34──激戦!冒険者ファッション対決!! その2
ステージがわたしを呼んでいる。
ふふふ。ふふふ。ふふふふふ。
わたしには聞こえる。客席いっぱいの拍手が。
「オペラ姉さんが、変な世界に行ってます」
「ちゃんとしたステージなんて初めてだから緊張してるんじゃない」
決勝ではこれまでの大部屋の控室ではなく、各組個室の控室が用意されていた。それとお菓子も。
「これ美味しいですね」
「この大会儲かってるのね~」
「コラッ、それはわたしのおやつなの。コランもハミングもわたし抜きで美味しいもの食べてきたんでしょ」
お菓子の入ったお皿を奪い取って、取られないように背を向けて守る。ちなみに、この控室にはわたしたち意外にも、装備を貸してくれているキャタピラーの人たちもいる。装備品ブランドのコンテストだからね。
「そんなことよりコラン、ライブの準備は大丈夫なの? 楽譜なくしたりしてないよね」
「私がそんなヘマするわけないでしょ。ブランドの人にも言って音楽家も手配済みよ。今は音響設備と楽器の確認をしてるわ」
「よろしい。流石コランプロデューサー」
「はいはい」
「私は何をしたら良いでしょう?」
この場では役目のないハミングがやることを所望している。
「そうだね。ハミングはマネージャーかな? ジャーマネ」
「ジャーマネですか」
「オペラちゃんはどこでそんな言葉覚えてきたのよ」
「うるさいですよコランデュープロ」
「そんな言葉はないわよ」
ダメなの? マネージャーがジャーマネなら、プロデューサーはデュープロじゃないの。業界用語って難しい。
「それで、マネージャーは何をすれば良いんですか?」
「うん……なんだろう」
言ってみかっただけで、マネージャーが何をするのかなんて知らないよ。多分アイドルにずっと付いてくる人だよね?
「じゃあ、わたしの近くにいて」
「はい」
ハミングがわたしのそばに寄ってくる。これで二対一だね。
いっしょにコランを打倒しようじゃないか、と、勝利を確信したときだった。
「隙ありです」
ひょいっと、わたしが確保していたお菓子皿から、クッキーが持っていかれる。
「それわたしの」
「ふふふ。おいしいです~」
「裏切ったなー」
「何のことですかー」
こらー逃げるなー。
血で血を洗うような壮絶な戦いの果て、なんとか残りのお菓子をたいらげることには成功した。なんか虚しいね。
そうやってわちゃわちゃしていると、運営の人が決勝の準備完了を伝えにくる。決勝は四組によるパフォーマンス勝負、審査員による審査と客席の人による投票で勝負が決まる。パフォーマンスはステージの上でできて、三十分以内であれば自由。とにかく、見る人を魅了すれば優勝なのだ。
わたしの出番は最後の四組目、他の人のパフォーマンスの間は参加者用の特別席からステージを観賞できるんだって。いっぱい楽しみ。
パフォーマンスの準備もあるから、観賞はしてもしなくてもいいみたいだけど、そんなの見るに決まってる。
二階の個室に案内されると、そこはテラスのようになっていて、客席の様子もステージの様子もよく見えた。予選では全然埋まってなかった客席が埋まっていて、立ち見の人もいる。
「こ、こんなに人がいるの」
一番混んでるときのギルドの三倍以上人がいそうだ。
「冒険者ってこんなにいたんだ……」
「そうとは限らないわよ」
「聞いた話によると、一般の人もたくさん見に来ているみたいですね」
「そ、そうなの?」
「オペラちゃんがいない間、私たちが何もしてないと思っていたら大間違いよ」
ハミングが、ただブランドの人とお食事してただけですけどねと小さく付け加える。やっぱり美味しいもの食べたんだ! ってそれはおいておいて。
「グードホースって人いたじゃないですか。ミュージシャンとして一定売れている人みたいで、このイベント参加費がタダというのもあって、噂を聞いた人が色んなところから集まっているみたいです」
