33──ドキドキデート大作戦 その1
地下の冒険を終えて、わたしたちのパーティは、わたし、コラン、ハミングの三人になった。今日は、久しぶりに街に入って、ハミングの冒険者登録をするよ!
「たのもー」
時刻は昼過ぎの中途半端な時間。小さめのギルドで、部屋のすみに一人だけ本を読みながら何かを待っている人がいる。どうやらわたしと同じくらいの歳の男の子で、なんだかめずらしい。
「この子の冒険者登録をお願いするわ」
コランがハミングを連れて受付へ。
「わたしは掲示板見て待ってるね」
冒険者登録は色々書類書いたり身分証がどうたらしたり、地味~に時間がかかっちゃうからね。
さてさて今日の品揃えはどうかな。薬草採集、薬草採集、迷子犬探し、街の施設の警備スタッフ……以上! 少ない。朝にほとんど持っていかれたのかな。
「君も冒険者なのかい?」
「うん? うんそうだよ」
さっきベンチで本を呼んでた男の子だ。わたしより頭一つ大きくて、ちょっと目線を上げる。さっぱりしていて、整った雰囲気。傷や目立った汚れはない。
「同世代がギルドにいるのが珍しくてね。僕はカイト・ライリ。今は午前で集めた素材の査定待ちをしてるんだ」
「わたしは、オペラだよ」
「オペラか、よろしく」
「よろしく」
「機会があれば共同で依頼を受けたり、冒険者になった理由とか話せると嬉しい」
「いいよ。しばらくここに滞在するつもりだから」
「本当に? 僕も最近は毎日ギルドに来てるから、ぜひ声をかけてくれ──っと、査定が終わったらしい。じゃあね」
「じゃあねー」
カイトがギルドを出て少しして、ハミングの方の手続きも一段落したらしい。
「まったく、あの孤児院の身分証全然役に立たないじゃない」
「二人ともお疲れさま」
コランは頭をかいて、ツインテールを揺らしている。ハミングは、何か笑っている。
「オペラ姉さん。ナンパですかぁ?」
「見てたの?」
「ええ、バッチリ。書類の方は基本的にコラン姉さんがやってくれましたので。それで、どうなんですか?」
そんなこと言われても、わたしにはキャニーっていう心の決めた相手がいる。
「歳が近いから仲良くしたいってだけだよ。わたしにはキャニーがいるから」
ふん、と肩をすくめるハミング。普段は大人しいんだけど、意外と知りたがりなんだよね。
そんなからかい混じりのハミングと反対にコランは拳を作って、こう言った。
「オペラちゃんは渡さないわ」
戦闘のときの言い方だった。ねぇ、恥ずかしいんだけど。ライセンス授与の試験官の人も後ろで待ってるんだよ。
「試験の準備はいいですか?」
試験の内容はわたしが受けたときと同じで、地図を片手に一人で薬草採集に行くやつ。一人と行っても後ろからわたしとか試験官の人がついていくんだけど。
試験はギルドを出たところから開始。
見失わないギリギリまで距離をあけて、ハミングを追いかける。
「ハミングちゃんと合格できるかなぁ」
「大丈夫じゃない。オペラちゃんもいけたじゃない」
「でも、なんかドキドキするよ」
「手出ししたら試験はやり直しになりますので、お気をつけて」
ハミングの進む速度に合わせて、こっちも進む。街を出て、山道へ。街に近いところはまだいいんだよ。ちょっと登ったり下ったり。道が細く木陰に入ってくると、危ない。
あっ、遠くでイノシシが動く音がする。
目を凝らしてハミングを見守る。ちゃんと、いなくなるのを待って、また動き出す。
あっ、いまつまずいたよ。あんまり山を歩き慣れてないかも。
「地図を確認する回数が増えてるわね」
わたしの頭上、コランがつぶやいた。そんな細かいところ気づかなかった……。
「あれ? コランこの距離で見えるの……って。ずるい、双眼鏡ずるい」
「はいはい。オペラちゃんも見る?」
