33──ドキドキデート大作戦 その2
みなさま。はじめまして。
この度オペラ姉さんのパーティーに新規加入しました、ハミングと言うものです。姓はありません。孤児院育ちですので。
さてさて、今私は、いや私たちは、|甘酸っぱくてほろ苦い恋の行方《なんか分かんないけどお話で読んだ言葉》を見届けるべく、二人の背中を追ってかくれんぼ中なのです。どうしてこんなことになったかというと。
「ハミングちゃん」
「はい」
「オペラちゃんとカイトが二人きりで依頼を受けたわ」
このとき私はコラン姉さんが、そうなるように別の用事をでっち上げたんでしょうと言いたくなりましたが、偉いので我慢しました。コラン姉さんに逆らうとめんどうなことになると、ここまでの短い旅路でも充分理解しました。私は聡い子だと言われて育ちました。
それはさておき。
「バレないようについて行くわよ」
「い、いいんですか?」
「誰も私を止められないわ。行くわよ」
うーん。思い出してみましたけれど、取り立てて回想するほどのことはなかったですね。コラン姉さんの強引なデート計画が発動してしまっただけでした。
二人の受けた依頼は森の奥のあるキノコを採って来るというものでした。そのキノコ、木のくり抜かれたくぼみに生えていたみたいなんですが、最近隣に別の木が生えてしまって、大の大人だと採るのが難しいらしいです。そこで、オペラ姉さんとカイトさんの二人が受注することになりました。
さしあたって普通の登山道をバレないように注意しながら、オペラ姉さんを追います。曲がり角や後ろを振り返りそうになるたび、木の陰にさっと隠れて、また頭だけ出して追いかけたりします。マントと帽子で変装をしてるんですけど、コラン姉さんの特徴的なツインテールが隠れてないので、意味があるかは不明です。木の影から顔を横に出すときに、ツインテールが垂れてきてすごく邪魔です。ああもうっ、邪魔っ、です。
「うーん。後ろからだといまいち、雰囲気が分かりづらいわね」
「そうですね」
二人して双眼鏡を片手にオペラ姉さんを眺めます。こっちに向いてさえくれれば、表情が分かるくらいに高精度です。
「あの距離って近いのかしら」
「どうでしょう」
道具立ても追跡も今のところ順調ですが、私たちの恋愛力が高くないので、もっと分かりやすい動きをしてくれないと何も分からないのです。昔の孤児院時代にいたカップルを思い浮かべて見ますが、もっとベタベタするか、もっと恥ずかしそうにしていました。
「私たちといるときと同じくらいじゃない?」
「そうですね」
オペラ姉さんは人懐っこいので、誰でもあの距離な可能性もあります。本命相手だとどうなってしまうのでしょう。
「オペラ姉さんってキャニーさんが好きなんですよね?」
「そうよ」
「その方といるときはどうだったんですか」
「……けっこう露骨に好きって感じだったわね。ほとんど会えてないから、今会ったらどうなるかしら」
「じゃあ、やっぱりカイトさんは脈無しでしょうか」
「そうねー。はっきり言って勝ち目は薄いわ」
「それだと、コラン姉さんはカイトさんに諦めされるために、こんなことを?」
「別に、オペラちゃんがキャニーじゃなくて、あいつを選んでもいいとは思っているわよ。キャニーなんてしょぼくれた事故物件みたいなものよ。陰気臭いし頼りないしオペラちゃんを放って逃げ回ってる甲斐性なしよ」
「ひどすぎる……コラン姉さんの毒舌を差し引いても良いところがなさそうです」
「そうなのよね」
「どうしてそんな人を好きになったんでしょう。せめて何か良いところがあるんじゃないですか? カッコいいとか」
「ないわね。まー、強いて言うならオペラちゃんに最初に手を差し伸べたのがあいつなのよ。身の丈に合わないことやって、それで抱えきれなくなってどっか行ったの」
「なるほど」
惚れた弱みということですか。あまり意味は分かっていないですが。
おっと、休憩するみたいですね。
ベンチに腰掛けて地図を確認したりしています。
あーっと、オペラ姉さんが小さいお菓子の包みを渡しています。
「これは嬉しいですね」
「あんまり勘違いさせない方がいいわよ」
「でも、カイトさん嬉しそうですよ」
ちなみに、私たちはバレないようにしつつ、置いていかれないように付いていかなきゃいけないので、どっしり座って休憩する暇はありません。かなり過酷な任務になりますね。
