第7話 ルルドの不安
予想以上に長くなりそうなので分けることにしました。
ちょっと中途半端なところで区切ってしまったかもしれませんが、ここ以外で区切るとますます可笑しくなりそうなので許してください。
パチパチと焚火のはぜる音を聞きながらリイナは昼間シンに言われた通りにマントに包まり眠ったふりをしたまま二人の会話を聞いていた。
リイナが起きている事に気付かずにルルドはポツリポツリと話し始めた。
「実を言うとなぁ、わしは精霊使い様を信じる事が出来んのじゃ」
精霊使いを信じられない、もしも寝たふりをしていなければその言葉を聞いた瞬間リイナはルルドに掴み掛っていただろう。
正直に言えばリイナはシンに眠ったふりをしていろと言われたとき、何故そんな事をしなければいけないのかと少し不満にも感じていた。
しかし、今ならわかるシンはルルドが精霊使い感じている不信感に気が付いていたのだ。そして、その話を聞くときにリイナがボロを出さないようにあえて寝たふりをさせたのだ。
リイナは寝返りを打つ振りをして、ルルドに背を向けたあと胸元にある贄の刻印を奮える手で握りしめた。
「精霊使い様が信じられないというのはどういう事ですか?」
精霊使い様を疑うなんて分が分からない。一体どういう事なのかきちんと話して欲しい。
シンがルルドにそう頼み込むとルルドは逡巡する様に目を閉じた。
沈黙があたりを支配する。
暫くしてルルドがようやく口を開いた。
時間にして本の数分の事でしかなかったが、リイナにとっては気が遠くなるほどに長く感じられた数分間だった。
ルルドは少し長い話になると前置きして訥々と話し始めた。
精霊使い様が村に着てすぐの事だっただよ。
村にすんどったある家族を異端者じゃと言ったんじゃ。
悪魔と契約した背教の徒じゃ言うての村のもんは皆精霊使い様の言葉を信じちまっただぁ。
でも、わしゃあ信じられんかった。
何で信じられんかったかって?
そりゃあその家族がいい奴らだってのもあるけんども、それ以上になぁ信心深い一家じゃった。
毎日、毎朝毎晩精霊様へのお祈りを欠かさんかったし教会のミサにも家族全員で必ずでて、困っとるもんを見ると嫌な顔一つせずに笑顔で助けとっただぁ。
そんなんだから村のもんたちにも信頼されて頼られとった。
だけども精霊使い様が来なさってから全部かわっちまっただよぉ
さっきも言ったように信心深い一家じゃっただから最初は信じ取らんもんもそれなりにおったんじゃが、精霊使い様の背教者は狡猾で怪しまれん様に信心深いふりをする事が多いちゅっう話を聞いてからはなぁ一人、二人と精霊使い様を信じるもんだ増えてだったぁ
ルルドの話を聞きながらリイナは当時の様子を思い出して体を震わせる。
そう最初の頃はルルドの言う通り信じてくれる者もいたのだ。
しかし、それも一日二日と経つ内に段々と疑念の目を向けて来る様になり、最後にはリイナたち家族を背教者だと信じ込んでしまうのだ。
酷い時には朝の時にはあんな話信じてない気にするなと励ましてくれていた村人がその日の正午には目に疑念の色を浮かべていた事もあったくらいだ。
そんな事が立て続けに起こってリイナは段々村人を信じる事が出来なくなってしまっていた。
今、自分たち家族を信じると言ってくれる人はあとどのくらいまで自分たち家族を信じてくれる?
それとも信じるという言葉は嘘で心の中ではもうすでに自分たちを背教者だと思っているのではないか?
そんな恐怖と不安に苛まれ続けていた。
そんなリイナの態度が余計に精霊使いの言葉に信憑性を持たせていたのには薄々気がづいてはいたがそれでも一度抱いた不安と恐怖を拭い去ることは出来ず、まさに悪循環だった。
ルルドの話は続く。
酷い時にはぁな朝まで信じとったもんが昼の飯時の頃になんと何故かあの一家は背教者じゃないかと疑う様になってしもうた。
それも何度もじゃそんな事が続けばそりゃあ人を信じる事が恐ろしゅうなるじゃろうて、その家の娘っ子は終いにゃ信じる言うてくれるもんにまで疑いの目を向ける様になってしもうての村のもんはやっぱり背教者じゃからじゃと噂しとったけんどもわしゃ娘っ子がそうなってもしょうがないと思っとる。
あんな状況が続けば誰だって人を信じるのが恐ろしゅうなるだよ。
・・・・・・・・・・・・実を言うとだなぁ、わしが精霊使い様を信じられん理由がもう一つあるけ。
わしはどうしてもあの一家が背教者であるのが信じられんくってのぅ、わしと同じ様に信じとらんかった友人と精霊使い様に直談判に行くちゅう話をしとったんじゃきぃ。
すると突然、本当に突然目の前の友人がのぅ、あの一家は背教者じゃと言い始めたんじゃ。
目はうつろになって、何度も何度もあの一家は背教者じゃと口ん中で繰り返しとった。
まるで自分に信じ込ませる様に何度も何度ものぅ。
そんで眼に光が戻った時にゃもうすっかり、あの一家は背教者じゃと信じ込んどった。
わしゃ恐ろしゅうなってのうとっさにその場は話し合わせて、急いで村長の家さ駆け込んで自分の見たもんについて全部話だだぁ。
村長は顔さ真っ青にさせた後おらに絶対にあの一家にも精霊使い様にも絶対に近づいちゃいかんもし村のもんとの話であの一家の事がでたら話を合わせろと言って、悪魔よけのお守りさおらに渡しでくれただよ。
そこまで話を聞いてシンは青ざめた顔でまさかと口を開いた。
まさかその精霊使い様は、そう青ざめたままの顔で呟くシンにルルドは『確証はねぇけんども』と言って頷くのだった。




