第四十一話 王都からの招待
王妃からの招待状は、冬の初めに届いた。
白い封筒に王妃宮の紋章。中には、春の慈善市にミレイユの薬草製品と読み書き寄り合いの成果を出展しないかという提案が入っていた。
以前の私なら、すぐに光栄ですと返事を書いただろう。
今は、広間に招待状を置き、皆を呼んだ。
「王都へ出るとなれば、費用と人手が必要です。冬の間に準備することになります。受けるかどうか、意見を聞きたい」
マルタが腕を組んだ。
「慈善市ってのは、貴族の奥様方が綺麗な手袋で買い物するやつですか」
「大体その理解で合っています」
「うちの薬草茶を、そんなところで?」
「売れれば、寄り合いの費用になります」
サラの目が輝いた。
「私たちの看板も持って行けますか」
「王都の会場に置くには、少し作り直した方がよいかもしれません」
「字を直します」
即答だった。
ガスパルは慎重に言った。
「王都は遠い。冬の準備を疎かにできません」
「その通りです。行くとしても少人数。無理なら断ります」
王妃の招待でも、断る選択肢を口にできる。
それだけで、私は以前と違う場所にいるのだと思った。
◇
議論は二日続いた。
王都で売る品は何にするか。薬草茶、軟膏、乾燥香草、小さな刺繍布。読み書き寄り合いの紹介として、サラたちが書いた名札を展示する案も出た。
マルタは最初、貴族向けの飾りを嫌がった。
「うちの品は効くから売るんです。綺麗な紙で包んだから偉いわけじゃない」
「その通りです」
私はうなずいた。
「ただ、知らない人に手に取ってもらうには、何に効くか、どう使うかが見えた方がいい。包装は嘘をつくためではなく、伝えるために使います」
マルタはしばらく考えた。
「なら、使い方の紙を入れましょう。字が読めない人には?」
「絵も添えます」
「サラ、絵は描けるかい」
「猫なら」
「薬草に猫はいるのかい」
広間に笑いが起きる。
結局、絵は温室のノエが描くことになった。猫は余白に一匹だけ許された。
◇
フローラからは、王都側の準備について手紙が届いた。
彼女は王妃の下で、基礎政務の見習いを始めていた。まだ正式な役職ではないが、慈善市の出展者名簿を整理する仕事を任されたらしい。
手紙の字は、以前より少し速く、少し強くなっている。
お姉様。
ミレイユの出展欄を見つけて、思わず声を上げてしまいました。王妃様に笑われました。
王都の方々は、地方の品を珍しがります。でも、珍しいだけで終わらせたくありません。ミレイユで学んだことを、私も少し伝えられるよう準備します。
それから、ミリア様も慈善市の会計補助に入ります。とても緊張なさっていますが、毎日数字と格闘しています。
私は手紙を読んで、妹の顔を思い浮かべた。
王太子妃候補として笑っているだけではないフローラ。
会計補助として数字と格闘するミリア。
王都にも、変化の芽はある。
◇
セドリック様は、招待を受けることに賛成だった。
「ミレイユの品が売れれば、領内の女性たちの収入になります」
「女性たち?」
「薬草の選別、乾燥、縫い物、包装。家の中でしていた仕事に値がつく」
彼は机に収支案を書いた。
「ただし、貴族向けだけに寄せすぎると、領内で使う分が足りなくなる。出荷上限を決めるべきです」
「売れる前から上限を?」
「売れた時に困る準備です」
私は感心した。
売れない心配ばかりしていたが、売れすぎる危険もある。王都の流行に振り回され、領内の薬草が足りなくなれば本末転倒だ。
「では、出展は試験的に。量を限り、収支と影響を記録します」
「はい」
「王都へは、私が行きます」
セドリック様のペンが止まった。
「当然ですか」
「当然ではありません。けれど、ミレイユの名を出すなら、私が説明したい」
彼は少し黙り、うなずいた。
「同行しても?」
「アシュフォード伯爵として?」
「隣領の共同橋の関係者として」
「それだけですか」
尋ねてから、自分で顔が熱くなった。
セドリック様は真面目な顔で答える。
「それだけではありません」
広間の空気が、一瞬で変わった。
メイが遠くで咳払いをする。マルタは鍋の蓋を必要以上に大きな音で閉めた。
私は招待状に目を落とす。
王都へ行く。
以前追い出された場所へ、今度はミレイユの品と人の名を携えて。
怖さはある。
けれど、もう一人で行くわけではなかった。




