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人の卵が齎す異能と不幸について  作者: 紙風船


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第11話 連続空き家完全燃焼事件 その2

「多分犯人見つけた」

「はっや……」


 事務室に戻った僕の報告を聞いた鉋が呆れつつも驚いた声を上げた。


「米林(よねばやし)さん、近隣の中学……いや、高校の学生データ出せる?」

「いけますよ」


 僕のお願いに立ち上がったのはわしゃわしゃとした茶髪のパーマヘアーの女性、米林郁美(いくみ)さんだ。

 データ系は彼女がすぐに引っ張ってきてくれる。


「自転車通学の女子学生。ベージュのブレザーに黒いスカート。髪は……なんだ……クラゲみたいな感じだった」

「ウルフカットって言うんですよ、夜崎隊長」

「それそれ」


 呆れ顔の米林さんに言われて学ぶ。ウルフカットね、ウルフカット。


「ヒットしました。多分、この子じゃないてすか?」


 モニターを覗き込むと、確かに僕とすれ違った女子学生だった。


「うん、この子だね。名前は……霧原(きりはら)霞(かすみ)さんか。画数多いな……」


 僕の感想も右から左で米林さんはデータを調べていく。

 どうやら霧原さんは事件が頻発している文京区に住んでいるようだ。

 灯台下暗しというか、何というか。

 異能解放して直帰……そんな感じだろうか。


「よし、米林さんはこのまま警察側に手続き申請。家宅捜査入るよ。うちから代表して出るメンバーは僕と鉋ね」

「了解」

「了解っす!」


 やはり捜査となると警察という組織の手を借りざるを得ない。

 そういった分担を面倒臭いとも思うが、こうした譲歩があるからこそ異常存在を優先的に、しかも独占的に調査できるのである。

 餅は餅屋なのだ。



             □   □   □   □



 数日後。時刻は午前9時。今日は日曜日だ。

 手続きという義理を通し、警官同行の下、霧原霞の自宅へとやってきた。

 直接話すのは警官の仕事。

 その後、引き渡すのはこちらへだ。

 そして暴れた際の鎮圧もこちらの仕事である。

 ということで本日は第弐実働部隊の人員を数名引き連れてきている。

 勿論、霧原霞に刺激を与えないように隠れてもらっている。


「……ということで、ご同行願います」

「……」


 玄関に立つ霧原霞の顔色が赤から青、青から白へと変わっていく。

そして小さく、


「はい……」


 と答えた。


「ではよろしくお願いします」

「お疲れ様でした」


 敬礼する警察官に敬礼を返し、一歩、霧原霞の前に出てまずは名刺を差し出した。


「異常存在調査室という機関に所属する夜崎幽と申します。よろしくお願いします、霧原さん」

「は、はい……」


 手錠でも掛けて連行されるとでも思っていたのだろう。青褪めていた顔に少し赤みが戻る。

 半身を傾けて僕の車の方へと案内する。


「まずはお話だけ。とりあえず寒いので車入りましょうか。……とその前に、ご両親は?」

「母が……今は仕事で不在です。父は、ちょっと」

「分かりました。書き置きか何かだけ用意してもらって、それから行きましょう」

「分かりました……」


 一度家の中に引っ込んだ霧原は、しばらくして再び玄関まで戻ってきた。


「じゃあ行きましょう。あまり遅くならないようにします」

「こちらッス!」


 鉋が霧原の前に立ち、車まで誘導してドアを開けた。

 恐る恐るといった様子で乗り込む霧原だが、暖房の暖かさに張った肩肘を緩めていた。

 僕も寒いのでさっさと運転席に座る。鉋は既に助手席でシートベルトを装着していた。


「これから調査室の方へ向かいます。あまり怖がる必要はないので楽にしててください」

「汚くて狭いッスけどね」

「うるさいバカ」

「……ふふっ」


 僕と鉋のやり取りで霧原は思わず吹き出してしまったようで、慌てて口元を隠して居住まいを正していた。

 それをバックミラーで見ながら、心の中でガッツポーズをする。

 横目で見た鉋も満足そうに頷いていた。


 当然、これは作戦の一部だった。

 霧原霞の緊張を和らげ、異常存在調査室の印象を良くする作戦だ。

 このまま上手いこといけば保護という形に持っていけるだろう。

 実働部隊に入れれば、異能の扱いも含めて経過観察もできるようになる。


 暫く車を走らせ、白い大きな建物……異常存在調査室へと到着した。

 駐車場に車を停め、中へ入る。


「あ、夜崎さん。お疲れ様です」

「うん、お疲れ様」

「夜崎隊長、お疲れ様です!」

「お疲れお疲れ」


 すれ違う人達が声を掛けてくれる。

 別にわざわざ挨拶しなくてもいいのに、皆優しいから好き。


「人気者なんですね……」

「まぁ隊長は有名人ッスからね〜!」

「鉋、いらんこと言わんでいい」

「どーせすぐ分かることッスよ。霞ちゃん、隊長はね、あの人の卵時間の唯一の生き残りなんスよ」

「えっ……あの?」


 鉋の方を振り向かずに少し嫌な顔をした。

 僕自身はあまり吹聴してほしくない話題だ。

 勝手に知るのは構わないが、わざわざ言うようなことでもないし。


「鉋」

「分かったッスよ……」

「守秘義務ってのがあるんだから。そこはちゃんとして」

「了解!」

「……って感じだけど、普段は緩い空気でやってるからあんまり気にしないでね、霧原さん」

「あ、はい……っ」


 鉋が余計なことを言った所為でちょっとピリッとした空気にはなってしまったが、霧原さんの様子を見る限りでは悪印象はそれ程ないように見える。


 3人縦列で廊下を歩き、形ばかりの取り調べ室へとやってきた。

 部屋の中は普通に明るいし、窓もある。

 明らかにやばい奴以外を通す為の、異能者を刺激しない為の、比較的穏やかな部屋。


「これから色々聞かなきゃいけないことがあるけど、まぁ気を楽にして、答えられるものだけ答えてね」

「は、はいっ!」


 こうして異能容疑者、霧原霞の質疑応答が始まった。

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