツインテールが首元でぴょんと可愛く跳ねる。
「……かわいい。でも、まだセラフィーナに婚約は早い」
お父様が小さな声でぽつりと呟いた。けれど、よく聞き取れなかった。
「……?」
何かおっしゃったかしら?
まもなく、お母様も部屋に迎えに来たので私はお父様とお母様に手を引かれながら馬車へ乗り込むことにした。
◇◇◇
侯爵邸へ到着すると、そこにはたくさんの貴族たちが集まり、楽しそうに談笑していた。
「セラフィーナ、せっかくだから他の子たちとおしゃべりをしておいで」
お父様に優しく言われ、私は小さく頷いた。
「はい、お父様」
周りを見ると、いくつかのテーブルの席について談笑している子供たちが見える。
そして、令息と思われる子供たちは、セラフィーナをちらちらと見ては、少し顔を赤くしながらひそひそと会話をしていた。
うわー。なんかやだな。言いたいことがあれば声出して言えばいいのに。ああいうのが一番いやだわ。
なんか噂話されてると気づいた私は、令息たちは無視することに決めた。そして少女の集まりの輪へ声をかけることにした。女の子同士のほうがきっと会話が弾むよね。うんうん。
「あの、ごきげんよう」
私より少し年上に見える少女たちが集まっている輪に、私は声をかけた。
「ごきげんよう。あら、あなたのお名前は?」
一人の少女が振り向いた。私の顔を見て、少し警戒したような気がした。
「わたくしは、セラフィーナ・バルディアですわ」
「……バルディア?」
「伯爵家の娘ですわ」
「……そう。バルディア伯爵令嬢ですのね。まぁ……とてもお可愛らしいですこと。ふふふ。よろしくお願いいたしますわ」
「はい。よろしくお願いいたしますわ」
ちょっと小ばかにされている気がしなくもないけれども、まぁ、私はまだ五歳だし、かわいいのも本当だしね!
そんな感じで始まったお茶会。最初は楽しく話せるかと思ったのだけれども――
「ねえねえ、知ってる? あのお菓子、とても高級なんですって」
「あら、そうなんですの? でも、わたくしが知っている、あの焼き菓子は――」
「見てくださいまし。この前お母様が買ってくれたこのドレスですけれど……」
「まぁ素敵ですわね。でも、わたくしのドレスは――」
綺麗な笑顔。楽しそうな会話。けれど……少しだけ居心地が悪い。
(……うーん? なんだか、少しだけ話が合いませんわね……)
私は少しだけ首を傾げた。見栄や自慢話より、花や本の話をしているほうが楽しいな。
(……きっと、前世のわたくしの感覚が残っているからですわね。なんだか、こういう会話は苦手ですわ)
「わたくし、少しお庭を見てきますわね」
「あら、バルディア伯爵令嬢には、まだ早かったかしら? なかなか自由でいらっしゃいますのね」
「……お庭も素敵なのですもの。見ないともったいないと思いますの」
私はそう言って、少女たちの輪から離れた。……やっぱり、こういうのは苦手だ。私には無理だな。まぁ、好きになれないと思ったのなら、それでいいじゃない。こういうのに付き合うのは少し疲れるわ。
ふと庭のほうを見ると、少し離れた場所に、茶色い髪を揺らしながら、ひとりの少女が立っているのが見えた。私と同じくらいの年頃かな? もしかして、この子も疲れちゃったのかな。
私はその少女を横目に、色とりどりのコスモスが咲き乱れる庭へ足を向けた。少女は、私が輪から離れていく様子をじっと見つめていた――
◇◇◇
「わぁ……」
……うん。やっぱり、私はこういう場所のほうが好きだな。まだ私には社交体験は早かったみたい。お子様で結構。お付き合いはこれからで十分だわ。
(お友達作りってむつかしいですわね。確か、前世はもっと簡単だったと思いますのに)
私はそんなことを思いながら庭園を歩いていた。コスモス以外にも、色とりどりの花が咲き乱れていて、思わず見惚れてしまうほど美しい。
「ふふ。……とても綺麗ですわ」
そんな時――
「セラフィーナ様!」
後ろから元気な声が聞こえてきたので振り返ると、さっき見た少女がこちらへ駆け寄ってくるのが見えた。とても可愛らしくて、美少女という言葉がぴったりだと思った。
少女は私の前まで来ると、にこりと笑った。これぞまさに、ぐうかわ!
