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悪役令嬢の完璧な婚約破棄計画 ~ヒロインと恋するはずが、なぜか私と恋しています!? でも設定通りってなんでぇ?~  作者: かず


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第8話 わたし、「物語みたいな」恋がしたいです!

やっと登場しました。

今更ですが、この作品は以下の三人視点で進むお話です。たまに同じ出来事に対して、それぞれの視点で進む感じにしています。

題名で、誰の話か分かるようにしています。


わたくし=セラフィーナ

わたし=サラ

僕=クロード


たまに、あと二人の視点も出てきますが、閑話みたいな感じです。


ぼく=セルジオ

私=エリカ


説明のために、今回投稿しました。二本めです。

読みづらいかもしれないてすが、よろしくお願いします。

毎朝、香ばしい焼きたてパンの幸せな香りで目を覚ます。早朝の澄んだ空気をゆっくりと胸いっぱいに吸い込み、わたしは自然と笑顔になる。


サラ――それがわたしの名前。今日もお父さんとお母さんと一緒に、お店の前へ焼き上がったばかりのパンをせっせと並べていた。


「サラ、そっちのチーズ入り平焼きパンを棚にお願い」

「はーい!」

「クルミパンも焼けたよ。サラ、それ終わったら並べてくれ」

「はい、はーい!」


籠いっぱいに詰まった、まだ熱々のパンを運ぶ。ああ、いい匂い。お父さんの作るパンは、いつだってとびきりいい匂いがする。


パン屋「木漏れ日パン工房」。ここは、お父さんとお母さんが営む小さくて温かいお店だ。朝になると近所の人が朝食用のパンを買いに来て、お昼前には近くの食堂や宿屋からたくさんの注文が入る。目が回るほど忙しいけれど、わたしは自分の家であるこのお店がとっても大好きだった。


パンといえば、とわたしは昨日も読んでいた恋愛小説を思い出す。


舞台は下町で、主人公は貧しいけれど健気な娘。食べる物がないと嘆いている彼女の前にさっそうと現れ、焼き立てのパンを差し出す素敵なヒーロー――


(あの恋愛小説に出てくるような格好いい人がうちのパンを買って、困っている娘さんにそっと渡して、それがきっかけで恋が実ったりして……。そしたらうちのお店は「恋の実るパン屋」なんて噂されちゃったり! きゃあ!)


そこまで考えて、わたしは思わず一人でにやけてしまった。


「サラ?」

「え? なぁに、お父さん」

「……お前、また一人でニヤニヤ笑ってるぞ」

「えへへ……」


お父さんに苦笑交じりに指摘され、わたしは頬を染めて誤魔化すように笑った。


「さては昨日の夜も、またあの恋愛小説でも読んだんだろ」

「うっ……」

「ほらお父さん、年頃の娘っていうのは恋愛小説に憧れて、何度も何度も読むものなんですよ。私だって若い頃は……」

「お母さんのお気に入りの恋愛小説!? どんな内容? 知りたーい!」


上手く会話を逸らしたつもりだったけれど、お父さんの指摘は完全に図星だった。昨日の夜も寝る前にベッドの中で一冊一気読みしてしまったのだ。身分の低い平民の少女が、偶然街で出会った高貴で優しい貴族の青年と身分差を乗り越えて恋に落ちる物語。もう何度も繰り返し読んでいるのに、そのたびに胸がきゅんとして仕方がなかった。


(いいなぁ……わたしにも、いつかあんなロマンチックな運命の出会いがあればいいのに。わたしだけの王子様……最高だわ)


小さくため息をつきながら、わたしは物語のシーンを思い出して胸を躍らせる。


(――っ! ……わたし、「物語みたいな」恋がしたいです!)


そんな夢のようなことを考えながら、棚に焼き立てのパンを並べていく。もちろん、現実の世界がそう簡単に恋愛小説のようにはいかないことくらい、わたしだって分かっている。毎日パンを買いに来るのは、気さくで顔なじみのおじさんやおばさんばかり。白馬に乗った王子様や綺麗な貴族様なんて、こんな下町のパン屋に現れるはずもないのだ。


