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悪役令嬢の完璧な婚約破棄計画 ~ヒロインと恋するはずが、なぜか私と恋しています!? でも設定通りってなんでぇ?~  作者: かず


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第14話 わたし、「物語みたいな」出会いがしたいです!

今日、投稿忘れてました!

本日分です。よろしくお願いします。

十二月。今日は年に一度の聖なる夜。今夜、一番星の光る星空の下で二人が永遠を誓い合えば、それは必ずかなうと言われている、そんな特別な夜。


そんな今日だから、私はそれにちなんだ本を下町の貸本屋で借りて、昨日から寝る時間も惜しんで読んでいた。


主人公の女の子が、流星群が降る夜に偶然出会った素敵なヒーローと星を見上げるシーン――。もう、何度読んでも胸がキュンキュンする! やっぱり、良い。すごく良い!


(――っ! わたし、「物語みたいな」出会いがしたいです!)


ああ、いいよ。こういう数奇な出会い(シチュエーション)! すっごい、すっごい憧れる!


(良いなぁ……こういうロマンチックな数奇な出会い。いつかわたしにも、物語みたいな出会いがあったりしないかなぁ)


借りてきた恋愛小説をさっき読み終えたので、わたしは余韻に浸ってうっとりとため息をついた。そんな乙女な妄想に浸っていたまさにその時、お母さんがわたしを呼びに来た。もう、今余韻に浸っていたのに。


「サラ。ジャックがあんたに会いに来たわよ。ほら、いつまでも本読んでないで、さっさとお行き」

「はい、はーい。なんだろうなぁ、こんな時に」


私の機嫌はちょっと悪い。だって、せっかく素晴らしい本と出会えて最高の気分だったのに、朝から幼馴染のジャックって、ねぇ。せめて、ヒーローみたいなかっこいい人が私を訪ねてきてくれればいいのに。なんて私は思いながら髪を軽くまとめて部屋を出た。


「おや? いつも恋愛小説を読んでいるサラも、まだまだおこちゃまだったのね? うふふふ」


お母さんが、なんかニヤニヤしながら私の顔をみながら言っている。


「何? 何が言いたいのよ? 変なお母さん」

「うふふふ。ジャックもこんな鈍感なわが娘で大変だね!」

「はぁ? なにがジャックが大変なの? 意味が分からないわ」


私はお母さんに言われた通り玄関に向かうため階段を下りて行った。


玄関には、幼馴染で鍛冶屋の息子のジャックが、恥ずかしそうに顔を掻きながら立っていた。


「おばさんには俺の態度(恋心)、バレバレかよ」


ジャックが一人ぶつぶつ喋っていたが、良く聞こえなかった。


「おはようジャック。どうしたのよ。こんな早くから」

「朝早くって。もうすぐ昼だぞ? どこが早いんだよ。学院もパン屋も休みだからって寝すぎじゃねぇのかよ」

「はあ? 寝てないし! 恋愛小説読んでいただけですぅ」

「また読んでたのかよ。おまえどんだけ読むんだよ。その恋愛小説ってやつ」

「ふん。ジャックにはこの本の良さが分かるわけないわ。だって、あんたの頭には「鍛冶屋のおじさんに早く認められて一人前になる」ことしか、ないもんね!」

「むっ。お前みたいにありもしない恋愛小説読んでうっとりしているより、現実見ているほうがいいと思うけどな!」

「はぁ。これだから、おこちゃまジャックは、わかってないな。この最高で至高な本の数々のすばらしさを」

「まあ、いいよ。それよりも今夜さ、暇だよな?」

「勝手に決めつけないでくれる? 暇だけど。なに?」


そして、なんだか顔を真っ赤にして、視線をあちこちに泳がせながら言った。


「あ、あのさ、サラ。知っていると思うんだけど、今夜流星群が降るだろ? ……もしよかったら、夜に町外れの丘に見に行かねぇか? 二人で」

「……えっ?」

「あ、いや、無理にとは言わねぇんだけど、せっかくだし、ほら……」


(……きた!!)


ジャックがどれほど勇気を振り絞って誘ってくれたか――なんて、今のわたしには一切目に入っていない。


頭の中に浮かんだのはただ一つ。流星群の夜に、運命のヒーローと出会うイベントが発生するかも!? ということだけだ。


「行く! 絶対に行く!」

「えっ!? ほ、本当か!? よっしゃ……じゃあ、防寒具とか準備して、夜八時に迎えに来るからな!」


わたしは、ジャックは顔を真っ赤にしてガッツポーズをしていたことなど目に入らず、意識はすでに今夜のイベントへと飛んでいた。


二つ返事で頷いたわたしに、ジャックは嬉しそうに拳を握りしめて走り去っていった。


そして、ジャックが迎えに来るまでの数時間。わたしは自室の鏡の前で、完璧な運命の出会いのための予行演習に励んでいた。


恋愛小説のヒロインになりきり、鏡に向かって表情や仕草をチェックする。


「『あら……どなたかと思えば。こんな素敵な夜に一人だなんて、何かお悩みでも?』……ううん、これじゃちょっと上から目線かな? もうちょっと可憐に……『あのっ、夜風が冷たいので、もしよかったら……あ、すみません、出しゃばりでしたよね!』……きゃーっ! これ! これ絶対可愛い!」


一人で部屋の中で「あ……手が触れちゃった!」と自分の手を重ねてみたり、「え、一緒に星を見てくれるんですか!?」と目を輝かせる練習をしたり。テンションが上がりすぎて、クッションを抱きしめながらベッドの上でゴロゴロ転がっていたら、あっという間に約束の時間になってしまった。


◇◇◇


「サラ、準備できたぞー!」

「はい、はーい!」


部屋から飛び出すと、そこには防寒対策バッチリの大きなリュックを背負ったジャックが立っていた。鍛冶屋の仕事の合間に、温かいカカオを魔法瓶に詰めて、ブランケットまで用意してくれたらしい。


(わぁ、ジャックったら気の利く友達! まるで小説の主人公を支える心強い仲間(モブ)みたい!)