「お返しとばかりに、なにやら教えてますよ」
「地元情報かしら」
カイトさんは地図を見せながら、あちこち指さしたりしています。それだけじゃ足りないのか、近くの植物を触ったりして、色々知識を披露している様子。
全部教え終わったのか、また立ち上がって進むみたいです。
広くて明るい道から、徐々に細くて雑草の多い道へ進んでいきます。
「なんか戦ってますね」
「あれは、ヘビかしら」
オペラ姉さんをかばうように、カイトさんが前に出て剣を振りました。
「ちゃんとあの種類の対応方法を知っていたみたいね。動きに危なげがないわ」
「なるほど。私もあんな風にカッコイイ人に守られてみたいです」
双眼鏡でヘビを見ていたからでしょうか、やけに近くからシャーって音がします。戦っているわけでもないのに、臨場感がすごいですね。
「動かないで!」
「ひゃ」
私たちの足元にもヘビが迫っていました。びっくりしました。コラン姉さんが剣のさやを使って、手早くパシュパシュとヘビを遠くへ弾き飛ばします。
「守られた気分はどう?」
「ドキドキしてそれどころじゃないですよ」
「恋のドキドキ?」
「びっくりのドキドキです」
冗談はともかく、カイトさんの剣捌きよりもコラン姉さんの方が一段か二段滑らかな感じがしました。コラン姉さんはすごく強い人なのかもしれません。
「あっ着いたみたいですよ」
ここでもカイトさんが率先して、木の隙間に体をねじ込んで目的のキノコを採ります。そしてそのままオペラ姉さんが屈むことなくフィニッシュ。
「普通に良いやつね」
「これは点数高いんじゃないですか?」
「相手がオペラちゃんじゃなければね」
やっぱりキャニーさんの存在は大きそうです。可哀想なカイトさん。カイトさんはオペラ姉さんに意中の人がいるってもう知っているんでしょうか。知っていたら二人きりで外出なんてしないでしょうか。
「そろそろ引き返してきそうでしょうか」
「そうね……いや待って、なんかいるわ。左の方」
言われた方を見ると、野犬がいました。痩せ細ってはいますが、かなり大きいです。
「これまずくないですか?」
いくらオペラ姉さんが旅慣れているといっても、牙を持った獣相手に真正面から戦うの危険です。
「ギリギリまで待ちましょう。オペラちゃんなら大丈夫よ」
見ていてハラハラするので、いますぐにでも逃げてと言いたいですが、信じます。ぎゅっと双眼鏡を持ってない方の手を握りこんで。ただ眺めます。何か会ったときに助けにいけるように、ゆっくりと近づきながら見守ります。
ここでもカイトさんがオペラ姉さんを庇って前へ。
じりじりと剣を構えて間合いを測ります。
しびれを切らして先に動いたのは野犬でした。
想像よりも高い跳躍力で、カイトさんはうまくガードできてません。
危ないっと思った瞬間、カイトさんが後ろ側へ引っ張られて、野犬の攻撃を間一髪でかわしました。オペラ姉さんが左手で肩を引いたのです。そのまま、姉さんは反対の手で剣の柄の部分で野犬を殴ります。
予期しなかった攻撃に驚いて、野犬は距離をとります。
また、今度はオペラ姉さんめがけて野犬が地面から離れた瞬間でした。拳大の火の塊が野犬の鼻先めがけて命中。その隙めがけて、オペラ姉さんが蹴りを入れます。
たまらず野犬はユーターンして逃げ出していきました。
オペラ姉さんは振り返って、尻もちをついていたカイトさんに手を差し伸べます。
「大丈夫?」
「うん。ありがとう。強いんだな」
「まぁね」
戦いを見るのに夢中になっていたら、声が聞こえるくらいの距離まで来てしまっていたようです。この木を飛び出したら向こうにバレます。危ない。声を出さないように。
この距離だと顔を出すのもできないので、二人して木に体をくっつけて、じっと耳を澄ましました。
「オペラ……好きだ」
うおおおおおおおおおおおおお。
言ったあああああああ。
「へ?」
「好きだと言った」
「それは……、どういう意味で?」
「告白に決まっているだろう。君が好きだ付き合って欲しい」
「そう、なんだ。えとえと、理由、聞いてもいいかな?」
おっとお。姉さん保留ですか。まだ答えを返さない。これは非常にじれったい。じれったいです。早く言っちゃえよ。もう!
