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治癒術師の非日常─辺境の治癒術師と異世界の魔術師による運命物語─  作者: 物部 妖狐
第一章 【日常から非日常へ】

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第27話 戦い方を教えて欲しい

 ダートの精神状態が落ち着いたのは、しばらくしたあとだった。

今は……ぼくに抱きついて、静かな寝息を立てている……。


(これはちょっと……いや、だいぶ気まずいな)


 怖い思いをした直後なのだから、こうなるのも無理はないのかもしれない。

……でも、こうも拘束されてしまうと身動きが取れなくて困る。


「——えぇ!? 今から来るって、あんたらさぁ、うちらは疲れとるんよ。だから明日にしてくれんかな。それに、ダーの様子も見てあげたいし、それくらいの気を使ってくれてもいいと思うけど?」


 リビングへと繋がる扉の向こうから、近づいてくる足音と一緒にコルクの声が聞こえてくる。


「いやぁ、わかってくれて嬉しいわ。ケイはともかく、アキさんは話が通じるの……ほんっと助かるぅ」


 ぼくたちを気遣うように、コルクは静かに扉を開けて入ってきた。

そして、ぼくに向かってピースサインをすると、そのまま椅子に腰を下ろす。


「じゃあ、明日よろしゅうね」


 通信用の魔導具を操作して連絡を終えると、ぼくを見て、いたずらを思いついた子供のような顔でにやけ始める。


「あんたらがいちゃついてたから、うちの方で連絡しといたで?」

「別にいちゃついてないよ……でも、そうだね。ありがとう」

「あれでいちゃついてないって、レース……あんた。少しはダーの気持ちをわかろうって、努力してあげないとかわいそうだよ?」


 長い付き合いのコルクは、ぼくがこういうことに疎いのをよく知っている。

だからこそ、こうして面と向かって言うのだろう。

……けど、努力をしろと言われても、ぼくに……彼女の気持ちを全て理解するのは不可能だ。

考え方や物事の感じかたも違うし……それこそ。


(例え同じものを見て、同じことを考えてるように感じたとしても、実際は全然違う)


 ぼくとは全く違う相手のことを、わかろうと努力しても、どうやって理解してあげればいいのかが……わからない。

ダートにも以前、同じようなことを言われはしたけど、頑張れば頑張るほどに、わからなくなっていく。


「——努力はしてるよ」

「そうは言うけどな、あんたは人と接すること自体が少ないんだから……独りよがりな努力をするよりも、もっと積極的に交流して、それこそ……たぁっくさん失敗すればええんよ」

「失敗したあと、どうすればいいのかが……ぼくにはわからないよ」

「そんなん、うちやダーに相談すればええだけやろ? まぁ……うちを練習相手にして迷惑かけたら、いつも通り笑顔で倍返しやけど、今はダーもいるんだから大丈夫やない?」


 そう言いながら、コルクは眠っているダートの腕をぼくからそっと外し、そのまま背負った。


「どこに連れていくのかって疑問が顔に出てるけどさ、あんた……泣きじゃくって目元が腫れた女の子が、目ぇ覚ました時に意中の男に寝顔を見られてるとか……普通に嫌やろ。少なくとも、うちなら嫌だしさ」

「……意中の男? それに嫌だって、どういうこと?」

「だぁもう! それくらいは察しぃや! ……あんたさぁ、そういうとこだよ?」


 ……意中の男って言われても、そもそもぼくがどうしてダートにそんな好意を持たれているのかがわからない。

自分で言うのもどうかとは思うけど、人に好印象を持たれるような性格をしていないのは自覚しているつもりだ。


(……けど、嫌だって言うなら気を使ってあげた方がいいかな)


 呆れたように言葉をこぼしながら診療所を出ていこうとするコルクの背を見て、ふと……ひとつだけ頼みたいことを思いついた。


「できる限り……察することができるように頑張ってみるよ。……けど、それよりもひとつだけ頼みたいことがあるんだけど、いいかな」

「……頼みたいことって何なん?」

「ぼくに……戦い方を教えて欲しい」


 その瞬間、コルクのまとっていた雰囲気が変わった。

コルクは何かを見定めるように目を細めると、何も言わずに踵を返した。


「コ、コルク?」

「あんたの覚悟は顔を見たらわかる。ダーをベッドに寝かせたら外に行くから、あんたの長杖を持って、待ってな」


 それだけを言い残して、コルクが診療所から出て行く。


「……とりあえず、言われた通りにしようか」


 誰に言うわけでもなくそう呟くと、長杖を手に家の外で待つことにした。


(ここに来てから、こんなに遅い時間に外に出るのは初めてかもしれない)


 いつもなら、村……いや、町の灯りが少しだけ見える景色も、今は真っ暗闇に沈んでいる。

辛うじて月明かりが周囲を照らしてはいるけど、それだけじゃ心許なかった。


「こんな状況で、戦い方を教わるって……さすがに無理があるんじゃないかな」


 とはいえ、待っていろと言われたからには、コルクが来るまでここにいるしかない。

そんなことを思いながら……ふと夜空を見上げた瞬間、首筋に冷たいものが触れた。


「……え?」

「あんたさ、油断しすぎやない?」


 冷え切ったコルクの声と共に、大量の血が噴き出す。

とっさに首筋を押さえ、治癒術で傷を塞ぐけど……いつ切られたのか、ぼくにはわからなかった。

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