「そういうことよ」
へー、ナグたち有名だったんだ。そんな人たちの後にわたしなの。
「なんだか緊張してきた」
「大丈夫よオペラちゃん。オペラちゃんの天使度で悩殺しちゃいなさい。逆にファンをかっぱらうチャンスよ」
「それは無茶だよ。コランプロデューサー」
アイドルアイドルって言っても、こんな大勢の前で歌ったことないよぉ。
「ううう」
頭を抱えてどうしようかってなってる内に、決勝が始まる。
「一組目。ゴールデンコード」
観客の拍手とともに、舞台の上に二人の冒険者が登場。背も体格も同じくらいだけど、一人はタレ目で優しげ、もう一人はツリ目でキリッとしている。冒険者というよりも職員の偉い人みたいなきっちりしたシャツ姿で、野ネズミの狩りをしてきたとは思えない。目を凝らすと、ベストが鎧になっていたり、ブーツになっていたりとちゃんと冒険者装備になっている。
出てきた二人は一言もしゃべらずに、距離をとって向かい合うと腰から細剣を抜いて、互いに剣先を向けた。
「はー」
そのまま、静かに剣と剣がぶつかる音と、ブーツが舞台を踏みしめる音だけが響く。芸術品のような綺麗な打ち合いが続く。時折剣先が、鎧や袖をちょうど紙一重にかすめていく。
まったく同じ調子でサビとかもないのに、なぜだか目が離せない。
流れるような動きで続き、そのまま続きそうなところで滑らかに終わった。
遅れてから拍手が鳴る。
隣を見ると、ハミングは目をキラキラさせていて、コランは素直に感心していた。
そのまま審査員のコメントがはじまり、スマートでフォーマルだ、見た目と品質動作性頑丈さが高いレベルで両立されている、ラインがどうのこうの──、後半の方になるほどよく分かんないけど、好評なことは分かった。
最後の審査員が話し終えると、参加者の二人がお辞儀して舞台袖へ退場する。
運営の人たちが箱を持って、観客席を回って投票用紙を回収して、最初の組は終わり。
「二組目。ハニーフェザー」
こんどは冒険者らしからぬ派手でぶかっとした服装の人と、二人の全身真っ黒な服装の人が出てくる。真っ黒な方はさっきの本戦にいなかったから、参加者じゃなさそう?
またしても、参加者の人は特に話さずに、今度はダンスを踊り始める。音楽がないから地味に見えるけど、宙返りしたり足を天井に突き上げて回転したりなど、すごい動きだった。
大振りなパフォーマンスに合わせて、服の余った布がひらひらと動いて、迫力満点だ。
五分ほど続いた踊りが止まったかと思うと、そばに控えていた真っ黒な服装の人がナイフや棒のようなものを投げ始める。
「おお」
合計4つも投げられたそれを、順番に受け取って投げ受け止めてまた投げる。落ちてくるそれを順々にキャッチしては投げることで、うまくナイフや棒を扱っている。それらが安定してきたかと思うと、また黒い服の人が追加一本一本と増やしていき、最終的には八本になる。ここまでにくると、なんで落とさないのかまったく分からない。
それもずっとは続かないのか、いくつか黒服の人に投げて戻して、四本に戻す。そして、次は数を増やすんじゃなくて、ステップを踏みながら、さらに踊りながら、逆立ちや宙返りを挟みながらとどんどん難しくなっていく。
最後は、同時に高く高く投げ上げられた四つのナイフと棒を同時にキャッチしてお辞儀。
間をおかずに盛大に拍手が鳴る。
「すごかった……」
「あんなことできる人居るんですね」
「何の役に立つのよ」
コランはすぐにそういうこと言う。
恒例のコメントタイムでは、やっぱりパフォーマンスの感想はなくて、この服でこれだけ動けるのはモデルの実力ありきではないかとか、これほどアーティスティックなものはこれまでなかったとか、そんなことが言われている。
「三組目。ブリストリーホース」
ナグたちの出番だ!
