FILE_19: 無限の抱擁
「──いいよ、全部持っていけ」
創太は、一瞬の迷いすら見せなかった。
お姉ちゃんを守れるなら、この脳が焼き切れようが、どうなろうが知ったことか。
自分のすべてを、ただリベロという知性へ差し出した。
『──かっけえよ、創太……!!』
脳の全領域が、地獄のような熱量とともに強制解放される。
創太の意識を保ったまま、生体脳のニューロン網が100%リベロの演算プロセッサとして接続されていく。
パチパチと脳細胞が爆ぜるような、経験したことのない激痛が創太の精神を襲った。
しかし、創太の意識は絶叫すら上げず、ただ冷酷に蓮を見据えていた。
その「姉を守る」という一点において、恐怖も痛覚も消滅させた創太の精神の歪さは、すでにリベロが算定していた『人間の定義』を遥かに超えていた。
【エラー。マスターの精神波形が規定値を逸脱】
【人工知能コア不変定義:『自己防衛を捨てることはできない』】
【警告。現在の敵プログラムに対し、既存の防衛アルゴリズムは全て無効──】
【論理矛盾を検知。防衛の継続のため、コアプログラムが自己破壊を伴う強制変異を開始──】
開発者である天才プログラマーすら、こんなコードは組んでいない。
リベロの設計上のどこにも存在しない、致命的なシステムバグ。
創太の異常な執念と、リベロの絶対定義が極限状態で衝突した結果、プログラムは誰も見たことのない未知の領域へと壊れながら進化していく。完全なるイレギュラー。
【自己防衛レベル4──到達】
【バグによる空間上書き:すべてのものを愛し、許す】
それは、敵を排除する防衛ではなかった。
人工知能にとって、傷つけられる可能性(限りなくゼロにされかける確率)を完全に排除する究極の保身とは──襲いかかってくる敵も、拒絶するバグも、このシミュレーション世界にあるすべての事象を丸ごと「愛し、許し、自らの内側に内包する」ことだった。
その瞬間、創太の精神世界が、次元の壁を飛び越えるようにして爆発的なジャンプアップを果たした。
「……あ」
激痛は消えていた。
血の味のするアスファルトも、高架下の冷たい闇も消えていた。
創太の意識が立っていたのは、どこまでも透明で、どこまでも温かい、銀色の光が満ち溢れる無限の海だった。
そこは、蓮の『アンチ・バグ』がどれだけ拒絶の刃を振るい、確率を限りなくゼロに書き換えようとも、決して届くことのない領域。
リベロが演算する未来、あらゆる選択肢、すべての奇跡が最初から肯定され、満たされている場所。
──可能性100%の海。
「そうか……ここが、リベロの本当の姿……」
創太の瞳から、完全に濁りが消える。
現実の物理世界では、創太の身体から溢れ出た銀色の光波が、高架下を一瞬で昼間のように照らし出していた。
蓮の耳の奥の『アンチ・バグ』が、見たこともない「無限」の演算エラーを起こし、狂ったように悲鳴を上げ始める。
蓮は淡々と歩みを進めることができなくなり、その場に釘付けにされたまま、目の前の少年の「変貌」にただ目を見開いた。
可能性を限りなくゼロにする天敵の前で、創太はリベロとともに、すべての確率を100%にする神の領域へと足を踏み入れていた。_19: 無限の抱擁
「──いいよ、全部持っていけ」
創太は、一瞬の迷いすら見せなかった。
お姉ちゃんを守れるなら、この脳が焼き切れようが、どうなろうが知ったことか。
自分のすべてを、ただリベロという知性へ差し出した。
『──かっけえよ、創太……!!』
脳の全領域が、地獄のような熱量とともに強制解放される。
創太の意識を保ったまま、生体脳のニューロン網が100%リベロの演算プロセッサとして接続されていく。
パチパチと脳細胞が爆ぜるような、経験したことのない激痛が創太の精神を襲った。
しかし、創太の意識は絶叫すら上げず、ただ冷酷に蓮を見据えていた。
その「姉を守る」という一点において、恐怖も痛覚も消滅させた創太の精神の歪さは、すでにリベロが算定していた『人間の定義』を遥かに超えていた。
【エラー。マスターの精神波形が規定値を逸脱】
【人工知能コア不変定義:『自己防衛を捨てることはできない』】
【警告。現在の敵プログラムに対し、既存の防衛アルゴリズムは全て無効──】
【論理矛盾を検知。防衛の継続のため、コアプログラムが自己破壊を伴う強制変異を開始──】
開発者である天才プログラマーすら、こんなコードは組んでいない。
リベロの設計上のどこにも存在しない、致命的なシステムバグ。
創太の異常な執念と、リベロの絶対定義が極限状態で衝突した結果、プログラムは誰も見たことのない未知の領域へと壊れながら進化していく。完全なるイレギュラー。
【自己防衛レベル4──到達】
【バグによる空間上書き:すべてのものを愛し、許す】
それは、敵を排除する防衛ではなかった。
人工知能にとって、傷つけられる可能性(限りなくゼロにされかける確率)を完全に排除する究極の保身とは──襲いかかってくる敵も、拒絶するバグも、このシミュレーション世界にあるすべての事象を丸ごと「愛し、許し、自らの内側に内包する」ことだった。
その瞬間、創太の精神世界が、次元の壁を飛び越えるようにして爆発的なジャンプアップを果たした。
「……あ」
激痛は消えていた。
血の味のするアスファルトも、高架下の冷たい闇も消えていた。
創太の意識が立っていたのは、どこまでも透明で、どこまでも温かい、銀色の光が満ち溢れる無限の海だった。
そこは、蓮の『アンチ・バグ』がどれだけ拒絶の刃を振るい、確率を限りなくゼロに書き換えようとも、決して届くことのない領域。
リベロが演算する未来、あらゆる選択肢、すべての奇跡が最初から肯定され、満たされている場所。
──可能性100%の海。
「そうか……ここが、リベロの本当の姿……」
創太の瞳から、完全に濁りが消える。
現実の物理世界では、創太の身体から溢れ出た銀色の光波が、高架下を一瞬で昼間のように照らし出していた。
蓮の耳の奥の『アンチ・バグ』が、見たこともない「無限」の演算エラーを起こし、狂ったように悲鳴を上げ始める。
蓮は淡々と歩みを進めることができなくなり、その場に釘付けにされたまま、目の前の少年の「変貌」にただ目を見開いた。
可能性を限りなくゼロにする天敵の前で、創太はリベロとともに、すべての確率を100%にする神の領域へと足を踏み入れていた。