もう、わたしに黙ってこんないいもの用意してたなんて。
どれどれ。
道は間違ってなさそうだけど、草がぼーぼーで道が分かりづらいね。
あっ、そこ右だよ。気づいた。良い感じ。もう少しで着くかな。
「薬草の摘み方も問題なさそうですね。合格です」
薬草を袋に持ってハミングが引き返してくる。
目があった。
わたしは大きく頭の上で丸を作る。
「合格だってー」
薬草を入れた袋を片手に持ったまま、ハミングが走ってくる。
「あぶないよー」
「ただいまです」
「おかえりなさい。ばっちりだったね」
「コラン姉さんの予習のおかげです」
「わたしは?」
「オペラ姉さんのおかげでもあります」
「ういやつめ」
よしよし。村にいたときは、みんなの中でわたしが一番下だったから、なんだか嬉しい。本当の妹みたいだ。
「ハミングさん。あなたをFランク冒険者として認めます。ギルドでライセンスをお渡しするので、それで手続きは完了です」
「ありがとうございます」
「さ、一段落したし、ライセンス受け取ったら甘い物でも食べに行きましょう」
最近野宿や村に泊まってばっかりで、美味しいご飯を食べられてなかったからね。ハミングも孤児院暮らしで、スイーツを食べたことなさそうだし。ここは人生の先輩として、わたしが楽しみ方を伝授してやらねば。
場面転換も入れずにカフェに直行……したかったけど、時刻は今五時過ぎ、あんまり開いてるカフェがない。晩ごはんや飲み会の時間だもんね。でもね、でもね、スイーツはそういうお店よりもカフェがいいんだよ。
ギルドを出てから、一時間くらい歩き回って見つけた。夜もやってる良さげなお店。
カランコロン。
窓際のテーブル席に三人で座る。
奥側にわたし、向かい合ってコラン、ハミング。
コランがメニューの中身を確認。
アイコンタクトでうなずく。
「それでは、第四十二回スイーツ女子会を開催する!」
「ぱちぱちぱち~」
「ええと、ぱちぱちぱち」
スイーツ女子会とは、めでたいことや嫌なことがあったときに開催されるスイーツを爆食いするだけの会のことである。ルールは三つ、お金のことは考えない、カロリーのことも考えない、ご飯もおかずも頼まない、以上。
「えっ、夜ご飯は」
「何を言ってるのハミングちゃん。私たちは今自由なの」
「つまり?」
「今日はご飯はスキップ。スイーツオンリー。甘い物だけ食べるのよ」
「そんなこと、していいんですかぁ」
「むしろそれ以外許さないわ。注文しまくるわよ」
タルトケーキパフェプリンエトセトラ……、その上、ただ頼むだけじゃないよ。パフェに追加トッピングでカスタマイズ、コランはクリームマシマシに、わたしはイチゴを追加する。
「こんなに頼んじゃっていいんですか?」
「いいのよ」
「なんせ今日は」
「スイーツ女子会、ハミングちゃん歓迎バージョン」
「だからね」
ハミングがうろたえている間にももう、作り置きのプリンやタルトが運ばれてくる。
「「「いただきます」」」
甘い。すごく甘い。
甘くてふわふわで滑らかで。
「こんな美味しいもの初めて食べました。幸せです」
「そうでしょう。そうでしょう。孤児院じゃこんな贅沢できなかったでしょう」
「それに旅の道中はカチカチのパンと塩っぱいお肉ばかりだからね」
三人ともほっぺをほろほろにしながら、片っ端から食べていく。
大きく口をあけて頬張ったり。
あーんして分け合ったり。
「私、姉さんたちについてきてよかったです」
一皿二皿とどんどん食器が片付いていく。
食べる手を止めて、ふと窓の外の通りを見る。
カランコロン。
「オペラじゃないか」
「さっきぶり」
ギチギチに詰まって本の形に変形したリュックを背負って、カイトがカフェに現れた。
「オペラちゃんをナンパしてたやつ?」
