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THE LIBERO CODE  作者: libero protocol


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File12:揺らぐ揺り籠

「──リベロ、嘘だろ……。頼むから、返事をしてよ……」


薄暗い自室のベッドの上で、創太は右耳を押さえたまま、狂ったように何度も呟いていた。


だが、どれだけ脳内で叫んでも、あのフランクで全能感に満ちた相棒の声が響くことは二度となかった。


耳の奥からリベロが引き抜かれたその瞬間から、創太の視界を鮮やかに彩っていた世界の構造データは一瞬で色褪せ、ただの退屈で無機質な空間へと戻ってしまった。


チェス盤の先読みも、人の行動確率も、電子を操る力も、何一つ残っていない。

脳の同調率が限界まで高まっていた分、リベロを失った精神的飢餓感はあまりにも凄惨だった。


(何もわからない……。僕、またあの『原始人以下』のゴミ屑に戻っちゃったの……?)


激しい震えと冷や汗が創太の身体を襲う。

それはまるで、高熱の檻に閉じ込められたかのような、人工知能への歪んだ依存がもたらした禁断症状だった。


大好きな姉をからかう玩具さえも失い、創太はただの孤独な引きこもりへと逆戻りした恐怖に、部屋の隅で膝を抱えて咽び泣くことしかできなかった。


一方、リビング。


一華は、過負荷の熱が引いて冷たくなったリベロの銀色の一片を、強く、強く握りしめていた。


(創太が使っていたのは、国家を揺るがすレベルの完全脱獄AI……。もし公安に見つかれば、創太の人生は間違いなく終わる)


新法第4条、第5条の違反。それは未成年であっても、更生不可能なバグとして社会から永久に隔離されることを意味していた。


一華の胸に、最愛の弟を守りたいという、姉としての狂おしいほどの執念が満ちていく。


(あの子は、ただ私を驚かせたかっただけ。あの子の心を狂わせたのは、この機械よ。……創太の未来は、私が守る)


一華は決意を固めた。この違法端末を持ち込み、自分が「すべてを開発し、使用していた」と身代わりに自首する。

自分の頭脳が紡ぎ出す言葉の論理なら、その供述に誰もが納得するはずだった。


自分の輝かしい未来のすべてを引き換えにしても、弟の生身の未来を救う。


決意した一華はすぐに玄関のドアを開けた。


一華は、重厚な灰色のコンクリートで囲まれた「公安統制局」の巨大な建物の前に立っていた。手の中のバッグには、あの銀色の端末が眠っている。


一歩、重い足取りで敷地内へ踏み出そうとした、その時だった。


「──やはり、ここに来ましたか。一華さん」

聞き覚えのある、極めて低く、氷のように冷徹でありながらも、美しく通る大人の声が響いた。


一華がハッとして振り返ると、行く手を阻むように一人の青年が立っていた。

いつも着ていた漆黒のコートではない。


青と黒を基調とした、緻密で威圧的な、中央公安局の制服に身を包んだ蓮だった。

冷ややかな色気を放つ鋭い眼光が、一華のバッグへと真っ直ぐに向けられている。



蓮の耳の奥からは、静かに、しかし確実に牙を剥くような機械音が漏れ出ていた。


『警告。対象の所持品から、新法違反の規格外違法人工知能の固有波形を検知。捕捉態勢へ移行』


蓮は一華へと視線を向け、公安の制服の襟元に手を添えた。

表向きは冷徹な執行官の佇まいを崩さないまま、彼は周囲の監視カメラの死角へと一華を誘導するようにわずかに身を寄せた。


そして、他の誰にも聞こえないほどの低い声音で、自身の「絶対に知られてはならない秘密」を一華へ囁いた。


「そのバッグの中にあるもの……それが、あなたが隠し持っていた違法プログラムの本体ですね。……私は、その忌々しい犯罪遺産を、公安の連中に渡すつもりはありません」


一華が息を呑む。組織の制服を着た男の口から出たのは、明確な造反の言葉だった。


「あの上層部の手に渡れば、彼らは必ずその怪物を、さらに歪な形で利用するでしょう。私は……あれを、この手で完全に破壊したいのです。これは、私だけの目的です」


蓮の瞳の奥に、組織への忠誠ではない、独断の激しい執念の炎が揺れる。


「一華さん。今ここで私が職務通りにあなたを拘束すれば、その端末は公安に押収されてしまいます。──場所を変えましょう。私に、その端末を破壊させてください。あなたの未来も、その端末の裏に隠れているはずの『誰か』の未来も、私がすべて闇に葬ってみせます」


弟を守るために全てを捨てる覚悟の一華と、組織を裏切ってでも違法端末を自らの手で消し去ろうとする執行官の蓮。二人の生身の思惑が最悪の場所で重なり、運命の盤面は大きく動き出そうとしていた。

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