鉄板です
鬱蒼と茂る木々の間を駆けて、私たちはやつを見つけた。
――地竜と呼ばれるもの。宇宙怪獣である。
平木に身を隠して様子をうかがう。
『みんな、準備は良いかなぁ?』と私が念話で確認を取った。
カイチと聳孤も近くでいつでも動き出せるように構えた。
「では、始めにロン。お願い!」と隣にいるロンをみた。
『先手は妾からじゃ』
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら地竜に近づく。こう遠目で見れば、極々普通のキツネ。
だが、その能力は絶大だ。
ある一定の間合いについたロンは、その場で呪文を始めた。
空中に大きな黄金色の半透明な小槌が浮かび上がる。
「ポン!」『小さくなれ。……《パルウゥス》』と小声で唱えた。
……「あれ?」と私は目を疑った。
『もう一度じゃ。小さくなれ。……《パルウゥス》』
ロンは再び唱えた。
「…………」シーンと辺りは静まり返ってなにも起こらなかった。
『うむ。だめじゃ』とロンは早々と諦めて戻ってくる。
少し目を潤ませ私を見てロンはこう言った。
『チハルちん。見たじゃろ。あれなぁ。あれ、だめじゃったのぉ』と可愛くすねて見せた。
「うん。分かっていたさ。何となくね」とロンの頭を撫でてやった。
……うん。これも想定済み。だから、みんなで来ているのだ。
私は念話でマサミちゃんに伝える。
『では、マサミちゃんどうぞ!』
『……はい、こちらマサミ。これより作戦に入ります』と返事が入る。
念話の向こうから聴こえる謎のプロペラ音。――これは私が注文したのだ。
『ぶうぅうぅぅ~。ぶうぅうぅぅ~』
ピヨコが唸りながら上空を飛んでくる。
ピヨコの上に乗っているマサミちゃんが、手に持っている段ボール箱をひっくり返した。
「ぴゅうぅぅぅぅー。ぴゅうぅぅぅぅー」と筒状の黒い物体が落下する。
そう「爆撃」。
宇宙怪獣と言えば、これだよ。鉄板ネタだ。
だが、空対空爆撃ほど高度は保っていない。
地竜の上と周辺に落下すると同時に破裂――。
「ボオォォォォーン!。ボオォォォォーン!。ボオォォボオォォォォーン!」
「グゥオォォオォォォォォォー!!」と地竜が雄叫びを上げた。
……よし。いいよぉ。何となく。
『おーい。チハル。ほんまに効いているかぁ?』
マサミちゃんが訊いてきた。
『大丈夫。やつはマサミちゃんたちに引き寄せられている』と伝えた。
目の前の地竜は「ドスン!、ドスン!」と足音を立て、こちらに背を向けて移動を始めた。
「よし!」私は立ち上がった。
「さあ、みんなぁー! 攻撃開始だ!」
カイチ・聳孤組と私・ロン組に別れて地竜の左右に展開。
少し離れた後方の位置からユイナさんが、魔法の弓矢で攻撃をしてくれるはず。
――私たち地上部隊が駆け付けたそのときだった。
「クオォォォォォォーッ」と奇妙な音と共に大気が揺れた。次の瞬間――。
「ビイィィィィィィィィィィ――!!」と地竜は青白いビームを口から吐いた。
……その衝撃的な状況を目にして、みんなが一瞬止まったかにみえた。
『おおぉぉおぉぉ!』と驚くマサミちゃんの声が念話を通して響く。
ロンが言う。
『チハルちん。あれには気をつけてなぁ。さすがに付与でも防げないのじゃ』
(……うん。聞いてないよ)
こういう情報が重要なんだよ。こういうのがとチハルは少し焦った。
ビームを吐き終わったのを見て――数秒ほど、ひとり惚けていた。
今の状況を見てて変な妄想を描いていたが、私は気づいてロンに訊いてみた。
「ねえ。ロン。さっきのビームは連続できそうなの?」
『うーん。分からんじゃ。しかし、チハルちん。あの光なぁ。なんらかの充電が必要なはずじゃ』とロンは自分の見た感じで答えた。
『うん。ありがとう。分かった。次に撃って来るまでに叩くね』
