32──洞窟探検隊、世界の真実に迫る その2
馬を借りてずっーっと移動して、三日三晩。ちょっと登った山というより丘の上に目的地はあった。
「おーい、オペラちゃーん」
「エメリー!」
大人二人分のおっきな扉が開けっ放しになっていて、その中に立っているエメリーへと突撃する。
「久しぶり」
「オペラちゃん大きくなりましたねぇ」
「ふふん。立派なレディになったでしょ?」
「美しいレディですね」
「久しぶりね」
「コランさんは変わらないですね」
「ええ」
「はじめまして」
エメリーの隣にいた……うーん? 大人の人が片手を上げて自己紹介する。
「ソフィヤ・ライムントと申します。気軽にプロフェッサーと呼んでくれたまえよ」
「はい! プロフェッサー」
「プロフェッサー? あなたが、今回の調査の体調ってことかしら」
「そうです。アカデミーで教授をしています。専門はウィザードにまつわる遺跡の調査発掘、特に遺跡が建てられたの目的、なぜそこにあるのか、立地まわりがメインです」
「ふん。よろしくお願いします」
「ほ……。ええと。ソフィヤ先生、こちらが、前に話したオペラちゃんとコランさんです。二人とも冒険者、で、今はキャニーを探して旅をしています」
「そうだね。前に聞いていたとおりだ。しかしもの好きだね、キャニー学生を探してるなんて」
「キャニーのこと知ってるんですか?」
「ああ知っていますよ。彼は珍しく私のゼミを第一志望で出してくれたらね」
後でエメリーに聞いたところによると、アカデミーでは様々な専門家の先生が開くラボに入って、色んなことを勉強できるらしい。それで中でも、ソフィヤのラボは雑用ばかりやらされる上に、ソフィヤが全然いなくて勉強にならないハズレだという。
「私のところに来るなんて、私の功績を聞いて勘違いしたバカか、ゼミの実態を教えてもらう伝手もないボッチだけだからな」
なんてプロフェッサーは言う。
話し方やリズムが次々変わって、なんだかこんがらがりそう。
「ねぇ。なんでそんな面倒くさい話し方するのよ」
とうとうコランが耐えきれなくなる。
「すいません。どうにもクセになってるみたいで。できるだけ気をつけます」
「できるだけ……ねぇ」
「えぇ、できることしかできないんで」
なんだか妙な雰囲気になったちゃった。コランはすぐイライラしはじめるんだから。まったく。
「ねぇコラン」
「大丈夫よ」
コランも喧嘩を売る相手は選んでるみたいで、無茶苦茶になったことはないんだけど……はぁ。昔はこんなことで不安なったりしたかしら。
「…………あのぉ、お揃いでしょうか」
孤児院の玄関部分で話していると、奥から神父さんの格好をした男の人が出てきた。
「はい、今日はこの四人でお世話になります。よろしくおねが」
「なんかムカつく面してるわね。どっかで会ったっ──ッ」
今日のコランは絶好調だったから、軽く足を踏んでおく。
「なにすんのよ」
「なんで喧嘩するの」
「してないわよ」
「大丈夫ですか?」
首をかしげる神父さん。
「え、ええお構いなく」
わたしは構うんだけど。
これ以上続けてもしょうがないってことで、神父さんが用意してくれた部屋へ。わたしとコランで一部屋、プロフェッサーとエメリーで一部屋。
「孤児たちは大分前に、別の孤児院に移動させたので、部屋が余ってるんですよ」
入口にある大きな講堂の奥から、居住棟の二階へ行って、コの字の端の部分へ。
「オペラちゃん、どうしたの?」
「気のせいかな。誰かいたような」
ふと視線を感じて後ろを振り返ると、角の向こうに誰かが引っ込んだような気がする。まぁいいか。
「幽霊でもいましたか? 無理もない、この孤児院の地下にはたくさんの神父さんだった人たちが、眠っているらしいからね」
「ひっ、きっと気のせい、ですよ」
「そうよオペラちゃん、幽霊なんているわけないわ」
「果たしてそうですかな? 人の魂は死んだ後どうなるのか。肉体は朽ちて消えていきますが、それはバラバラになって別のものになるというだけです。では、魂は、肉体にやどっていた心は。なくなるなんて、それこそありえない。そう考えられはしないだろうかね」
お芝居みたいにポーズをとるプロフェッサー。考えられはしないかって言われても、分かんない。でも、確かに、死んだら何にも無くなるってのは寂しいよね。
「おっしゃるとおりです。人はただ生きて死ぬわけではないですから」
「神父ともなれば一家言ありますかな?」
「いえいえ、生グサ神父ですから。まぁただ、死んだら完全にいなくなると説いたところで、いいことがないことは確かです。いるかいないか、学者先生の前でこういうのもなんですが、証明することは正しくないのです」
「いい話を聞けたな」
そんな何だか分かるような分からないような話を聞きながら、部屋に荷物を置いて食堂へ行く。
ご飯っご飯っ。
神父さんの奥さんが料理をごちそうしてくれるって。
食堂に着くと、二十人くらい座れる長い机が三列あって、その真ん中に大皿や大鍋と人数分の食器・取り皿が並んでいた。
「ようこそ、お越しくださいました。ミルっていいます」
