第六話 村への道中
ガタゴトガタゴト
ガラガラゴロゴロ
荷馬車の走る音に耳を傾けながらリイナは今目の前にいる人物が誰なのかと思案する。
このにこやかで丁寧な態度を一切崩さない温和な青年は本当に昨夜自分を助けてくれた口の悪い青年・シンと同一人物なのだろうか?
自分の目か頭のどちらかがおかしくなってしまったのではないだろうかと半ば本気で疑ってしまう程、今目の前でルルドと楽しげに会話しているシンと昨夜自分を助けたシンは実は名前が同じだけの別人にしか見えなかった。
『いや本当に何でそんなありもしない子供の頃の思い出話がぽんぽんでてくるの!!』
リイナはシンのあまりの演技力の高さと話術の巧みさに空恐ろしさすら感じでしまう。
「あー、ところでお前さんのその面。
それも妖精様のお告げかのぅ?」
「あっ、いえこれは子供の頃、火事でやけどを負ってしまってそれを隠すための物なのです。」
父もその時の火事でなくなって・・・
と、仮面に手を添えながら少し悲しそうな顔までしてみせる。
「そりゃあ、辛かったロぅ
悪い事、聞いちまった様でまっこと申訳ねぇだ」
流石に踏み込み過ぎたと思ったのだろう、ルルドがシンに謝罪の言葉を口にする。
その謝罪にシンは少し悲し気な笑みを浮かべながら。
「いいえ、気にしないで下さい。
ルルドさんに悪気がなかったのは理解していますし、それに幸いにも周りにいたのは良い人たちばかりで三人でも何とか生きていくことができました。
でも、今まで苦労を掛けてきたからこそ母には元気なって幸せに暮らしてもらいたいんです。」
そういうシンを見て本当に親孝行な子供だべぇとルルドは感心する。
「なら、お前さんたちゃぁ運がよかべぇよ。
今、ウチの村さぁ精霊使い様が来てくださってるだよぉ」
ルルドのその言葉にシンは歓喜の声を上げた。
「精霊使い様が?
それは本当ですか!?
本当にアルカ村に精霊使い様がいらっしゃるんですね!」
『ああ、精霊様のお告げは間違っていなかった』と歓喜の涙までにじませる徹底ぶりだ。
終いには、リイナの方を向いたかと思うと突然『やったぞ、ラナ喜べ』と言って抱きしめてきた。
あまりの事に振り払おうとすると。
「大人しくしていろ、母親が助かる可能性が見つかったん喜ぶフリくらいはしろ。
怪しまれるぞ」
シンのその言葉にハッとする。思わずシンの豹変ぶりに驚いてしまっていたが確かにそうだ。
今はシンが昨夜と同一人物かどうか疑うのではなくルルドや村人たちに怪しまれないように細心の注意を払って振る舞わなければいけないのだ。
「・・・お兄ちゃん、お母さん良くなれるよね?」
出来るだけか細い、震えるような声を意識してシンに向かってそう言えばシンは満足そうに笑みを浮かべて頷きながら、『ああ、もちろんだ精霊使い様がいらっしゃるんだ母さんはきっとよくなる』とあくまで妹を思いやる兄の振る舞いを徹底していた。
背後で無邪気に母の病が治るかもしれないと喜ぶ兄妹を微笑ましく思いながらもルルドは同時に一抹の不安を感じずにはいられなかった。
果たして、あの精霊使いが本当にあの兄妹の母の病を癒してくれるのだろうか?
正直に言えばルルドはあの精霊使いを信用し切れていなかった。
しかし、治るかどうかわからなかった母の病を治せるかもしれないと希望を見出して喜んでいる二人に、それはもしかしたら叶わないかもしれないと告げ、不安を与えるような事はルルドには出来なかった。
結局、ルルドに出来た事は二人の希望を守るために沈黙を貫く事だけだった。
そんなルルドを見てシンが先程までの穏やかな笑みとは違う酷く冷たい笑みを浮かべている事にも気付かずにルルドは村へと馬車を走らせる。
シンはリイナに何かを告げた後、また穏やかな笑みを浮かべてルルドと楽しげに会話を始めるのだった。
そして、その日の夜。
妹のラナが眠りについたのを見届けた後、焚火の前でシンはルルドに訪ねたのだ。
「ルルドさん、あなたは何か隠していますよね?」
「!!」
驚いて声も出ないルルドの目をしっかりと見つめ、覚悟を決めたかをでシンは更に続ける。
「実は昼間、荷馬車で精霊使い様がいると伺ったときにあなたが浮かべた症状が少し気になってしまって、もちろん私の勘違いの可能性もあります。
でも、何か不安に思う事があるのであれば、正直に話してはもらえないでしょうか・・・」
二人はしばし無言で向かい合い、あたりには森と焚火の奏でる静寂の音だけが広がっていた。
「そうじゃの」
どれほど時間がたったのだろう、ほんの瞬き程の事の様にも逆に何時間もたった様にも感じられた。
そうしてルルドはようやく口を開いた。
「不安にさせたらぁあかんきに
黙っとったけど気付かれとったんならぁ話しておいた方がいいかもしんねぇなぁ」
そう言ってルルドは精霊使いが村にやって来てから起きた事を訥々と話し始めたのだった。