ジャックの必死の努力を優秀なモブ友人として処理したわたしは、期待に胸を膨らませて町外れの丘へと出発した。


◇◇◇


少し冷え込む空気の中を歩いて、町が一望できる見晴らしの良い丘へと向かう。


わたしの胸はドキドキと高鳴っていた。さっき読んだ恋愛小説の展開が頭を駆け巡る。鏡の前で何度も練習した予行演習の成果を試す時がきたのだ!


――ヒロインが流星群を見に丘へ向かうと、そこにはすでに先客のヒーローが一人で夜空を見上げている。ロマンチストな一面を見られて照れる彼と、気を遣って去ろうとするヒロイン。けれど彼に『一緒に見よう』と呼び止められて、二人は肩を並べて星を見る……!


(うわぁぁぁ、完璧! もしかして、あの丘の上に誰か素敵な人が立っていたりして……!? さあ、どこにいるの!? わたしの運命のヒーローはっ!?)


丘の上に到着するなり、わたしは星空を見るのも忘れて、目を皿のようにして周囲を必死に探した。草むらをガサガサと押し分けて覗き込み、大きな木の陰をサッと改め、ベンチの下まで確認する。……どこかに夜空を見上げるミステリアスな貴公子(イケメン)はいないか、とキョロキョロ動き回る。


……けれど。


「おいサラ、何やってんだよ!? 虫でも探してんのか!?」

「静かにしてジャック! どこかで夜空を見上げて物思いにふけっている、ミステリアスな貴公子(イケメン)がいるはずなのよ!」

「はぁ!?? 何言ってんだお前!?」


必死すぎるわたしの捜索虚しく――そこには見渡す限り、わたしとジャックの二人しかいなかった。


「……ふぅ。やっぱり、誰もいないかぁ」


わたしは草むらから立ち上がり、服についた葉っぱを払いながらぽんと手を叩いた。


「やっぱりそうだよね! そんな恋愛小説みたいなイベント、そうそう発生するわけないか! 練習までしてきたのに残念! なら、次のイベントに期待だね!」

「……お前、本当にバカだろ」


あっけらかんと笑うわたしに、ジャックは呆れ果てた顔で頭を抱えていた。


「……なぁ、それよりサラ。俺、お前と二人で来れて――」


気を取り直したジャックが、少し照れたように温かいカカオのカップを差し出しながら、真面目なトーンで言いかけた、その時だった。


「あっ! ジャック、見て見て! あっち!」

「えっ、何だよ!?」


少し離れた丘の特等席――大きな木の袂に、ふたつの人影が見えた。


夜空から降り注ぐ星の光に照らされているのは、息をのむほど美しいつつじ色の縦ロールを揺らすセラフィーナ様と、そのお隣に寄り添う男性の姿だった。


男性がセラフィーナ様の寒そうな仕草に気づいたのか、羽織っていた厚手のコートをそっと肩にかけてあげる。セラフィーナ様は少し顔をあげて、それからキュっとコートを抱きしめて……二人は身を寄せ合いながら、降るような星空を見上げていた。


実際は、セラフィーナ様が、星を見ながら悪役令嬢として断罪される未来のイメトレをして震えていただけなのだが、そんな事情をわたしが知るはずもない。


(……わぁ……っ)


静まり返る夜空の下、まるで一枚の絵画みたいに美しい二人。


「やっぱり……ああいうのが本物の運命なんだなぁ……」


思わずぽつりと呟いてしまった。恋愛小説の中みたいな甘くてロマンチックな空気感が、遠くからでもはっきりと伝わってくる。


「……サラ?」


自分(ジャック)の気持ちにこれっぽっちも気づかず、遠くのカップルをうっとり見つめるわたしを見て、ジャックが「はぁぁ……」と深すぎるため息をついたことに、これっぽちも気づくことはなく、ただただ美しい二人を眺めていた。


「俺……なんでこんな寒空の下で頑張ってんだろ……」

「え? 何か言った、ジャック?」

「……なんでもねぇよ! ほら、流星群流れてるぞ!」

「えっ? わぁっ! 本当だ、すごい!」


夜空を流れる綺麗な星に手を合わせながら、わたしは心の中で小さく祈った。


(いいなぁ、セラフィーナ様たち。……いつか、わたしにもあんな素敵なヒーローが現れますように!)


横で「サラが早く俺の気持ちに気づきますように、いや、せめて男として見てくれますように……!」と必死な顔で星に祈っている幼馴染の視線には、やっぱり最後まで気づかないまま、わたしは夜空に輝く星を見つめ続けていた。

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