「そうだな……最初は純粋に同世代の冒険者だから気になってた。だけど、何度か話す中で、オペラは……その。人を笑顔にするようなそんな魅力があると思ったんだ。可愛くて可憐で」
「それで?」
問い詰める声じゃなくて優しく続きを促すような声。
「うん。だから、君といっしょにいたい。できれば冒険者もやめて欲しい。僕の家に来たらもう旅をして日銭を稼ぐこともない」
ありゃりゃ。これコラン姉さんが聞いたら怒りそうですよ。しきりに女の子には旅をさせよ権力を持たせよのスローガンを語ってますからね。オペラ姉さんの返答次第ではこの場で切り捨てられるんじゃないですか。
「……ごめんね」
「冒険者をやめられない理由があるのかい?」
「ううん。それもあるけど、そうじゃないの。わたし、もう好きな人がいるから。今はね、その人を探すために旅をして冒険者もやってるの」
「そん、な。そこまでなのかい」
「そこまでなんだよ」
「その人は、君を幸せにしてくれそうな人なのか」
「どうだろう、ね」
「じゃあなんで」
「助けられたから。助けるって決めたから。キャニーはわたしのこと突き放したりしたけど、でも、待ってるんだよ」
「僕だって君が必要だ」
「じゃあ、わたしと一緒に来てくれる?」
「それは、そのキャニーって人を探す旅かい?」
「ううん。そうじゃない旅だったとしても」
「旅行したいっていうならそれだけお金を稼ぐよ」
「そうじゃないよ。旅行じゃない旅だよ。キャニーとね、色んなところに行きたいと思ってる。キャニーは嫌がるかもしれないけど、連れていきたいと思うの。それで楽しいこといっぱいするんだよ」
「うん…………」
「カイトには、わたしに人生をめちゃめちゃにされる覚悟は、ある?」
「キャニーって人はそれだけ君に想われていて、幸せ者だな」
「ふふ、そうでしょ。絶対幸せだって言わせてやるんだから」
これはキャニーさん強すぎますね……。ますますどんな人なのか気になってきました。私もいつか会えるでしょうか。
「よく言ったわ! 決意は揺るがないのね!」
「コラン?! いつからいたの!」
「無論、最初からよ!」
あーあー、コラン姉さん出て行っちゃったよ。
「ハミングも」
「はい、全部後ろで見てました」
「もしかして、二人きりで依頼を受けるところから全部」
「はい、コラン姉さんの仕込みです。私はやめたほうがいいって言ったんですけどね」
「嘘よ。ハミングちゃんもノリノリだったわ」
「こーらー」
オペラ姉さんに頭をワシワシさ~れ~る~。コラン姉さんは、お腹をグリグリやられている。革鎧を着込んでるから、私の方がダメージを受けてます。これは不公平です。
「うーわー」
「ほんと、どういうつもりなの」
「どうもこうも……ラブコメ成分が足りてないなーと」
「わたしは見世物じゃない! まったくもー。帰るっ!」
「待ってよオペラちゃん」
「あ、カイトさんも一緒に帰りましょう」
「ああ、そうだな」
青春を集めた渾身の告白が、過剰火力で破壊され腑抜けになったカイトさんを加え、ペースのおかしいオペラ姉さんをなだめながら、冒険者ギルドへ。
依頼の納品自体は無事に完了して、そろそろ次の街へいく頃合い。キャニーさんもいなさそうで、目標額も溜まったことだし……いや、もともと出発日は決めていたんですよ。カイトさんが気まずいとかじゃないです。本当です。コラン姉さんはここまで考えに入れていそうですが。
さ、そして次の日。
次はどこに出発しようかと、何もなければ馬車の停留所で行き先を決めよう、その前に冒険者ギルドで情報チェックしよう、と冒険者ギルドへ行きました。
そしたらそしたら、エメリーさんからキャニーさんの目的地が分かったという手紙が届いているではないですか。
善は急げと、手紙に書かれた街へ行き先をセット。姉さん両名でキャニーさん関係者を呼び出す手紙も出し、私はそれを応援して、クライマックスの予感がする街へ。
いざ、首都ボルタへ。
なんて、言いましたけど、ちょっと余談が挟まるんですけどね。
ではでは、私はこのあたりで──、ハミングでした。




