毒舌のひつじ
それからのロンは頑張った。
――まるでトレーニングジムのCMのように、あっという間に出会った頃の姿に戻ったのだ。
『チハルちん。頑張ったぞぇ』
華麗に飛び跳ねて見せるロン。
「ようやく、キツネらしくなったよね」と私も喜んだ。
あのまま、日頃から座布団の上に座り、やがて石になってスフィンクスとして祀られるのではなかろうかと、しばし思ったこともあったが、健全なキツネに戻ったのだ。なにが、ロンにそこまでさせたのかは何となくお気づきと思うから、ここで詳しくは語らない。
それから残された夏休みを使って色々な準備を進めて、この日を迎えることができた。
そう、地竜討伐の日。だが、やつは宇宙怪獣だ。
ここに3人の女の子たちが迎え撃つ。――人里離れた山の中で。
現地入りのスタッフのように各方面からそれぞれが集まった。
「おはようございます。チハルさん」
「おはよう。ユイナさん」
「おはようさん。チハル。元気にしとった?」
「おはよう。マサミちゃん。こちらがユイナさん」
「おはような。ユイナ。先日はどうもありがとう」
「いえ、こちらこそ。マサミさん」
私たちはメール以外にも電話で十分に話し合っているから特に挨拶だけで終わっている。
集まったところで「せいぇぇのぉ」と私の掛け声で神獣たちを召喚した。
先に鳳凰ピヨコが現れた。
『のん。呼ばれたじゃん。マサミちゃん』
麒麟聳孤が空から現れて舞い降りた。
『聳孤。見参!』
そして、ロンの背後にそっと現れた。
『よう、デブぎつね。あっ』――カイチ。
その姿は、ふわふわした白い綿毛に覆われたひつじだった。頭には一角がある。
聳孤がカイチを見てこう言った。
『久しいのぉ。カイチ』
『聳孤。また、ロンとつるんでいるのか?』
カイチが嫌そうな表情を見せる。
聳孤が笑った。
『ハハハ。そうだ。ロンとはどうやら腐れ縁らしいぞ!』
『けっ。どうだかなぁ。で、そっちのデブ鳥は誰だ!』
『むむむ。鳳凰ですのん!』
パタパタを羽を動かすのをマサミちゃんがなだめている。
『あれ、あんずはどうした?』とカイチは驚く。
『母はおっちんだ。ほだら私がうまれただに』と寂しそうにボソッというピヨコ。
『ほう。亡くなったかぁ』
やれやれと言った感じでカイチが言葉に詰まると、ロンが声を掛ける。
『カイチ。妾も初めて聞いたときは驚いたのじゃ』
カイチは表情を歪めて毒づく。
『てめぇこそが、先に死ね。ロン!』
『カイチ。あの時は本当にすまなかったのじゃ』
ロンはカイチに向かって頭を下げる。
『いや、過去のことはいまさら、どうこういうことはねぇ』
カイチはそっぽを向いて言葉を加える。
『今度はちゃんとしてくれなぁ。ロン』
『あい、わかったのじゃ。カイチ』とほっとした感じのロンだった。
(……なんか壮絶な過去があるみたい)と聞かないでおこうと思うチハルたち。
その見た目とは違う雰囲気をだしたカイチに驚くばかりだった。
神獣たちの会話が終わり、それぞれが出発の準備をした。
カイチはその風采とは異なり、聳孤と同じく空を駆け上がることができるらしい。
……それを聞いて少しだけほっとするチハル。
今回の行動経路については、二人に連絡して確認を終えている。
相手は飛べない地竜。そしてこの先は濃い山地。
そう、どんなに暴れても気づかれることはない……誰にも見つからない場所。
「さあぁ。みんなぁぁー。出発するよぉぉー!!」と私は声をあげた。
「おぉぉー!」と掛け声勇ましく、一斉に空に舞い上がる。
傍から見れば、天気のいい山岳部の空に「ぷかぷか」と浮かぶ。三人娘。
だが、これからが大変なのだ。
しかし、どうしてこんなへんぴな場所に宇宙怪獣がいるかというと、それはミディアルたちのおかげでもある。