神父さんの奥さんミルさんと挨拶して、料理を囲む。長机の端の短い部分に神父さんとミルさんが座って、右側にわたしとコラン、左側にエメリーとプロフェッサーが座る。
「冷めないうちにどうぞ」
夕食の内容は、具材がゴロゴロの赤いスープにパン、それから川魚の蒸し焼きだった。
まだ湯気の立ち上るスープを一口。
ちょっと酸っぱくてあっさりした味の中に、色んな野菜の旨味甘みが溶け込んでいる。一口大のお肉も入っていて、噛まなくてもほどけるくらいに柔らかい。噛みちぎるのが大変なくらい弾力のあるパンをちぎって、スープに浸して、一口、二口、三口。
「どうかしら?」
「おいしいです!」
「とっても、おいしいです」
「それはよかったです。お客様が来るなんてなかなかないから」
「ミルは心配性ですよ。毎日おいしいって言ってるじゃないですか」
「コンさんは何作っても同じ感想ですから……」
「神父さん、コンさんって言うんですか?」
「あぁ。すいません。名乗り忘れていました。ええそうです。改めまして、孤児院長をしております。コンです」
「はぁ。ほら、この人適当でしょう?」
「こら、客人の前で何を」
「いいえ、この際だから言わせてもらいます。大体、部屋も二部屋で良いって言ってましたけど、そこの先生とエメリーさんは同じ部屋で良かったんですか?」
「ああ、大丈夫ですよ。フィールドワークの際は、お互い信用するのが大事なので……テントも無い状態で、野宿することもありますし」
「まぁそうなんですか?」
「ですよね。ソフィヤ先生?」
「もちろんさ。というか、言われるまで気づかなかった。なにせ獣のに襲われる心配がないってだけでずいぶん楽なもんで」
「それはなんとも……」
ミルさんは口元に手を持っていって、飲み込んだような素振りをする。
「学者先生ってそんな過酷な旅をするんですね。もしかして、オペラさんも?」
「普通の野宿くらいなら……」
大変だけど、山の中で寝るのはそこまでしんどくはない……けど虫が多いと嫌だ。
「オペラちゃんは結構タフな方よね。最初から山歩きもできてたし」
「そう?」
「そうよ。私なんか一人旅できるようになるまで、そこそこ掛かったんだから」
「じゃあエメリーは?」
「私も初めてはプレアカデミーの頃だから、十五か六ですね。オペラちゃんいくつでしたっけ?」
「今十四だよ。でも山に行くのは、村だと当たり前だったし。プチ家出して山で一晩明かしたのが最初? 八才くらいかな」
村から出て驚いたのが、基本みんな街の中で暮らしていること。山は一人で入るものじゃないって感じだし、街を柵が囲んでるのも村とは全然違う。ううむ。実はエメリーもコランも山で遊んだりしてないという。じゃあ何をして遊ぶんだろう。川?
「プロフェッサーはどうですか?」
わたしたちだけじゃなくて、プロフェッサーにも聞いてみる。旅に慣れているんだったら、小さい頃からあちこち出かけてたのかな。
「私かい? もうそんな小さいころなんて忘れちゃったよ」
「私も気になります。ソフィヤ先生って学生時代からフィールドワークメインだったんですか?」
「あー、学院時代の話をするかね? そうですねぇ。研究室にいないのは最初からだったなー。うん。なにせ筋金入りのプロフェッサーだったんでね」
「先生その時は学生だったじゃないですか」
「いやいや、私レベルの研究者になるとね……あるんだよ、ね」
「真面目に答える気がないんですね」
「ひどい言い草だ。君に対してはまだ信頼貯金が残っているはずだったんだが」
「あんまり適当なこと言っていると、その内ご専門の権威も失墜しますよ」
「ご心配ありがとうございます」
「どうして私が組む先生ってこう、適当というかお調子者というか」
ドンッ。
エメリーが小さい声で愚痴をこぼすと同時に、コップを打ち付ける音がする。
「ほんっと大変ですよね」
「えーっと、ミルさん?」
「こっちが真剣に話してるときも、適当なこと言ったり、大事なことはぐらかしたり、他国から来た元スパイかってくらい昔のこと教えてくれなかったり、分かります分かります……分かりますよっエメリーさん」
なんだか様子がおかしい。どうしちゃったのミルさん。
「お、おい、それ酒じゃないか?」
神父さんがコップと瓶を見て言う。
「コンさん……」
「は、はい」
「あなたねぇ。いっつも私に隠し事しすぎなんですよ。えぇ。今回お客さんを迎えるって言ってくれたのもギリギリだったし。そもそも、孤児院の運営のことも勝手に決めるし、いくらお金必要なのかとか、全然全然ぜんぜーん教えてくれないし」
「まぁまぁ。今はお客さんの前だからさ」
「誰のせいだと思ってんですか! 表出るか!」
「い、いやだから」
「文句あるなら、表出るか!」
うーん。これは修羅場ってやつだ。
あっプロフェッサーが逃げてる。卑怯だぞ! キャニーみたいだな。うん? キャニーだったら逃げるのすらできないかも。
そんなわけで、楽しい食事の時間は終わり、みんな(プロフェッサー抜き)でミルさんが充電切れするまでなだめたのだった。そして、色々なものを吐き出して意識を失ったミルさんを介抱する神父さんを見送って、その日は終了した。