三人が舞台の上に上がり、ナグとコルトは肩から楽器をかけており、ジェイドは運営の人が運び込む太鼓のような楽器の前に座る。
「盛り上がってるかー!」
先頭に立つナグが声を出す。
「俺達はグードホース。リーダー、ギター担当のナグ!」
初めて聞く弾けるような音色が響く。
「ベースのコルト」
高速の低音が体を揺らす。
「ドラムのジェイド」
さらに加速、弾けるようなリズム。
ドラムのリズムが鳴り止まない。同時にナグのギター、コルトのベースが重なっていき、初めて聞く音楽になる。
お客さんの一部が手を挙げて小刻みにジャンプして、リズムにノリ始める。
合わせてわたしも立ち上がってリズムをとる。
ハミングはどうしていいか分からずじっと舞台を見ていて、コランは……変な踊りを踊っている。オリジナルだと思う。
音が散らかりながら離れ離れにならずに、バチバチと激しさを増していく。
三つの楽器の上にナグの歌声がさらに乗る。
綺麗なハーモニーとは程遠い力強い声。
すごい、すごいすごいすごい。
何が何だか分からないけど、ズドンと胸に響いてくる。
キーンとしたノイズと一緒に一曲目の歌が終わる。普通なら耳が痛くなるようなそれも、なんでか気持ちいい。
まだまだ頭の中が騒がしい。
でももっと聞きたい。
二曲目。
ベースの音だけ始まる。
前触れもなくギターが始まる。また、前触れもなくドラムが始まる。
激しさの中にも不思議なリズムが、止まって途切れてまた弾ける。
一曲目よりはゆっくりで落ち着くけど、歌声に込められた想いがズンと伝わって来るようだ。
三曲目。
楽器の音がなくて、ナグの歌声から始まる。
歌声、ギター、ベース、ドラムと順番に入れ替わって、徐々に重なり、最高速の音楽になる。一曲目も聞いたこと無いくらい速かったけど、さらに加速する。
もっと強く体でリズムを刻む。
いつもはライブをする側だから、観客側で盛り上がってる人たちの気持ちが初めて分かった。大きな流れに運ばれるみたいに、ナグたちのリズムに刻まれていく。
ひときわ大きなドラムの音で音楽が締められ、寂しくなった耳に、拍手と歓声が埋まっていく。
ここでも、審査員によるコメントが始まるけど、ライブの中身については何も言わない。ごつい金属鎧だけどライブパフォーマンスに乱れがないとか、適度な威圧感があって頼もしいとか、内容は装備品の審査だったけど、さっきの興奮が見え隠れしていた。
「オペラちゃん、準備でしょ?」
「いけない! そうだった」
ペチペチと頬を叩いて気合を入れる。
今度はわたしが盛り上げる番なんだから。
よしよし。
「さあ、場は温まったわよ! ぶちかましてきなさい」
「うん!」
楽しいライブの時間だよっ。
ファイト、オー。
ステージにあがる。
「四組目。キャタピラー」
マイクを握って深呼吸をする。客席はびっしり人で埋まっていて、立ち見の人もたくさんいて、期待と疑いの目で見ているのが分かる。
どんなパフォーマンスをするんだろう。
女の子にうまくやれるのかな。
大丈夫。
だって、わたしはアイドルだから。ギルドの歌姫だから。最新のカワイイ冒険者装備で武装した、最高の冒険者だから。
「みなさーん! はじめましてー! オペラっていいまーす!」
マイクは話さずに、もう片方の手は大きく振る。
「今日は普段使ってるキャタピラーの新作装備の宣伝をします!
すっごくカワイイくてどこまでもいける最強の服装です!
だから全力で歌って踊ります!
よろしくおねがします!」
後ろを振り返って楽器隊の人たちに合図。
「がんばるよ♪」
ジャンプと一緒に音楽がはじまる。
「あの日~ゆ~めみ~た~」
飛んで跳ねてせいいっぱい、楽しいよとどけ!
すぐさまもう一曲。
だんだんとみんなが曲に合わせて揺れてくれる。
長めの間奏。
そして、最後のサビ。
いくよっ、いくよっ。
「みんなも歌ってくださーい」
一拍おいて。
「かーわい~い~だーけじゃあ」
「かーわいいいだけじゃー」
「かなわないかもね」
「かなわないかもー」
「それでも、かわーいいーことをー」
「かわいいこともー」
「あきらめちゃ、だーめー」
「あきらめーないー」
「わたし、恋するおんなのこー」
「ふー」
「いえー」
拍手。拍手。拍手。
「ありがとーございます!
次で、最後の曲です!
最後まで、楽しんでくださーい!
