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静寂の彼方へ  作者: 宙子
12/15

12.


 ビュオオオオー!!



 豪風に見舞われ、とっさに目をかたく瞑る。

 アイスフォールと岩の壁を登り切った瞬間だった。




 そこからは再び、傾斜を歩いていく。


 道幅が、狭い。ここでバランスを崩し、落ちたら軽いケガでは済まないだろう。


 ただ、今のリサにはそれを予測する思考力が抜け落ちている。

 クライマーとしての経験と本能が、最後の障壁になっていた。




 ガッ……!


 ニブい音。イヤな予感がしながら振り向くと、やや離れた後方にドローンが横倒れのまま動かなくなっている。



「 ……そんな」


 歩いて引き返し、抱え上げようとするが___重たい。

 いつもの数倍は重たく感じられる。


 リサはよろけ、ドローンを取り落とす。



 ガシャ ッ


「……うごいて よ、 」


 リサは顔を覆い、その場に立ち尽くした。




 _____________



 ズズ…… ズ……


 重たい足取りで、雪に覆われた斜面をリサは歩いていく。

 腰に付けたザイルの先には、ピクリとも動かないドローンがつながれている。


 さきほどまでとうって変わり、シンと静か。

 けれど、辺りはすでに暗い。


 蛇行を繰り返す細い岩棚を歩き、身長ほどもある段差を数回乗り越えたところで、ビバークできそうな場所に気づいた。



 リリン……!と、トレッキングベルの音。


『お願い無理しないで、ね?リサ』


 イネスの優しいかすれ声が聞こえた気がした。



 リサは、無言で向きを変えた。



 吹雪をしのげる場所は、おそらくここが最期。

 テントを設営。___倒れこむように意識をなくした。




 ____________


 登頂?日目 ?時 



 ピピ!


「…………」


 ハッとした。ドローンだ。


(もどって きたんだ ね)


 リサは目を細め、しばらくの間相棒を見つめていた。



 飲み物を温め直し、補給をして外へ出る。



 テントの中でも確認したけれど、携帯機器のほうは壊れている。

 マイナス20度以下という環境にやられたのか。


 時刻と、天気の予報は分からないが……。

 物資の面でも、機会は1度きりだろう。



 ただ、登るべき岩壁も残すは最後。リカは歩きだした。



「 …………………… 」



 アイスフォールとかすかにきらめく岩肌。


 切り立つ岩壁は20メートルはある。

 これまでのものと比べても厳しいことが見て取れる。

 また、雪崩が起きるかもしれない。


 しかし登るしかない。



 リサはグッと手を握りこみ、少しでも感覚を取り戻そうとする。

 それから氷の造形を掴んだ。


「 ハア、ハアッ……! !」



 1つの動作ごとに呼吸が苦しくなり、頭が締め付けられるようだ。


 恐怖も襲ってきたのか、3メートルに届かないところでピトンを設置した。



 ___もう、 みすは できない



 氷は透明で、無数の亀裂を内包している。

 ライトを当てると、奥で青い光がゆっくり揺れた。


 氷はアイスアックスを跳ね返すほど硬く、または脆かった。

 見た目では固定できる箇所が分からない。


 リサは何度もアイスアックスを入れ直し、崩れ落ちない氷を探す。

 腕の力を急激に消耗する。



 ただ、足場にはさほど不自由しない。

 慎重に選びすぎて時間を浪費しないようにすべきかもしれない。



 問題は___この身体で、果たして登り切れるのか?ということだ。


 両手は傷つき、これ以上ないほどボロボロで、4重にしていたはずの手袋が、いつしか2重になっている。これではつねに凍傷の危険が付きまとう。

 テーピングも使い果たし、応急処置もできない。


 足は誰のものだろうかというほど重く、動きも緩慢だ。



 さらに、這い上がっても這い上がってもセルヌの頂は遥か頭上に思える。




 そして、恐れは現実になった。


 ドローンが再び停止した。浮力を失い岩壁に取りついたまま、動かない。



 _______


 落胆と混乱が、リサのなかを駆け巡っていた。


 



 ___________



 同じ頃。

 セルヌ山頂付近に最も近い拠点にて。


 幽霊でも見たかのようにギクリとした顔で、ブラムは固まっていた。


 この2日、天候の荒れる様子はない。


 ___ただし、あの日の雪崩が気にかかる。

 普通はあっけなく滑落してしまう。


 もしかすると、俺が見逃しているだけであの若い女性クライマー、今頃はもう……。



 どうにも眠りが浅く、落ち着かなかった。

 拠点を出て付近の見回りをしていたのだが……。



 彼の目の前に立つこの人間、どこか異質だった。


「あ、あの……!」


 呼びかけられて、思わず身構える。



 そうだ、目だ。目が、死んでない。

 ここへ来るヤツはたいてい寝不足が張り付いたような顔で、唇も乾ききっている。


 フラついた足取りで立っているのがやっとのヤツとか。

 口数が少ないか、誰かれ捕まえて悪態ついてるか、異様に《《ハイ》》か。

 こんな風に《《普通に》》しゃべることじたい珍しい。



 それに…………さらなる興味を覚えながら、ブラムはその人物に相対していた。



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