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【完結済】神様のインタフェース  作者: 珠響夢色
結──英雄病の終着駅
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39──仮想裁判

 茶番だ。茶番が始まる。

 裁判とは名ばかりの形式的なもの、もう僕の処遇は決まっているだろうに。ぽろっと看守が漏らしたが、裁判の次の日には釈放らしい。なんだそれ。今日これから行われるのはただの確認作業。それも、確認したということを公式なものにするためだけのもの。

 無意味だ。こんなものは無意味だ。

 時間の無駄だ。

 第二秘密法廷と呼ばれる窓もない部屋に移動する。一度に入る人数のわりに広く、壁際の三辺に中央方向に向いて、席が用意されている。それとは別に角となる位置に僕の席があり、残った一辺に一人分の、ちょうど発言者がそこに立つ用の台が置かれている。

 その三辺の席に一人ずつだけ、人が座っている。前に牢屋にきたカーブ・マークル、キャプ・バーナーズ、そしてもう一人は知らない人だ。この三人、この三人の間で僕に関する処遇が決定されていく。あとは、僕の左右に警備が立っている。書記も何かを記録する魔術具もない。ああつまり、ここで起きたことは最終決定以外なかったことになるのだ。

「これより、被票者『キャニー・バーナーズ』の一連の行いについての仮想裁判を開始する。私は認可官を務めるケネス・レイカールである。この場で議論される事実・解釈に、相違が認められた場合、私が最終的に採用する事実を認可する」

 何かの紙を見ながら、僕から一番遠くに座っている年寄りが読み上げる。

「この裁判は仮想裁判である。通常の裁判とは違い、確定しなかった事実については、過程も含めてすべて棄却される。例外は認められない。続いて、起票官」

「はい。起票官を務めるカーブ・マークルです」

「はい。改票官、キャプ・バーナーズです」

「では起票官による起票を開始してください」

 カーブが何枚かの紙を持って、順番に読み上げ始める。

「はい。

 第一、国立魔導博物館における展示破損。

 第二、OSC教団運営の孤児院への襲撃・殺害行為、及び教団メンバーの殺害。

 第三、孤立村への襲撃・殺害行為。

 第四、カテドラルへの不法侵入。

 以上四票である」

「被票者、以上の四項目について異議はあるか」

「……」

「被票者!」

「異議なし。どんな刑罰でも受ける所存です」

 キャプたちが言うには、さっき読み上げられた罪状に関しては全部お咎めなしになるそうだ。それが決まっているのに、これから一つ一つ確認してやれ有罪だの無罪だの話し合うんだ。この場で起きることは全部結末ありき台本ありきだ。バカどもめ。

「では、一票目から審議を開始する。起票官読み上げを」

「はい。被票者は国立魔導博物館以降、博物館の警備員をしていました。時期は三年前の魔導解放記念祭、被票者はゴト・リッチー氏の特設展を担当していました。被票者は展示のショーケースの一つを破壊し逃走、今に至るまで身柄を確保できていませんでした。被票者のフロアには他に人はおらず、ガラスの割れる音を聞いて駆けつけた学芸員によって、被票者が立ち去る姿が確認されております。器物破損の上長期にわたる逃走とくれば、これは甚だ悪質なものである。禁錮刑を求めます」

「改票官、質疑反論を」

「ショーケースの破損とありましたが、具体の被害はどうですか?」

「無論ショーケースだけでなく中のものも無傷ではないでしょう」

「証言者を召喚します」

「認めます」

 キィと音を立てて入口から初老の男性が入ってくる。

「証言者、名前を」

「国立魔導博物館の館長をしています。クロン・ホラルです」

 これまで人が立っていなかった、台のところに立って、この件について証言を始める。

「ええ、あの日、あのフロアには間違いなく、そこのキャニーさんしかいませんでした。もしいたとしたら、他でもないキャニーさんが証言しているでしょう」

「それで、博物館側の被害はどうだったんですか?」

「ええ、それが……、ショーケースの、本当にショーケースの場所だけなのです」

「そんなことがあるんですか?」

 これはカーブが静かに詰めるように言う。

「本当です。何度目録と称号しても、そのショーケースに……何が入っていたのか分からないのです。何かを入れる予定でもありませんでした。なのに、ショーケースが残っていたのです」

 この場で最も動揺したのは僕だった。ハックの存在がこの世界から完全に消えてしまっているのは分かっていたが、まさかそこからとは。ハックの魔導書自体が、なかったことになっている。

