第13話 連続空き家完全燃焼事件 その4
全ての説明を終えた。都度挟まれる質問に答えながら話すことでかなりの時間を弄したが、それでも誤解無く伝えられた……と思う。
「霞はこれからどうなりますか?」
「アルバイトという形で調査室で働いてもらうことになります。包み隠さず言えば、これは保護であり監視です。それと同時に異能を制御できる為の訓練も行っていきます」
「被害に対する賠償は調査室で支払うッス。これは異能覚醒者保護費用として経費で落ちるのでご安心くださいっス!」
またいらんことを言う鉋ではあるが、お金のことはできるだけオープンにしたい。
こういうサポートはむしろ有難かった。
「なので、こちらとしても話を受けてくれる方が有難いのです」
「そうですね……霞、あなたはどうしたい?」
「私は……」
尋ねられ、俯いた霞がパッと顔を上げた。
そこには何かを決心した人間だけが作れる色があった。
「私、お世話になりたい。この力の所為で沢山迷惑を掛けてしまったから、その償いと、私みたいに異能のことで困ってる人がいたら助けたい……!」
グッと両手に力を入れる霞を見て頷く霞のお母さん。
僕達としても欲しかった返答がもらえたことで安堵した。
「ではすぐに手続きをしましょう。鉋」
「はいッス。こちらに記入をお願いッス」
手早く取り出された書類にしっかり目を通してから記入を始める霞。
うんうん、契約書への記入はしっかり読んでからでないとな。
暫くしてすべての記入や注意事項の説明が終わった。
その頃には外はすっかり夜だった。
時計を見ると22時になる少し手前。
「本当にすみません、長居し過ぎました」
こういうのは時間を置かずにいっぺんにやった方が良いという意識があったから時間を考えずにやり切ってしまった。
「夕飯もまだなのにこんな時間まで作業させてしまってすみません」
「いえいえ、今日くらいはファミレスで外食しますよ。ねぇ、霞?」
「いいね、お母さん。記念日ってことで」
出会った頃の陰鬱とした雰囲気はすっかり晴れ、二人とも明るい表情で話していた。
いつ家が燃えるか分からない不安と、いつ家を燃やしてしまうか分からない不安。
お互いが抱える不安が消えたのだから、今日は記念日と言ってもいいだろう。
「しかし夜も遅いことですから、うちの人間に送迎させます」
「遠慮は無用ッス!」
ということで押し切る形で調査室にいる部下を呼んで送迎をお願いした。
一先ず、今日はこれで終わりということで良いだろう……。
「では僕達はこれで。霞、これからよろしく」
「よろしくッス、霞ちゃん!」
「はい、よろしくお願いします!」
霞のお母さんにも頭を下げ、俺達は車に乗り込んで調査室まで戻ってきた。
□ □ □ □
ドカッと椅子に座り込んだ鉋が肺いっぱいに空気を吸い、でかい溜息を吐いた。
「お疲れ。今日は助かったよ」
「マーージで疲れたッス……隊長、晩飯どうするんスか」
「コンビニが開いてるだろ。寄って帰れば?」
「えー」
口をとがらせて不満げにこっちを睨んでくるが、部下の晩飯事情なんて知ったことではない。
「ところで霞ちゃんはうちで預かるんスか?」
「いや、うちじゃないよ」
「じゃあどこッスか?」
「蛭子のとこ」
僕の言葉にガタンと大きな音を立てて、鉋が椅子から立ち上がった。
「第壱実働部隊ッスか!?」
「蛭子が直接指導するようにって室長の判断。これでついに第壱実働部隊も蛭子のワンマン部隊じゃなくなったな」
「ひぇ~、いきなり副隊長ッスか……バイトなのに……」
「いや、別に二人目だからって副隊長にはならんから」
「流石にッスか」
「流石にッス」
などと駄弁りながらも報告書を書き連ねていく。
別に鉋は帰っていいのに、こいつは何をしてるんだろう。
「帰らないの? 多分、終わるの0時近くになるけど」
「あたしも経過報告書あるんスよ……例の人間花の」
「あぁ、経過観察になったアレか。第参調査部隊との共同のだよな。棚村さんに提出するんだろ」
「そうッス」
「じゃあなんで背もたれに体預けて天井眺めてんだよ」
「インスピレーションが……」
「報告書は小説じゃないんだよ」
テンプレートに合わせてあったことを書くだけのことであって、創作意欲を刺激されるような作業ではない。
「馬鹿言ってないで書けお前、棚村さんに迷惑掛けるなよ。僕の責任になるんだぞ」
「あたしの責任にはならないってことッスよね」
「人事と飯を食う約束が発生するぞ」
「うっ……わぁーかったッスよ……」
渋々と言った様子で机に向かい、キーボードをカタカタし始める鉋。
僕もさっさと終わらせて帰りたい……。
結局終わったのは0時一歩手前の時間だった。
鉋はまだうんうん唸っているが、僕が帰り支度をし始めたのを見て伸びをしている。どうやら今日はもう諦めるらしい。
「明日のあたしに任せたッス」
「あと20分で明日だけど」
「急いで帰るッス」
急いで原付のヘルメットを引っ掴んだ鉋が第弐調査部署を飛び出して行った。
事故らなきゃいいけど。
「僕も帰るかぁ……」
欠伸を噛み殺しながらPCの電源を落として部屋の電気を消す。
家に何か食べるものあったっけ……そんなことを考えながら駐車場の自分の車に乗り込んだ。
「コンビニ寄って帰るか」
シートベルトを着けてエンジンをかけ、車を走らせる。
煌々としたライトが道路を照らすコンビニの駐車場に車を停めて横を見ると見覚えのある原付が駐車されていた。
「あ」
「あっ」
別れて10分も経たないうちに鉋と再会するのであった。




