宇宙人なのね 2
――そして私たちは、被害にあった現場にいる。
ユイナさんはその痕跡からすぐに害獣を特定した……。
「シカ」だそうだ。
「シカですか? シカって? あの鹿」「そう。あの鹿です。チハルさん」
「ユイナ。鹿ってさぁ。ここら辺におる?」
「本当はこの周辺では見かけないはずですね。もっと山の奥にいると思いますが、ここ最近の異常気象でエサが不足して住宅地までくることは稀にありますよ。私の住んでいる地域なら、たまに熊などは目撃されますがね。そうそう、アライグマも出ますが近づくと危険ですよ」
マサミちゃんはコクコクとうなずき関心する。
「はあ、ユイナは詳しんやな」
「凄いですね。ユイナさん」と私も言う。
……そういえば、彼女について知らないことが多い。
温泉街に住んでいるからてっきりそっち関係の家の人かと思っていたが、いろいろと訊いて見れば、父親は公務員で市役所勤め、町の害獣対策の担当をしているらしく、おじいちゃんが猟師をしていると訊いて、それなら詳しいはずと納得した。
ふむ、ミディアルたちはこれを知ってて私たちに依頼したのであろうか。
……邪推している暇はない。とっと終わらせて早く帰ろう。
『チハルちん。例の護符を使ってみらたどうなのじゃ』とロンから言われる。
二人に聴こえないよう念話でロンに返す。
『あれね。でも、護符で鹿を見つけらるの?』
『そっちを探すよりも妾たちは宇宙人のほうを探すのじゃ』
ロンは少し呆れる。
『そうだよね。そっちも探さないといけないよね』
そこで私はアライグマのことで盛り上がっている二人に訊いてみる。
「あのぉ。二人ともちょっといい。宇宙人の方も探さないといけないから、ロンが気になるところを見つけたみたいなの。だから、私はそっちを探すね」
マサミちゃんはユイナさんに訊いた。
「それな、リディアルさんが言ってたやつだよね。ユイナ」
「そうですね。そちらも探さないと行けないんですよね」と吐息するユイナ。
「そうなんだよね。だから宇宙人の方は任せてよ!」
マサミちゃんが私を心配する。
「チハル。ひとりで大丈夫なのか?」
「リディアルさんが言っていた話では凶悪な宇宙人では無いらしいし、いざとなれば、聳孤様を呼んで逃げて来るから安心して」
「そうか。まずは様子を見るってことか」
「うん。そうする。もちろん、鹿の方も探すのは協力するからね」
そこにユイナさんも意見する。
「チハルさん。鹿のほうは私たちだけでは何もできないですよ。罠を使って捕獲するか、猟師に依頼するしか、ないのでこの地域の市役所に行って相談した方が良いかと」
今の状況を冷静に説明するユイナさんはマサミちゃんの顔を見る。それはマサミちゃんに自分たちも協力するべきかの確認のようだ。
「そうなんや。みんなで宇宙人を探すって、どうやって?」
マサミちゃんが訊いた。その様子から見るに彼女たちが探すには守護神様から教えてもらっていたらしい。……となれば、この近くには守護神様がいる祠はない。
かと言って各々が神獣を呼び出して探すとなると人の目に触れるため、どうかと考える。
「では、そちらはチハルさんにお任せして、私とマサミさんとで近くの山に鹿が来ていたか調べます。そこまで手掛かりを見つけておけば、これで一旦、終わりでも良いかと思いますがどうでしょう」とユイナさんが言い出すと「それじゃ。何も、もらえないんじゃ」とマサミちゃんも言う。
そこでユイナさんがこう言った。
「いいえ。ミディアルさんは私たちが直接、捕まえなくてはいけないとは言ってませんので、協力して捕獲したことにすれば良いかと思いますが……」
「それ、大丈夫なん?」
マサミちゃんが確認する。
「ですから本命は宇宙人ですよ。わざわざ、害獣と絡めてくる辺りから何か手掛かりを教えてくれただけかとも思いますけどね」とユイナさんは言った。
「うわぁ! 面倒くせぇーことをするんだねぇ~」
マサミちゃんが呆れる。
(……ふむ、ふむ。たしかに前回もそうだ)
彼女たちの振る舞い方は手が込んでいる。
私は二人に再度、確認する。
「それじゃ。お二人に鹿の方は任せて良いのかな?」
「ええ。むしろ、そちらの方が大変でしょうけど、ロン様がいらっしゃるのであれば、問題ないんでしょうね」
ユイナさんがロンを見つめた。
『うむ。妾に任せるのじゃ』とロンは胸をはる。
(……良いのかな。そんなこと言っちゃって、でも、ロンを信じて探して見るか)
そして二手に別れて調査は始まった。
鹿と宇宙人。若き乙女たちが探すことではないだが……。
*