「あの、この件はもう保険屋に保証してもらって、こちらにマイナスはないですし、今更蒸し返すほどのことでは」

「証言者は証言だけするように」

 必要最小限の証言だけ残して、館長は退場させられる。

「認可官、今の証言の通りです。本件はせいぜいが賠償、禁錮は過剰です。改票側は、事実部分については修正なし、刑罰については利子付きの賠償を提案します」

「受け入れます」

「待ってください、本件については同日の国庫侵入の件も関連している。ショーケースの破損だけでは済まない」

「それは本裁判の範囲ではない。却下します。では、一票目の件についてはこれにて、確定する」

 国庫侵入の件は知らない……、オペラが教団の支配下でこの街に来ていたことに関係するかもしれないが、まぁ過ぎた話だ。

「では二票目の審議を開始する。起票官読み上げを」

「……はい。被票者は二年ほど前から、OSC教団運営の孤児院を複数襲撃、孤児院長数名を殺害しました。さらに、教団の本拠地へと攻め入り教祖を始めとする教団メンバーを皆殺しにしました。これは紛れもない凶悪犯罪です。極刑を求めます」

 ああそうだ。極刑でいい。

「改票官、質疑反論を」

「こちらの件については、すべて騎士団の極秘任務という扱いで処理される予定です。ですので基本は公にせず、バレた場合でも騎士団が行ったことになります。OSC教団は非合法な人体実験・魔術実験を行っており、その成果について秘密裏に政治家や暴力組織に提供していたことが分かっています。孤児院は人体実験の被検体の調達先兼、マネーロンダリングに使われており、特に孤児院長クラスは教団員として被検体の提供に協力していた証拠があがっています」

「ですが、それは後から証拠が見つかったからでしょう。被票者は騎士団ではなく、しかも、その段階では証拠は上がっていなかった。その上、孤児院は無実の子どもたちが大勢居ます。そこへ襲撃をかけるというのも違法であります」

「被票者は非公式ではあるが、私の部下として騎士団に在籍している」

「改票官と被票者は血縁関係にある。職権乱用だ」

「その件に関して、問題が起きれば全て私が責任を取る」

 は? おいおいどうしちまったんだよ。前に面会に来たときもそうだ。そんなやつじゃなかったろ。僕を裁けよ。昔そうして突き放したみたいに。

「問題が起きてからじゃ遅いんですよ」

「起票官。彼がそう言ってるなら大丈夫です。受け入れます」

「では、続けて、今回の教団壊滅は秘密裏の作戦であり、教団内の協力者と密に連携して行ったものです。相手に問題が察知されると作戦失敗のリスクと、世間が混乱するリスクがありました。協力者と密に連携した作戦のため、教団に関係のない孤児たちには一切被害が発生していません」

 おかしな話だ。僕を突き放しておいて、こんなときだけ騎士団の一員として勝手に扱うのか。教団壊滅は僕が勝手にやったことで、お前らは関係ないし、表向きであれ孤児院として機能していたものを潰して回った。人もたくさん殺した。

「なぁ」

「被票者の発言は認めていません」

 そうか、そうなんだな。当事者としてここに立たされているのに、僕の意志はないも同然だ。なにこれ。

「教団壊滅の協力者を、証言者を召喚します」

「認めます」

「証言者、名前を」

「現孤児院の総院長をしております。コンと申します」

 それから、あらかじめ決められた台本を読むように、証言がはじまる。

「私は元々流れの民だったのですが、仕事の都合で教団運営の孤児院長に就任しました。雇われてすぐに、この教団の闇に触れ、どうにかしなければと思っていたところに、そちらのキャニーさんがやってきて、教団壊滅作戦のことを聞きました。

 ええええ、そもそも教団が孤児院を各地に設置したのも端から人体実験のためなのです。

 やばそうな仕事に手を染める前に、抜けられると喜んで、キャニーさんに協力することを決めました。基本的には情報提供が主でしたね。

 キャニーさんが教団を壊滅させたあとは、運営母体のいなくなった孤児院のまとめ役として、運営の正常化に尽力しました。騎士団の手が入ったともあって、古いパトロン、取引相手は全員いなくなってしまい、非常に大変でしたね。

 不幸中の幸いですが、破綻しかけの孤児院のまとめ役なんて貧乏くじ誰も引きたがらないので、孤児院の全権限を握ることができました。その私が断言します。キャニーさんは教団と関わりのない職員や孤児に被害は一切出しておりません。必要ならば名簿の提出も可能です」

 何の話だ。コンは僕が何人か孤児院長を倒した後に出会ったし、お互い協力もせずに見逃しあっただけじゃないか。

「嘘だ」

「騎士団側で認識している内容と相違ないです。認可官、今の証言の通りです。この秘密作戦は教団関係者・孤児院関係者にしか知られていません。孤児院長の全面協力が得られるので、情報統制も容易でしょう」

「改票官、私は警察省の副事務長でしたが、そんな作戦は知りませんでした」

「孤児院という公共施設が凶悪な犯罪者のコントロール下にあったという事実は、一般人に不安をもたらし治安の悪化を招きます。そのため、情報公開範囲をトップレベルに絞りました。被票者を実行部隊として起用したのもその一環です」

