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治癒術師の非日常─辺境の治癒術師と異世界の魔術師による運命物語─  作者: 物部 妖狐
第一章 【日常から非日常へ】

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第25話 グランツの思惑

 ケイが目を覚ました後、ぼくたちはあの場所を離れ、開拓作業を終えた人たちとの合流地点へと向かった。

すると、護衛隊の隊長グランツが隊員を連れてぼくたちを待っていて……。


(……なんか、随分と減ったような気がする)


 出発した時とは違い、グランツの周りの隊員たちの数が減っている。

もしかしたら……ぼくたちと同じように、アンデッドたちと遭遇したのかもしれない。


「此度の開拓は、残念なことに多大な犠牲を出す結果となった」


 グランツは疲弊した顔のまま声を張り上げ、それからぼくたちへと視線を向けた。


「これも全て、俺の判断ミスが原因だ! あそこまでアンデッドが多いとは予想できなかった……もちろん、謝罪ですむ問題ではないことは重々承知している……だが、それでも言わせてほしい……すまなかったと!」

「ふざけるなっ! そのせいで何人の仲間が犠牲になったと思ってんだ!」


 開拓に同行した人々から、抑えきれなくなった怒りの声が上がる。

今回の一件は、普段開拓に参加しないぼくから見ても、明らかに異常な状況だったから、被害が出るのはしょうがないと思う。


「——だが朗報がある! 栄花騎士団最高幹部であるお二人が、このように無事に帰還した! つまり……このアンデッドの発生という異常事態は収束したってことだ!」


 グランツはぼくたちを指差し、周囲へ向けて再び声を張り上げる。


「……なぁんか調子が良いこと言ってるっすね。俺やっぱり、あの護衛隊の隊長のこと気に入らねぇっすよ」

「ケイ、気持ちはわかりますが、今は……耐えてください」


 グランツの言葉を聞いたケイが、ぼくたちにだけ届くような小声で不満を漏らす。

これで問題の根本が解決しておらず、アンデッドを使役していたルードがぼくの診療所にいることまで周囲に知られたら、大きな問題になるかもしれない。

それだけじゃない。栄花騎士団としても信用を失う可能性があると考えれば、不快感を覚えるのは当然だと思う。


「……とはいえ、此度は実に残念な結果になった。……だが! 我々はこの森を切り拓くことを領主に義務付けられている! そこで、しばらくは人員補充が必要と判断し、俺が上に通達したうえで、しばらくの間、大規模な開拓は中止する!」

「ふざけんな! 通達するまえに、犠牲になった仲間たちを弔うのが先だろ!」

「——確かにそうなのだが、どうか俺の立場もわかって欲しい。約束する! 領主と村長に相談し、早めに外部から人員を集めると! では……各々、次の大規模な作業再開までのあいだは、安全が確保された場所でのみ作業をするように! 以上だ!」


 グランツの言葉に胡散臭さを感じる。

それだけじゃない。

彼に意見する仲間たちの声を無視して、道中でモンスターが出るかもしれないというのに、護衛隊たちを引き連れて帰ってしまった。


(……嫌な人だな)


 とはいえ、ここで彼らのように声を荒げる気にもなれない。もう解散みたいだし、ぼくたちも早く帰ろう。


「ほんっと、あのハゲいったいなんなん!? ほんっとムカつくわぁ!」

「そうっすよね! 武器の扱いも雑だし、あれが俺と同じ大剣使いってだけでも、印象が最悪っすよ!」

「コルクさん、気持ちはわかりますが……あのような人をまともに相手にすると疲れるだけなので、おすすめしませんよ。……ケイも、わかっていますよね?」

「……そりゃ、わかってはいるっすけど、それでも納得がいかないんすよ」


 帰路の途中で、二人がグランツへの不満を爆発させて声を荒げるが、アキがなだめる。


(……正直、嫌な人だと思ったくらいで、もうどうでもいいんだけど。コルクとケイは我慢の限界みたいだ)


 間に入って二人をなだめるアキに、思わず苦笑混じりに視線を向ける。


「レースさん。これくらいは慣れているので大丈夫ですよ?」

「……そうなんだ」

「それに、私も護衛隊隊長のグランツさんには思うところはありますが、ここで私まで声を荒げるわけにはいかないでしょう?」

「まぁ……うん、そうだね」


 アキなりの考えがあることに感心しているうちに、森を抜けてぼくの家が見えてきた。


「——はぁ、とりあえずアキ先輩の言う通り、なんとか落ち着くっすよ。怒りすぎると、体中の骨や捥げた腕が痛いっすし」

「ふふっ、良い子ですね。特別に栄花へ帰ったら、美味しいものを食べさせてあげます……けど、先輩には内緒ですよ?」

「やったっす! そりゃあもちろん! んじゃ、俺らはこのまま村の宿に帰って荷物をまとめたらそのまま帰るんで、……まぁ、本当は怪我が完全に治るまでゆっくりしたいっすけど、本国へ戻ってやらなきゃいけないことが沢山あるんすよ」


 ケイがそう言うと、アキが穏やかな笑みを浮かべて、ぼくたちへと向き直る。


「では、レースさん、コルクさん、この度はご協力ありがとうございました……ご帰宅されたらダートさんにも宜しくお伝えください」

「ってあんたら死人使いのことはええの?」


 コルクがルードのことを聞くけど、あの状況でこれ以上関わってしまうと、栄花騎士団の最高幹部として面倒なことになりそうな気がする。

けど正直……今回の開拓でルードの身柄を確保できたのだから、何もせずに帰るのは、ぼくは違うと思う。


「……そうですね。正直、魔封じの魔導具があるとはいえ完全に安全とは言えませんから、万が一のことを考えてこれを渡しておきます」


 アキが本の中から、彼女たちが持っているのに似た魔導具を取り出して、ぼくたちに渡す。


「えっと……これは?」

「これがあればすぐに私たち……いえ、近くにいる最高幹部と連絡が取れるようになります。使い方は、ボタンが沢山あってわからないとは思いますが、とりあえず中央にあるボタンを押すだけで、最低限の機能は使えますけど……悪用はしないでくださいね?」

「もし、死人使いが変なことしたらすぐに押してくれっす! この村にいる間なら俺かアキ先輩がすぐに向かうんでっ!」


 そう言うと、二人は村へと戻っていく。

ぼくたちも帰ろう……今日はもう疲れたし、何より先に帰ったダートのことが気になる。

彼らを見送ると、ぼくはコルクと共に急いで家へ向かった。

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