地球に飛来するときに上手く、落下地点をずらすことに成功したとか。ここから人里に向かって山を下りて町を破壊しながら進み、ミディアルたちのところまで行くには遠い。
また、落下して現在のところ。宇宙怪獣である地竜は地面に埋まったまま動かないと観測されたようで早めに討伐することになった。
守護神様たちの包囲網に検知されるには動き出してからになるが、ミディアルたちは宇宙を移動している時点でなんらかの発見する方法があり、軌道をずらす技術なのか、魔法なのか不思議な力を持っているようだ。
(……凄いね。敵対しなくて正解だよ)
そして今回もマサミちゃんは、宇宙怪獣に呼称をつけるかと思ったが自粛した。
――空を飛び、山脈の奥へどんどんと進む、私たち。
さきにユイナが気づき声を上げた。
「みんなぁー! あれを見てぇぇー!」
「おおぉ。いるねぇぇー!」と私が聳孤様の脇から下を覗く。
「おおきなぁぁー。チハル、あれを退治するん?」
マサミちゃんは驚いていた。
「そうだよ。だって宇宙怪獣だもん」
そこにはコンビニエンスストアが四軒くらい並んでいる大きさのデカいワニ。
いや、地竜が「でんっ」と地面にねばっていた。
硬そうな黒い鱗に黄色く鋭い目と白い牙が見える。どうやら目覚めたばかりで動きが鈍い。
「みんなぁー! 飛び跳ねるから気をつけてねぇぇー!」と私は二人に呼び掛けた。
トカゲのジャンプ力を過信してはいけない。手足の短いやつらは力強い脚力で垂直に飛び跳ねて胴体着陸する。しかも、尻尾を軸にその角度は自由に変えることができるやつもいる。
古代の大型恐竜はその骨格から自重に耐えられないため飛ばなかったと思われたらしいが、やつは宇宙怪獣であるがゆえに飛び跳ねる。
これが厄介だろうとミディアルの妹のリディアルが説明してくれた。
また、この説明に辺り、チハルのクレヨン画による解説が画像ファイルとしてメールにより送られている。
「ふふふ。分かってるよぉぉ」とユイナが返事する。
「うん。チハルぅぅ。警戒しとくぅ」とマサミちゃんも返した。
これが二人の間で面白おかしくうけたせいか、二人は仲良くなったらしい。
そんなことがあったとは知らずチハルは考えていた。
(……あの大きさでカメレオン並みの機動力は反則だ!)
だが、地竜であるから舌は伸びない。これが唯一の救いだった。
――偵察をすませた私たちは少し離れた場所に陣地を構えた。
ここから陸上組は、私と聳孤様とロン。それにカイチだ。
空中からはマサミちゃんとピヨコが担当する。ユイナさんは後方支援として離れた場所で指揮をとる予定。
互いに念話での同期リンクは済ませている。まるで無線機のチャンネルのように簡単に切り替えることができた。
「では……」と言いつつユイナさんが持つ守護神様から授かった力を借りて私とマサミちゃんに耐性能力の付与を施してもらった。
「うあぁ。これ凄いな。ユイナ。おおきに」
マサミちゃんも驚いている。
「ありがとう。ユイナさん」と私も笑みを返す。
「いえ、たいしたことはしてないですよ」
ユイナさんは少し照れた。
これで防御力強化と機動力上昇が得られる。また、疲労自動回復もおまけに付与してくれたのでとても便利な人だった。(……うんうん。これだよ)
前回の宇宙怪獣との戦いでは生身だったため、アザや擦り傷が多く残ってお風呂に入る時に苦しんだ。
また、翌日の筋肉痛もハンパないくらい酷い。いくら鍛えているかって筋肉痛にならないことは無い。それらを軽減できる付与の力は素晴らしい。
「それじゃ。いっちょうぉぉ。行ってみようかぁぁー」と私が声をあげた。
こんばんわ。ラシオです。
お読み頂いてありがとうございました。




