温泉旅行 1
ハイエルちゃんが合流したところで僅かながら物見遊山とする。
単に温泉に入るだけでは物足りないらしく、案内せよとゴネられたからだ。
では、駅から民家が並ぶ道を歩いて行き、脇道から少し坂道を登って、ゴルゴダの丘でなく、見晴らしの良い展望台へと足を運ぶ。そこには間違っても白骨死体は無い。
――紅葉に彩られた山々と澄み切った青い空。
「随分と、いい天気ねぇ~」
「チハルちゃん。見て見て――綺麗な紅葉がいっぱい」
私が住んでいる町より標高が高いせいか、少し登っただけにも関わらず遠くに見える民家と山々、鮮やかな朱墨色に囲まれて見るものを喜ばせてくれる。
それに心地良い秋風と日差しが相まって何とも言えない感じを与えてくれた。
「これが見たかったんでしょ。ハイエルちゃん」
「うん。そうだよ」
帰りはロープウェイで温泉街へと下りていく。
ゴンドラに乗り込んでガラスにへばりつく。ハイエルちゃんとロン。
ロンもなんだかんだと楽しんでいる。その姿を眺めて嬌笑してしまう。
私はゴンドラも良いがチェアリフトの方が好きだ。二人乗りの座席に安全バーのみというスキー場にあるやつ。雪の無い季節に乗るとスリル満点。あの落ちそうな足下がすくむ感じが楽しいし、風に当たりながら山頂を目指すのが何となく良い。
前に乗ったことがあるが、どっか別のところで乗りたいなと思う。
「さて、次は滝だね」
温泉旅館が並ぶ場所から少し離れたところに滝がある。
と、ロープウェイ乗り場で入手した観光ガイドの地図に書いてあった。
ここからそんなに遠くは無い。ハイエルちゃんの足ても多分、行けるだろう。
ハイエルちゃんは見た目と違い疲れ知らず、元気よく滝が見える場所まで辿り着いた。
「はぁーい。ここで修行僧が滝に打たれるのですね」
「いや。あれ、修行僧の人って、あまりやらないから、今だとアクティビティとして観光客が体験するのはあるけど、ここではやってないよ」
それでも滝に打たれたいなどと言い放ったならば、置いて行こうと考える。
「そうなんですかぁ~。寂しいですね」
こう言うところは普通でよかったと胸をなでおろす。
「うん。楽しみました。そろそろ、お昼ですね。チハルちゃん」
「さて、なにを食べようか。……ハイエルちゃんは嫌いな食べ物ってあるの?」
「なんでも食べるよ。チハルちゃん」
とは、言っているが彼女にゲテモノを食べさせることはないので、観光地に行ったなら、おそば、うどん、ラーメンあたりが無難かなと考えるのが普通だろう。
観光地でピザやパスタを見ることはない。タコ焼きも案外見ないのだ。
しかし、観光地といえば、ご当地ソフトクリームは見逃せない。だが、冷たい食べ物はロンが嫌がる。となれば……
(……よし、お団子食べて、昼はざるそばセットにしよう)
調べてあるお蕎麦屋さんは、少し遠いので小腹はお団子で補充。
それと店内にはロンを連れて入れないので、ロンのお昼ご飯も買って行こう。
「それでは、温泉旅館がある方へ行きまして、お昼前にお団子を食べましょう」
『おぉぉ。チハルちん。お団子食べられるのかぇ』とロンがぴょんと跳ねる。
『うん。売っているらしいよ』と私は念話する。
「チハルちゃん。お団子ってなに?」
「たしか、うるち米か、もち米で作った白玉だったかな。それに色がついたものや、上にタレやあんこなどが塗ってあって美味しいもの」
「うん。食べたい!」
「それじゃ。少し早歩きで向かおう!」
と、呼び掛けて(てくてく)歩いていく。
――温泉旅館を目指して歩いて行くと見えて来た。
古い歴史ある建屋は、漆喰と焼杉の黒い板の壁で覆われ、湯けむりが立ちのぼり、ゆらゆらとした硝子戸が小川を挟んで左右に並ぶ、雅俗な情景。
夜になると温かみを感じさせる灯かりで照らされる写真で見た。昔のお宿がそこにある。
まさか、前回来たときに駅の反対側に、こんな凄い温泉旅館が並ぶ場所があったなんて思いもしなかった。見れて良かったと改めて自分に感謝した。
ロンも温泉旅館が並ぶ景色に関心する。
『うむ。綺麗じゃのぉ~』
「わぁぁあぁ~い。チハルちゃん。これですよ――これ!」
「ふっう~」と吐息する私。
残念だが前回はこっちの旅館じゃないんだよ。
(そんなことは知っていたさ)
あとでユイナさんから教えてもらって笑われたんだから。
(そっと隠していた私の秘密)
あれはねぇ~、守護神様から教えてもらった祠がある神社も近かったんだから仕方ないんだよ。目的がそれだけだったんだから良いのだ。
でも、あとでまた来ようと思っていたが、こんなに早く来れるとも思っていなかった。
「……うん。良かったね。ハイエルちゃん」
それから木橋を渡って、お団子を売ってるお店に向かう。