……そう、この時のわたしは思っていた。


◇◇◇


カランカラン。


開店と同時にドアベルが小気味いい音を立てた。近所に住むリズさんが、朝食用のパンを買いに来てくれたのだ。


「おはよう。トムさん、マーサさん、サラちゃん。今日は何がおすすめだい?」

「いらっしゃいませ、リズさん! 今日のおすすめはね……あ、お父さん。今日のおすすめは何だっけ?」

「今日は、大麦とエンドウ豆の雑穀パンがおすすめだよ」

「だって! エへへ」


わたしが元気よく伝えると、リズさんは嬉しそうに財布を取り出した。


「そうかい。それを二つほどもらおうかね」


お母さんが代金を受け取る間に、わたしは手際よくパンを袋に入れてリズさんに手渡した。


「お父さんのパンは、今日もとっても美味しいですからね! もし残ったら、スープに入れて食べてくださいね!」

「サラちゃんはいつもしっかりお手伝いしてて、本当に偉いわねぇ。それに比べてうちの子は……」

「リズさんのところはまだ小さいじゃない。そんなに焦らなくても大丈夫よ」

「小さいって言っても、もうすぐ十二になる娘なのにさぁ……」


お母さんとリズさんの、お金を払いながらの定番のお喋りが始まる。その間にも、再びドアベルが鳴った。


「はーい、いらっしゃいませ!」


次から次へとお店にお客さんがやってくる。毎日、木漏れ日パン工房は本当に大忙しだ。


お昼を過ぎた頃、ようやくお客さんの足が途切れた。ここでやっと、家族三人のお昼ご飯の時間になる。


「お父さん。今日もいっぱいパンが売れたね!」

「そうねぇ。お父さんが毎日真面目に作ってるから、美味しいってみんな知っているのよ」

「ふふ、お母さんも毎日お父さんと一緒に作ってるもんね」

「だって、お母さんが一番お父さんのパンのファンなんだもの。美味しいパンのお手伝いしたいじゃない」

「……そんなくだらないこと言ってないで、食べたら午後も頑張るぞ」


ぶっきらぼうに言うお父さんだったけれど、耳まで真っ赤になっているので照れているのが丸分かりだった。それを見て、わたしとお母さんは顔を見合わせてくすくすと笑う。


ふと、わたしは先日街で出会ったサラちゃんのことを思い出していた。


◇◇◇


あれは、ちょうどお昼に向けて、お父さんが焼いていたパンが出来上がって、わたしはその焼きたてのパンを棚にせっせと並べていたときだった。


一人の少女がうちのパン屋を凝視しているのがちらり見えた。


ん? なんだろう? うちのパン屋に用事かな? パン買いに来たのかな? なんで入ってこないんだろう?


ふと視線をあげてみると、そこには信じられないような、とてもきれいな美少女が立っていた。隣には侍女っぽい人も並んでいた。


(うわー。お人形さんみたいなきれいな人だわ。こんなきれいな人、一回見たら忘れるわけない。それにしても、どうしたんだろう? ずっと見ているんだけれど?)


お父さんとお母さんに次々パンを並べるように言われて、気になるけれどもとりあえず、わたしはせっせとパンを並べていた。


「サラ、そっちのはちみつ仕立てのロールパンを棚にお願い」

「はーい!」


チラチラと見ていたけれども、全然微動だにしない美少女。あれ? あれって新しいお人形だった? 本物の人形? でも、おつきの侍女っぽい人は動いてるから。人形じゃないんだよね?


何だろう? と不思議に思っていたら、目が合った。あ、人形じゃなかった。


奥からお父さんが残りのパンを持ってやってきて、私に声をかけてきた。


「おい、サラ。あそこにいる、めっぽう別嬪さん。きっと裕福な商家のお嬢さんだな。うちのパン屋の良い匂いにつられてやってきたはいいものの、入るに入れないでいるんだろう、ほれ、今焼きあがったパンでも持って行ってやれ。後はわしと母さんで並べて置く」

「わかった。じゃ、このはちみつ仕立てのロールパン、二つほど持って行ってくるよ」

「おう。もってけ」

「うちのパン屋に目をつけるなんて。あのお嬢さんはなかなかの目利きだね」

「そりゃそうよ! お父さんが焼くうちのパンは、世界一美味しいパンだもん」

「うふふ。サラの言う通り。ほんとさね。お父さんのパンは世界一」

「ふん。あたりまえさ」


わたしとお母さんが褒めると、お父さんは耳を赤くして、ぶっきらぼうに答えていた。でも、本当に美味しいパンなんだもん。言っていることは嘘じゃない。世界一美味しいパンなんだもん。私は大好き。


わたしは袋に二つ、はちみつ仕立てのロールパンを入れて、美少女のほうへ走っていった。


「こんにちは! いらっしゃいませ! ちょうど今、はちみつ仕立てのロールパンが焼き上がったところなんです。すごく美味しいですよ!」


美少女に、「はいっ」って袋を手渡すと、にっこり微笑んだ。ここは、営業スマイルよね。だって、気に入ってくれたらまた来てくれるかもしれないものね。常連さん捕まえるチャンス!