「はじめまして! 私はエリカ・アリントンです!」
声までかわいい彼女は、エリカちゃんというらしい。アリントンというと、このお茶会の主催者のお家の子か。毎回お茶会に出席していたら疲れちゃうね。
「わたくしは、セラフィーナ・バルディアですわ」
私たちは軽くスカートをつまみ、小さくお辞儀をした。ふふふ。こういうの、かわいい同志がすると、かわいいの二乗! 最高。
すると、エリカちゃんはぱっと顔を輝かせて、弾んだ声で話しかけてきた。
「あなた、先ほど向こうからこちらに来たでしょう? どうして?」
「はい。わたくし、お茶を飲むよりお花見ていたいなって。だって、とっても素敵」
「お庭、気にいってくれた?」
「はい! とても綺麗ですわ。素敵なお庭ですのね」
「でしょう!」
エリカちゃんは、まるで自分が育てた花であるかのように胸を張る姿がおかしくて、私は思わず笑ってしまった。
「ふふふ。こんな素敵なお庭だもの。毎日見ていても、飽きないですわね」
「そうだわ。ねぇ。一緒に見ましょう。お庭、案内するわ! あなたのこと、セラフィーナちゃんって呼んでもいい?」
「ありがとうございます。もちろんですわ! わたくしもエリカちゃんと呼ばせていただきますわ」
それから私たちは手をつないで庭園を歩き回ることにした。風が吹くたび花の匂いがして、とても気持ちいい。本当に素敵な庭だった。
「このお花ね、お母様が好きなの! お父様がお母様のために植えられたのよ」
「まあ、とても素敵です。本当に綺麗なお花ですわ」
「あっちはね、香りがいいの! 私が好きな花なのよ。一緒に来て」
「はい。ふふふ。本当ですわ。とても優しい香りですのね」
私たちは、花に顔を近づけて香りを楽しんだり、草花を触ったりしていた。
「くすぐったいですわね」
「本当に。ふふふっ!」
ほんの少し話しただけなのに、なんだか、エリカちゃんとは昔から友達だった気がする。とっても楽しい。
「エリ!」
突然、少し離れた場所から声が聞こえてきて、エリカちゃんが振り返った。それにつられて私も振り返る。そこには、視線をとらえて離さない、息をのむほどの美少年が立っていた。
逆光の中に浮かび上がる濃茶の髪と、吸い込まれそうな森の木々を思わせる濃い緑の瞳。すれ違う誰もが呼吸を忘れて振り返らずにいられない、そんな姿がそこにあった。
「お兄様!」
お兄様!? エリカちゃんの? ……うわー。この男の子、まるで前世で見たアイドルのようだわ。さすがエリカちゃんのお兄様だけあるわ。
私は一瞬「お兄様」に見惚れてしまった。そんな少年も私を見ると、一瞬だけ足を止めた。けれど、すぐに何事もなかったかのように歩いてきた。
滅多にお目にかかれないほどの美しい顔立ちに、私は思わず見入ってしまった。
「あっ! セラフィーナちゃん、紹介するね!」
エリカちゃんがそう言い、ハッと我に返る。お兄様ともお知り合いになれちゃうの? 私大丈夫かな? 突然こんな美少女と美少年に囲まれて。前世だったら考えられない光景だわ。
そんな、ドキドキしている私をよそに、エリカちゃんは嬉しそうに手を引いて、お兄様の前へ連れ出してくれた。間近で見るともっとかっこいい。すごい。
「こちら、私のお兄様です!」
「……クロード・アリントン」
短く名乗ったお兄様。でもご機嫌斜め? それとも少し無愛想なのだろうか。なんだかちょっとかっこいいだけに、お近づきになりがたい雰囲気だわ。
そう思ったけれど、よく見ると頬がほんのり赤く染まっていた。そして、フォレストグリーンの瞳はまっすぐ私を見つめている。……とっつきにくい人ではないっぽいなぁ。かっこよすぎて私が慣れないだけかしら。
「セラフィーナ・バルディアですわ。よろしくお願いいたします」
「……よろしく」
小さく頭を下げるクロード様。どんな仕草もかっこいいって、反則に近い気がする。っていうか何の反則だろう。もう、自分でもわけわかんないわ。
エリカちゃんは、私たち二人を少し首を傾げながら見比べていたが、私はクロード様にドキドキしていて気づかなかった。
***
私は、不思議に思った。いつものお兄様なら、「うん」と返すだけなのに、今日はちゃんと名前を名乗って、ちゃんと挨拶をしていた。
(……あれ?)
首を傾げる。
(お兄様、なんだかいつもと違うような……?)