私とロンはマサミちゃんたちと別れて反対方向の道へ宇宙人を探しに行った。
「ねえ、ロン。この護符は、どう使うの?」
ロンに走りながら訊いてみた。
『チハルちん。その護符はなぁ、どこでも良いから肌に直接触れて、あとは頭の中に地図を思い浮かべるのじゃ』
ロンに教えてもらった通り、まずは護符を握ってから先ほどリディアルに見せてもらった地図をイメージする。
頭の中にモヤモヤと地図が浮かび上がる。
「わぁあぁぁ。すっごい!」
背筋にぞぞっとしたものが走り抜けて頭の中がスッキリすると、やがて地図を目で見ているかのようにくっきりと見えた。――そこにひとつだけ気になる赤い点滅が現れる。
「ねぇねぇ。ロン。この地図に赤く(ピコピコ)点滅する印があるんだけど、これはなに?」
『おぉぉ。現われのじゃな。それこそが人でないもの。祠を殺める力を持つ者の証じゃ。そやつはどこにおる。妾に教えたもれ』
「うん。このまま真っ直ぐに行って、右に曲がった先の畑のようなところだね」
『あい。わかった。チハルちん。急ぐのじゃ!』とロンが速度をあげる。
私は体力はあるが、キツネに追いつくだけの脚力はない普通の人。
「ちょっと。ねぇ~ ロン。待ってよぉ~」とロンの後ろ姿を追った。
さきに着いたロンは民家のコンクリート塀の角から様子を見ていた。
私も追いついて息を整えると塀の端から、ゆっくりとその場所を覗く。
――畑を荒らすのか、はたまた、耕しているのか。
分からない謎の行動を取る鹿の群れを見つける。
一頭だけやたらデカいのがいるが、よくよく見れば、そいつが宇宙人ぽい。
……鹿の宇宙人が畑に作った畝に(苗らしき)植物を植えて、その後ろから普通の鹿たちが齧り取る。
『チハルちん。あれは何をしているのかのぉ~』
ロンにも理解できない光景。
『私が答えらる訳がないじゃない。しかも、あれって意味があるの?』と念話で答えた。
『何をしているのか分らんのじゃ』
ロンも考えるのを諦める。
『ロン。一旦、戻ってユイナさんたちと相談しましょ』
『それが良いかのぉ。ここで近づいても逃げられたら困るぞぇ』とロンも納得する。
――私とロンはその場を後にしてマサミちゃんとユイナさんを探しに戻った。
さきほどの場所に戻り、逆の方へと道を進む。段々と家が無くなり緑が増えて林が連なり、その間に畑がぽつぽつとある。
ちょうどタイミングよく、向こうも林の中から戻って来た。
二人は楽しそうに笑いながらこちらに向かって来る。
「おーい。チハル。宇宙人はどうだった」
マサミちゃんがさきに私に気づいてスキップしてくる。
そのあとをユイナさんがゆっくりと歩いてきた。
二人に状況を訊いて見ると、何でも鹿の群れが林の奥から来ているそうだ。
……それとおぼしき、足跡と糞を見つけたらしい。
こちらも二人に宇宙人が鹿の群れを連れて畑で何かをしていることを伝えた。
そのことを聞いた二人は頭に(???)クエスチョンマークを描く。
「そうだ……」
何かを思いついたマサミちゃんが鹿たちの捕獲用に漁業で使う網を持ってくることを話した。
ちょうど古い網がマサミちゃんの納屋にあるらしく、ピヨコも知っているとかで取りに行かせることを言う。
(……ロンもそうだが、マサミちゃんのところのピヨコも大変なんだね)
何となく同情する私。
――それから人目に付かない場所に移動してピヨコの到着を待つ。
飛んでくるわけではない。納屋で網を咥えたところで召喚すれば、簡単にもってこれることをロンから教えてもらう。……そんな便利なことが出来るんだね。
だが、ロンにはピヨコや聳孤様のように召喚はできない。
『そういえば、会ってから一度も見たことないよね?』
ロンに訊いてみると『妾にはそのような役目がないのじゃ』と答えた。
『別に出来ないことを責めたりしないよ。そういうもんなんでしょ』
『そうじゃ。チハルちん。すまんなぁ』
(こういう話はどっかに置いといてっと……)
『ほい、マサミちゃん。持って来たのん!』
可愛らしい声をあげて姿を現した――鳳凰ピヨコ。
その姿は黄金色のふわっと柔らかそうな羽毛がふさふさだ。
地面に「ドサっ」と置かれた刺し網。普通なら浮きをつけて海中に垂らして置くものだ。
たしかに、これさえあれば、一網打尽かも知れない。
「これや。ピヨコに乗って上から網を被せるから、ここはウチに任したれや」
マサミちゃんが言ってくれたのでお願いする。
張り切るマサミちゃん。その姿が眩しく見えた。
そこで鹿に似た宇宙人の「投網捕獲大作戦!」が開始された。
お読みいただきありがとうございます。
※捕獲の時間が始まります。