「え? あ、あの……っ」


美少女はちょっと戸惑っていたけれども、戸惑う姿も美少女だと様になるのね。知らなかったよ。美人は得。っていうけど本当にそうなんだなってちょっと思っちゃった。


「うちはあそこで、パン屋をやっています。木漏れ日パン工房っていうんです。良かったら食べてみてください。美味しいですよ。絶対食べて損はしません!」


ふり返り、うちのパン屋を指さす。


美少女は、まだ戸惑っているみたいだった。ちょっとぐいぐい行き過ぎかな? 下町では普通なんだけれども。でも、ほどなくして、美少女が声を出した。


「あの、先ほどお名前が聞こえて。サラさん……とお呼びしても? わたくしはセラ――いえ、サラと申しますの。こちらのパンをいくつかいただけますかしら?」


うわ。声もかわいい。それに名前、サラちゃんっていうんだ。サラって珍しくはないけれどもおんなじ名前だなんて。


「わあ、サラちゃん! 同じ名前だね、なんだか運命的! これからよろしくね!」


わたしとサラちゃん。名前が同じだけじゃない、なんか本当に運命的な気がした。


◇◇◇


(そういえば、わたしと同じ名前だったな。もの凄くかわいい子だったなぁ……。)


丸い眼鏡に、ゆるく三つ編みにされたおさげ髪。平民らしい素朴なワンピースを着ていたけれど、どこか隠しきれない品があった少女。


何より、その背後には平民の服装をしているけれど、明らかに侍女だと思う女性を連れていた。普通の平民は、侍女なんて連れて歩いたりしない。だからきっと、裕福な商家のお嬢様がお忍びで来ていたのだろうと、お父さんも言っていたし。


(でも、下町のパン屋なのに、うちのパンをキラキラとした目で見てくれていた気がする。うん、そうだよね。わかるよ。わたしだって美味しいものはキラキラした目で見ちゃうもん!)


気に入ってくれるといいな。だって、お父さんの美味しいパンだもの。サラちゃんが買ったはちみつ仕立てのロールパンは私も大好きだもん。


ふふふ、と思い出し笑いをしていると、お父さんがまた不審そうな目をわたしに向けてきた。


「サラ、お前また一人で笑って。今度はどんな恋愛小説を思い出したんだ?」

「残念、恋愛小説じゃありませんでした! 秘密です!」


心の中で「また会えるかな?」と呟いてみる。なんだか不思議と、あの少女とは仲良くなれるような気がしてならなかった。


◇◇◇


夕方になり、全てのパンが売り切れる時間になった。お父さんが「今日はもう店じまいだ」とお店を片付け始める。


わたしもそれを手伝ってお店を閉めると、自分の部屋へと戻った。夕食までの時間は、わたしにとってお待ちかねの読書タイムだ。


「今日は何を読もうかな。そうだ、これにしよう!」


棚から抜き取ったのは、まさに下町のパン屋の娘が主人公のお話だった。たまたま買い出しに来た高貴な青年が、パン屋の娘と恋に落ちる物語。


そんな都合のいいこと、現実には起こるわけがないと分かってはいる。けれど――もしかしたら、万が一、億が一の確率であるかもしれないじゃないか。そんなことを、私はつい思ってしまう。


例えば、この恋愛小説の中のお話のように、リンゴパンを作るために果物屋へ行って買い物するの。でも買い出しの荷物をうっかり落としてしまって、リンゴがコロコロと石畳を転がっていってしまうのだ。そこへ通りかかった彼が、長い袖口から伸びた綺麗な手でそれを拾い上げてくれて、ふと目と目が合う。そして彼が優しく微笑んで言うのだ。『――君、大丈夫ですか?』


(そんなシチュエーションなら、日常の延長線上で十分ありそうじゃない!?)


想像しただけで、わたしの顔は一気に熱くなった。


わたしにも、そんな素敵な運命のイベントが起こらないだろうか。


そんなことを考えながら、夕食までの時間の読書タイムを堪能した。


――ちなみに。


わたしが後日、こっそり果物屋でリンゴをいくつか買ってきて、「落とした時のための予行練習」を重ねていたこと。


長い袖口から手をのぞかせて、「君、大丈夫ですか?」と声を掛けられた時に一番可愛く見える返事の角度を、鏡の前で何度も練習していたことは――……誰にも絶対に言えない秘密なの。

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