「お兄様?」
「エリ……何?」
「……なんでもない!」
私が笑うと、お兄様は不思議そうな顔をしていた。
***
「……セラフィーナちゃんは、花が好きなの?」
少し沈黙が続いたあと、クロード様が私に顔を向けて尋ねてくれた。話しかけてもらえた。うん。さっきのは私の勘違いだね。クロード様がかっこよすぎて慣れなかっただけだな。
「はい!」
私は話しかけてくれたことが嬉しくて、思わず笑顔で答えた。
「とっても好きですわ!」
「そう」
クロード様の返事は短かったけれど、不思議と冷たい感じはしなかった。むしろ、私が元気すぎて戸惑っているのかしら。
「クロード様は?」
「……好き」
そう言って、クロード様は花壇へ視線を向ける。その横顔が少し照れているように見えた。美少年の照れ顔!? 破壊力半端ないわ。ごちそうさまです。
「ふふっ」
私は思わず微笑んでしまった。お花を好きっていう、クロード様の照れ顔。うふふ。いいもの見れちゃったかも。
「……?」
「なんでもありませんわ」
私は、答えをごまかした。だって、クロード様もきっと気づいてないもの。そんなお顔。かっこいいのにかわいいって、ギャップ萌え。やばい!
私だけが見れたと思って、心の中でキャーキャー言っていた、その時だった。
「お兄様! 私も仲間に入れてください!」
エリカちゃんが楽しそうに駆け寄ってきた。こっちも癒されていいわー。もしかして、お兄様を私にとられちゃった、とか思われちゃったかな?
「……勝手にすれば」
少し素っ気ない返事だったけれど、クロード様はどこか優しいお兄様の声で答えていた。
二人の関係いいな。私、前世も今世もお姉ちゃんだからな。エリカちゃんがチョットだけ羨ましい。しかもこんなかっこいいお兄様、私もほしいなぁ。
私は思わず、目を細めて二人を見てしまった。この光景は眼福だよ。ありがとう。
「セラフィーナちゃん、どうかしたの?」
クロード様の腕に絡みつき、私を見てきたエリカちゃんが聞いてきた。
「ううん。何でもありませんわ。みんなでお庭散策、続けませんこと?」
「お兄様も、それでいいわよね。セラフィーナちゃんと一緒に行こう?」
「……勝手にすれば。って言った」
クロード様はまだ少し顔が赤いみたいだけれども、大丈夫かしら。秋とはいえまだ暑いし。無理してないかな。
「クロード様は大丈夫ですの? 少しお顔が赤い気がしますわ。お部屋で休んでいただいても大丈夫ですわよ?」
「……っ大丈夫」
「そうですの? では、もう少しご一緒してくださるとうれしいですわ」
「……うん」
こうして三人で、庭園で花を眺めながら、時間が許す限り楽しい時間を過ごした。
時折、涼しい風が吹いて私の頬を撫で、髪を揺らす。クロード様はそんな私をじっと見つめ、エリカちゃんはニコニコとクロード様を見ていた。……当の私は、そんな二人の視線に全く気づいていなかった。
そして帰る時間になり、私は名残惜しいがお別れの挨拶をエリカちゃんとクロード様にしていた。
「また遊びましょうね、セラフィーナちゃん!」
「ええ、もちろんですわ!」
「お兄様も一緒にね!」
「……っ! ……時間が、合えば」
「もう。お兄様。そんな言い方、失礼よ」
「大丈夫ですわ。またみんなで遊びたいですわ!」
私は「また」があることに喜びを感じていた。エリカちゃんもクロード様も、また遊びたいと思ってくれていたってことよね。嬉しいな。
「今度は、我が家にご招待いたしますわ。我が家も素敵なお庭がありますのよ」
「まぁ! セラフィーナちゃんのおうちのお庭も楽しみにしていますね」
「はい!」
こうして、エリカちゃんと約束を交わして、私は笑顔で手を振りながら、家路へと帰っていった。今日は、思ったよりもすっごい楽しい一日だった。
その日、私は――
(――っ! ……わたくし、お友達ができましたわ!)
この世界で初めての、大切なお友達ができた。それがとても嬉しくて、胸がキュッとするような、宝物が増えたような感じがした。
ただ、この出会いが未来を大きく変えることになるなんて、この時の私はまだ知らなかった。
***
数日たったある日――
自室で本を読んでいたお兄様の元へ、私は足を運んだ。
「お兄様」
「エリ……何?」
「セラフィーナちゃん、可愛かったね」
その一言で、お兄様の手が止まった。
「……うん」
「お兄様、また会いたい?」
お兄様は本へ視線を戻した。けれど、ページをめくる手は、まだ動きそうになかった。きっと、お茶会で笑っていたセラフィーナちゃんのことを思い出しているんだ。だって、何よりの証拠にお兄様の頬がほんのり赤くなっている。
「……うん」
私は嬉しくなって、笑顔になった。だって、いつも自分の気持ちを口にしないお兄様が、素直に答えたからだ。
「じゃあ、また遊びに来てもらいましょう!」
「……うん」
嬉しそうにしているお兄様を見て、なんだか私も楽しくなってきた。せっかくだから、その様子をじっくり観察してみることにした。
――ニヤニヤしながら、観察スタートだ!