「チハルちゃん。私はみたらし団子が良いです」
「やっぱり無難なところを選ぶね。それじゃ。私はあんこかな。ロンの分はヨモギの三色としますか。ハイエルちゃんは適当に座席を確保してね」
「うん。お願いします」
『チハルちん。ありがとうなのじゃ』
ロンも目を輝かせて喜んでいる。
ハイエルちゃんとロンが店の外にある長椅子の席を探す。
平日だと言うのにそこそこ人が多い。でも、こういうところって、観光ツアーの団体さんがあんまりこないんだねと思ったりする。……団体さんが来るなら夜か。
青空の下で――お団子を食べて、ほうじ茶を頂きながら、そよ風に佇み風景を楽しむ。
ひと息ついて、再び詮索。
「次は向こうにお寺があるみたいなので、そっちの方へ行って見ようか?」
「お任せします。チハルちゃん」
『寺も楽しみじゃのうぉ』
道をひとつ変えれば、民家が立ち並ぶ通りに出る。少しだけ坂道を歩いて行く。
すると石段が見えて来て左右にはお地蔵さんが置かれているところに行き着く。
ロンは石段をさきにぴょんぴょんと楽しげに登っていた。
ハイエルちゃんには少し段差があり大変そうなので私が手を繋いで一緒に登る。
「うんしょ。うんしょ」と無事に登り切って、少し呼吸を整える。
ひと息ついてから目の前の山門を抜けて、砂利道を歩き本堂へと進む――途中の手水舎で手だけ洗って、……ハイエルちゃんに「なぜ、手を洗うの?」と訊かれたので、清めるためとだけ言っておいた。
清めると言っても、宇宙人には意味が伝わらないので「手洗い消毒」と付け加え置いた。彼女は、にこっと笑って「ふぅぅ~ん」と言ったが、理解してくれたかは分からない。ちなみに手水舎での作法は、手を洗って口中を濯ぐのだが、私は手洗いだけしかしない。
それから私たちは本堂の前に立ち一礼してから賽銭箱に小銭を入れて参拝する。
(……にゃむ、にゃむ)
脇でロンも目を瞑り祈る。ハイエルちゃんも真面目に拝んでいた。
――参拝を終えて周りを見る。
せっかく、ここまで登って来たんだし、ほかにも見てから戻ろう。
辺りをきょろきょろすると、少し離れたところに宝物館を発見する。
宝物館の受付で入館料を払って、みんなで中に入って行く。
……ここに仏像や掛け軸などを隠してあったか。
順路に従い、私とハイエルちゃん、ロンが展示物を眺めて徘徊する。
ロンが気づいて、ある場所で立ち止まった。
『チハルちん。これなぁ。……これ、見て置いたほうが良いのぉ』
「この浮世絵、綺麗だね。え、そっち……」
ハイエルちゃんに気づかれないようにそっと近づいて、ロンが見つめる絵巻物を確認する。
「――あぁ。これは……」
ほぉぉっと驚く。
そこに描かれていたのは、――神獣らしきものと鎧を身に着けた武士たち、反対側にはおどろおどろしい、物の怪の類いもいる。
――躍動感ある戦い。
――その絵を見てすぐに分かった。先代の人達だと。
そのことをロンには話していない。珠江おばあちゃんから口止めされているからだ。ロンは長い間眠っていたので、ここに描かれている人達のことを知らないはず……それだからか、ロンは目を潤ませて眺めていた。
その絵の中には聳孤様が描かれている。あとで聳孤様に訊いてみれば、何か知っているかも知れない。
こう言う記録があることも知らなかった私とロンは、目の前の絵巻物をじっと眺めた。
「ふぅ~ん。妖術を使う者たちの異戦録ですかぁ。凄いですね。チハルちゃん」
いきなりハイエルちゃんに声を掛けられて「うぁあ!」とびっくりする。
「あっ! チハルちゃん、ここの端に小っちゃく描かれているのミディアルお姉さまですよ」
「うっそだぁ~」とつい、口にしてしまった。
「あれ!? そう言えば…… ハイエルちゃん。ミディアルって何歳なんですか?」
「お姉さまには内緒ですよ」「うん。分かってる」
「えぇーと、たしか、そろそろかなぁ、二千歳くらいになるはずです」
「……それじゃ。本物?」と絵図に掛かれた白髪の女性を指差す。
コクコクとうなずくハイエルちゃん。
「うっそだぁ~」と再び言っておく。他人のそら似だ。多分。……本人を連れて来て確認しなければ信じませんから。
ハイエルちゃんは、てへっと笑いやがった。
「でも、年齢は本当ですよ。ちなみに私は二百歳ですから。チハルちゃん」
こやつばばぁーか。ばばぁだったのか。だから、私のことを『ちゃん』付けで呼ぶんだぁ~こやつ。
「あー。チハルちゃん。今、私のことを目で『ばばぁ』と言いましたね?」
思いっきり首を(ブンブン)振るチハル。その姿を呆れて見ているロン。
少しムッとするハイエルちゃんであった。
こんばんわ。ラシオです。
読んでくださってありがとうございます。