「カイトです」
「ふーん。よろしいそこに座りなさい」
え、女子会なのに参加していいんだ。コランらしくないなと思いつつ、わたしは自分の隣に案内する。
「紹介するね。この偉そうにしてるのがコラン。いつもこうだから気にしないで。で、もう一人がハミング」
「よろしくお願いします」
テーブルの上は8割くらい空になっていて、ゆっくりと残りを片づけるモードに入っている。コランは値踏みするように見ながらパフェを食べていて、ハミングは興味津々だ。
二人とも変な目で見てくるばかりなので、わたしが口を開く。
「カフェにはよく来るの?」
「あ、ええと。図書館が近くて、閉館時間過ぎたらいつもこっちで勉強してます」
「なんの勉強?」
「学校です」
「学校行ってるんだ。偉いね」
「そうですかね」
「なんでそんなかしこまってるの? ギルドだとタメ口だったでしょ」
「んん。そんなことないよ」
なんだかすごく緊張してるみたい。コランが怖いからかな。
「注文する?」
「ああ、そうする……よ」
カイトはテーブルに並んでいるお皿を見回す。
「これ、全部スイーツ?」
「そうだよ。ハミングのライセンス取得記念スイーツ女子会だからね」
「そうなんだ……なんか悪いね」
「気にしないでいいよ。ダメだったらコランが猛反対するからね」
「そ、う、ね」
ほら大丈夫。不満があるときはもっと口が悪くなって、手も出てるからね。
「じゃ、じゃあカプチーノを」
「ご飯も頼んでいいよ?」
「……スイーツじゃなくても良いかい?」
「いいんじゃない?」
コランは何も言わずにパフェの底に残った生クリームをスプーンですくっている。ほら大丈夫、だよ。
「じゃあ、オムライスを」
「二人のことは気にしないで、せっかくだし冒険者トークしようよ。ほら、同世代の冒険者って貴重だからね」
「そうだね。ぜひ。オペラは冒険者どれくらいやってるの? 僕は今年で五年目かな」
「先輩じゃん。わたしは三年目」
こういう話するとコランが割り込んで自慢をしそうだけど、なんか大人しいね。
「ああ、ぜひ頼ってくれ」
カイトがドンと胸を叩く。
「カイト先輩」
「んん!」
今度はドンドンと慌てた感じで胸を叩く。照れてるのかな。
「それで、オペラはどうして冒険者になったんだ? いったらあれだけど、同世代ってだけでも珍しいのに、君は女性だ」
「必要だったから……かなぁ。旅の費用を稼いだり、お手紙出したり、調査したり?」
「旅は長いのかい?」
「うん。そっちは四年目? かなぁ」
「それはすごい。もう旅のプロフェッショナルじゃないか」
「ま、まあね。カイトはなんで冒険者やってるの?」
「学費の足しにするためだよ。どうしてもアカデミーに行きたかったから」
アカデミー……キャニーも行ってたんだっけ。
「へー。アカデミーってどんなことするの?」
「研究とか……じゃないかな。まだプレアカデミーっていって、アカデミーの前段階のところだから」
「なるほどなるほど」
てっきり、学校ってアカデミーしかないかと思ったけど、プレアカデミーってやつがあるのか。
「プレアカデミーってどんな感じなの?」
「ええ、そりゃ普通の学校だよ」
「学校行ったことないから分からないんだよね」
そういえばコランは学校に行ったことあるんだろうか。難しい魔術の話も知ってるし、学校で勉強したのかなぁ。
「そうなのか……うん。じゃあなんでも聞いて」
その後はカイトから色々と学校のことを聞いたり、この街のことを聞いたりしていた。
キャニーもコランもあまり自分のことを話すタイプじゃないし、いい話が聞けた。ずっと黙ってたハミングも、途中からはいっぱい質問してたし。
こうしてこの街に来た初日は順調に終わっていったのだった。