 何が実行部隊だ。

「では、この件は騎士団の秘密作戦であること、世間への影響が懸念されるため、情報公開や事後処理については細心の注意を払うこととする」

「お待ちください。教団襲撃自体は良いでしょう。ですが、そこに至るまでに、少女を使った囮捜査の疑いがあります。教団壊滅の折にその少女の住んでいた孤立村の村人が解放されており、その少女が被票者の悪評を流せば、騎士団の権威に関わります」

「なるほど」

「その件についても、問題ありません。その少女自身は教団壊滅に至るまでの情報提供までをお願いしましたが、教団襲撃戦闘自体には関わっておらず、決して民間人を危険に晒したわけではありません。孤立村の村人についても、教団壊滅の事情にまで踏み込んでいる者はおらず、余計な情報が漏れることはありません」

「そこまで言うのでしたら、少女自身を証言者として召喚できますか?」

「もちろんです」

 証言者の席にオペラが立つ。

「証言者、名前を」

「オペラです」

 オペラは僕の方を見て力強くうなずいてから、証言を始めた。

「わたしは教団に捕まっているところをキャニーに助けられました。それで、いっしょに村に戻ろうとしました。でも、村は壊滅していて、それから、キャニーはいなくなりました」

 僕はオペラを助けてなんかできなかったんだ。目の前の、博物館での件から逃げて、そのついでの大義名分を求めていた。挙句の果てに、アイロンをこの手にかけて、送り届けるはずだった村もなくて、また、別の理由をつけて逃げたんだ。

「証言者は今までどうやって生活を?」

「キャニーの知り合いのコランにお世話になって、冒険者をしていました」

「証言者と別れた時は十二才とかでしょう。大変でしたね。普通子どもを保護したら騎士団に届け出るものではないですか?」

「それは慣例ですな。今回は特殊なケースのため現場の、証言者の判断を優先しただけでしょう」

「やめろ、僕の身勝手に付き合わせて、荷物になったから放っただけだ」

 正義なんてないんだ。

「被票者は発言を慎むように、口を塞いでください」

 口に布が噛まされる。僕は僕のやったことに口を出す権利もない。黙ってかやの外から見るしかないのか。

「ねぇキャニー、わたしはキャニーに救われたんだよ」

 途端にこの世界が薄っぺらな芝居に見える。

「証言者、オペラさん以前にも話したとおり、今回の件は騎士団の極秘任務ということになる。口裏を合わせてくれるね」

「もちろんです! キャニーを助けるためだったら、このくらい余裕です!」

「起票官の疑念は解決したものとする。他になければ、二票目もこれで確定する」

 ただ時間が流れる。

「三票目の審議に移る。起票官読み上げを」

「被票者は、タルキエの北西にある山中の孤立村を襲撃、全村人を殺害しました。こちらは教団とは違い違法組織との繋がりはありません。こちらも極刑を求めます」

「改票官、質疑反論を」

「そちらについても、騎士団の任務という形で巻き取る予定です。件の孤立村は盗賊村と化していた可能性が非常に高く、それを撃退することはなんら違法ではありません」

「では証言者を」

「カオンです。キャニーさんがあの付近の盗賊をやっつけてくれたことは間違いないです。おかげで、こうして村から出かけられるようになりました」

「孤立村を調べたところ失踪が報告されていた商人の所持品が確認されました。村の荒れ具合からしても、正常な村落運営ができていたとは思えず、典型的な盗賊村でした」

「承認。四票目の審議に移る。起票官読み上げを」

「批評者は、カテドラルへの不法侵入を行っており──その上、戦闘の形跡も──」

「その件については、先に証言者の証言を──」

「ソフィヤ・ライムントです。証言者とはカテドラルで待ち合わせをしていました。彼が私の元学生であるということと、彼の助けた少女がコンパイラなしで魔術を使うということで、ちょうどカテドラルの魔法陣のことと絡めて研究協力をと」

「ジャンゴ・ニシキです。カテドラルでの戦闘行為については、私的な事情による決闘です。修繕費についてはすでに話し合いが行われており、支払い予定です。他国の貴重な遺産を傷つけてしまったこと、心よりお詫び申し上げる」

「承認」

 過ぎる過ぎる。

 退屈な裁判があっという間に終わる。

「結論、被票者については一票目については賠償義務を負うこと、二票目三票目については、騎士団の極秘任務に従事した旨を心に留め置き、今後の見の振り方をよく考えること、ついては、別に定める期間の間、騎士団による観察が付く。四票目については当事者間での解決がすでに成されているため不問にする。以上」

 終わり。

 くだらない。

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