いっくよー」
最後の曲、『世界ラブカワ冒険譚』
盛り上がりすぎてふわふわする。
ちょっと振り付けを忘れちゃうけど、そんなのアドリブでなんとでもなれ。
「とびだせー!」
ナグみたいに、大声だしてみる。
「ぼうけん、ぼうけん、ぼうけん、ぼうけん」
「ぼうけん、ぼうけん、ぼうけん、ぼうけん」
楽しい。
楽しいぃいいいいいい。
サビ間奏サビ。
もっと歌いたいし踊ってたいけど、曲は終わる。
だからありたっけのありがとーを、拍手に向けて……おかえし!
「あーりがとー! ありがとー! ありがとー!」
深くお辞儀をしてわたしのパフォーマンスは終わり、例によって審査員の人からのコメントがある。既存の冒険者装備の機能性を損ねずにうまくフリルや飾りを入れているとか、そんな感じ。
あんまり何言われたかは覚えてない。
ただ一つ確かなことは……、またライブやりたい!
食べ放題っ、食べ放題っ。
コンテスト主催の開催する窮屈そうなホテルビュッフェを抜け出して、わたしたちとナグたちは、ステーキレストランの食べ放題に来ている。もちろんナグたちのおごり。やったね。
「くやしいけど、おめでとうだぜ。オペラ」
皿の上に山盛りにステーキを乗せたナグが席に戻ってくる。
今回の『激戦! 冒険者ファッション対決!!』の優勝はわたし、そう、わたしがファッションリーダーです。
優勝の決め手としては、かわいい冒険者服というのが斬新だったのと、当日既製品を着ただけのわたしが充分に動けていたことから、高い実用性があるということらしい。しょうがないけど歌を褒めてほしかったね。うん。
ちなみに、ナグたちは冒険者とは関係なさすぎる、流石にパフォーマンス偏重すぎるということで、来年からは開催形式の見直しが行われるそうだ。確かに、冒険者装備のコンテストだからね。ライブイベントじゃないのだ。
説明終わり。お肉を食べます。
なにせ、いつものランチの十倍高い。めったに食べられないからね。コランなんか元を取るぞって欲張って、金箔が散らされているやつをとってる。
ああいうのって本当に高いのかな。
「うーん。雰囲気だけじゃないですか?」
「ハミングももっとはしゃいでもいいんだよ」
わたしはできるだけ多くのものを少しずつお皿に盛る。各種ステーキをはじめ、揚げ物やサラダ、スイーツも充実している。百種類あるんだって。
みんな一通り好きなものをとって、テーブルに着席。いただきます。
「ねえナグ、あの音楽なんていうの?」
「あれかぁ、バンドミュージックで……名前はまだねぇんだ」
「そうなの」
「そうです。あれはまだ僕たちはじめ一部の人しかやってないんですよ」
そうなのか。
「伝達の魔術による情報欠損をあえて起こして、音量の安定送信と独特の音の歪みを生み出してるんですよ」
「へー」
コルトが解説してくれる。細かいことは分からないけど、最先端の音楽ってのは分かった。
「今でこそファンが結構ついたけど、はじめはただ珍しがられるだけだったんだよなぁ」
「ねぇオペラ、あんた本格的にアイドルやりなよ。あたい達の後にあれだけのパフォーマンスできるの、才能あるよ」
「やっぱり? でもダメです。やりたいことがあるので」
「やっぱり訳あり?」
「キャニーを救いたくて、それで旅をしてます」
「男か……こんな女の子に追いかけさせるなんて、見る目無いのね」
キャニーは見る目ないかぁ。そうかも。でもしょうがないよね。
ジェイドは肩をすくめる。わたしの覚悟が伝わったみたい。
「じゃあしょうがないわね。でもね、男捕まえた後も人生って続くのよ」
「そのときは、アイドルしよう」
「楽しみにしてるぜ」
有力な手がかりがあったから、キャニーを探す旅ももうすぐ終わるかもしれない。キャニーに会って、キャニーを捕まえて、それで、その後はどうしようか。キャニーと一緒にまた旅に出るのか。何をして生きるのか。よく考えたらコランもずっと一緒ってわけじゃないんだよね。
わたしは何なるんだろう。何になれるんだろう。
まあいいか。
そんなのその時になれば分かるよきっと。
だから次回『キャニー捕獲っ』、引き続きわたしオペラでお送りします。