地面に伏せていた私は立ち上がって聳孤様に伝える。
『聳孤様もよろしくお願いします』
『うむ。お主たちの声は聴こえている』
『カイチ様もフォローをお願いします』と念話で伝えた。
『小娘。足でまといになるなよ』
返事が返って来ると、今度はユイナさんから念話が届く。
『チハルさん。ご苦労掛けます。次はわたしが攻撃します』
『オッケー! お願いします。ユイナさん』
遠くの方から発射音が聞こえた。
「しゅぱぁぁん!。しゅぱぁぁん!。しゅぱぁぁん!。しゅぱ……」
「ひゅぅぅぅぅー!。ひゅぅぅー!。ひゅぅぅぅぅー!」と高い音を立てて。
「タッ、タッタッタッ」と地竜の背中にユイナさんが放った矢が正確に命中した。
驚いた地竜が叫ぶ。
「ギャオォォオォォォォ――ン!!」
『よし!。チハルどの。いまだ!』
聳孤の掛け声と共に左右から斬り込む。
――それに反応した地竜。
「うあぁ!」チハルの方へとジャンピングアタックしてきた。
「ズッ、ドドドォォォォォォーン!!」地面が揺れる。
すぐに飛び跳ねた状態を察知して後退したチハルとロン。
「わぁあぁぁぁぁ」
『チハルちん。大丈夫かぇ!!』
チハルたちは地面をゴロゴロと転がった――。
『くらえぇぇぇぇー!』「ズブッ!」
地竜の着地のタイミングを見計らってカイチは背後側に回り、尻尾に向けて自分の角を突き刺した。
聳孤は地竜の後ろ足を狙って体当たりをお見舞いする。
『お主にはそっちに行かれては困るのだ!』「ドン!」
ロンが隣で心配するとおり、私は避けたタイミングで地面に転んだ。
「うん。大丈夫」と言ってすぐに立ち上がる。
今、私が手に握っているエモノは、元は新潟越後が鍛えし一振り。
――越後打刃物の鉞。
それをロンが授かった守護神様からの力で斧槍へと変化させた。
ちなみに、これはパパがキャンプ用で使用する薪割り道具。良く切れる。
鋼の刀身を華麗に振り回す――。
私は地竜との間合いをはかり、助走をつけて高く飛び上がった。
「うぉりゃぁぁぁぁー!」手ごたえはあった。
脳天をめがけて、――渾身の一撃!!。
地竜の眉間が裂けて刃が食い込む。
「さあぁぁ。もうぉ一回!」「ドスッ!」と斧槍を振り下ろす。
さらにだ!「ドスッ! ドスッ! ドスッ!」
「グオォォオォォォォ――ン!」
地竜はたまらず雄叫びをあげた。
そのまま口を開いて口蓋垂の辺りに青白い光を集めだす。
『むむむぅぅ―』それを狙って空から急降下してきたピヨコ。
すかさずマサミちゃんが地竜の口の中にバクダンをひとつ放り投げる。
「これでどうだぁぁー!」「ボフッ」
「バァアァァァァァァァァ――ン!!」物凄い破裂音が轟いた。
その衝撃を喰らってチハルは地竜から転げ落ちた。
「うぁわぁぁあぁぁぁぁー!」
しかし、地竜の眉間には斧槍が刺さったまま……。
その隙を見逃すまいと聳孤の必殺技が炸裂する。
……周りが一瞬にして真っ白く見えなくなった。
空から大きな雷撃が落ちた――「ゴギャギャギャャャアァァァァァァーン!!」
背筋が凍るような物凄い轟音が鳴り響く。
斧槍を避雷針として使い、地竜の脳を焼き切った。
「グズ、グズ……」と地竜から焦げた匂いが漂う。
「いい加減に死にやがれぇぇ―!」
それでもカイチは動きを止めずに今度は角を伸ばして地竜の腹部をグサリとつらぬいた。
「シュッ、タッタッタッタッン!」
ユイナさんの矢も遅れて次々と地竜の背中に刺さる。
「うりゃぁぁあぁぁ―!」
マサミちゃんの銛が地竜の手足を狙って空から投げ込まれ綺麗に刺さった。
そこにロンが試しにと言わんばかりに飛び出して呪文を唱えた。
『うむ。大きくなれ。……《エトマグナ》』
黒こげの斧槍が大きくなっていく――。
さらに巨大になって……その姿は、ギロチンの刃へと変わった。
「ズッドン!」麺切り包丁のごとく地竜の頭を切り裂いた。
……それと同時に地竜は「ドサッ!」と朽ち果てた。
――作戦終了。見事な連携で地竜を討伐したのだった。
「おおぉぉぉぉ!!」とチハルたちは勝どきをあげた。
ピヨコが上空を楽しそうに旋回する。マサミちゃんの歓喜の声が念話を通じて耳が痛くなるくらい聴こえてきた。
カイチと聳孤たちは互いに労い合った。
『見たか。我の力。ハハハ』と聳孤が笑う。
『相変わらず、すげえの』とカイチも認めた。
チハルとロンもはしゃいだ。
その後ろからユイナさんも駆け付けてきて、その場で笑顔を見せた。
勝ったのだ。またしても宇宙怪獣はチハルたちの手によって討伐された。
――そのあと、チハルたちは。
地竜の死骸をカイチと聳孤に任せて山の麓まで下ってきた。
そこで休憩を取ることにして私はロンにお願いして、バーベキューセットを取り出した。
(……ただの鉄板とその他諸々)
ここまで運ぶのに小さくしてもらっていたのでとても楽だった。
マサミちゃんからずるいと苦情がでる。でも、合流した時に私が二人の荷物を預かっているよね。
「さあ、始めるよぉ!」私はみんなで頑張ったので労うことは忘れない。
食材はそれぞれが持ち寄っている。
マサミちゃんが持って来てくれのは、とうもろこしとホタテ。タコはない。
ユイナさんは、いのししの肉と野菜を持って来てくれた。それ以外の食材はミディアルからもらった経費で調達済み。もちろん、二人が購入した分も精算した。
その他の道具類も並べて確認してから準備を始める。コンクリート・ブロックでかまどを作って鉄板を敷き、その上で焼き始めた。
「じゅ~うぅぅ。じゅ~うぅぅ」と美味しそうに炭火で焼ける匂いがする。
『チハルちん。たまらないのぉ』
ロンがよだれを垂らしながら焼けるのをじっと見つめていた。
チハルは焼き番をマサミちゃんに任せて、紙コップを取り出してお茶と果汁ジュースを入れる。
ロンの好きなポテトチップスの袋も取り出して、仮で作ったベニア板のテーブルの上に広げた。
そこにカイチと聳孤も姿を見せた。どうやら地竜の死骸は早めに片付いたらしい。
『間に合ったのぉ。カイチ』と聳孤は喜んだが、『しょせん。人の食いもんだろ。どれも同じさ』とカイチはあまり乗り気でない。
少し離れたところで、ピヨコはユイナさんからポップコーンをもらい美味しそうに食べている。
ある程度、食べ物が焼きあがってテーブルに並べたところで全員が揃った。
「それでは、勝利を祝いまして……乾杯!」
チハルが紙コップを空に向かって持ち上げた。
「「かんぱーい!!」」
それに合わせてみんなも祝杯する。
「チハル。どうや? ホタテ」
マサミちゃんが笑って、もうひと皿を差し出してくれた。
『チハルちん。お肉おいしいのぉ』
ロンがいのししの肉を食べ終えて、きゃぴきゃぴとユイナさんとじゃれあいだした。
……和気あいあいと楽しくバーベキューの時間は過ぎって行った。
美味しいものを食べて、みんなで楽しんでいる。
「あれ、宇宙怪獣ってなんやったのやろう」
マサミちゃんが言い出して、みんなで笑った。
『チハルちん。ご苦労様なのじゃ』
ロンは喜んで私に抱き着いた。
*
――ちょうどそのころ。西洋風の館の一室では。
銀色に近い綺麗な金髪を持つ双子の女性たちは、紅茶を楽しんでいた。
「はい。反応が消えましたね。お姉さま」
白いカップをテーブルに置き天井を見上げてリディアルはそう言った。
向かい側に座るミディアルもリディアルの顔を見て言う。
「そのようね。無事にチハルさんたちはやってのけたようね」
「はい。お姉さま」と女性たちは微笑んだ。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続きは次週をお楽しみに。




