第三話 求める情報
ピー
チチチチチ
チュンチュンチュン
「っ、うん」
鳥のさえずりが聞こえる。
その心地よい鳴き声を聞きながら、リイナは寝返りを打つ。
「おい、いい加減に起きろ!」
すると突然聞き慣れない声に叩き起こされた。
「っな、なに」
「ったく、要約起きやがったが
ほら、メシだ。それを食ってさっさと俺の質問に答えろ。」
全く、こっちはそれを聞くために態々助けたってのに自分ばかり質問して、とっとと意識を失いやがって。
そう、ぶつぶつと文句を言いながらもきちんとリイナの分の食事を用意して、朝まで休ませてくれた。
口は悪いが優しい人なのだろう。
リイナは食事を口に運びながら、チラリと目の前のシンという青年を見る。
昨日は暗闇や混乱していた事もあってあまり意識していなかったが、シンはとても美しい顔立ちをしていた。
淡い金色の髪に、白く滑らかな肌はまるで大理石の様だ、だが、何よりも惹きつけられるのはその珍しいアメジストのような紫の瞳だろう。
顔の右半分が仮面で覆い隠されている事が酷く勿体なく感じ、それと同時に視界に入った自分の黒い巻き毛が酷くみすぼらしく感じられた。
母譲りの黒い巻き毛に、父譲りの焦げ茶色の瞳、元々は白かった肌は日々の農作業ですっかり日に焼けてしまい手も荒れていたが、それでも村では器量良しとそれなりにそれなりに持て囃される容姿をしていたし、自分の容姿を恥じた事も無い、大好きな両親から貰ったものだからだ。
貧しく、ろくな手入れも出来なかったが、それでも大事にしていたもの他人が見れば対して違いはないと思うかもしれないが、リイナにとっては明らかに違ったかつてはみすぼらしくても決して恥ずかしい等とは思わなかった。
何故なら、それは両親との日々の幸せな生活の証だったからだ。
しかし、今はどうだ異端の烙印を押され、その迫害によって荒れた自分の体、そこにはかつての幸せの証はなくなっていた。
その事が酷くみじめで、そして恥ずかしかった。
「それで、聞きたい事って何?」
食事を終えて、リイナはシンにそう訪ねる。
「俺が知りたいのはお前に贄の刻印を刻んだ悪魔についてだ。
何でも構わない、その悪魔について覚えている事を教えて欲しい」
悪魔について、それこそがシンの求める情報だった。
どんな些細な情報でも構わなかった。
それがあの悪魔への手掛かりになるかも知れないのだから。
「・・・黒い、黒い毛に覆われていた。
腕は獣よりも人に近かったけど、普通の人の倍はあって、手には獣の様な鋭いかぎ爪があった
姿ははっきり見えたわけじゃないけど、いろんな人や動物の一部を無理矢理繋ぎ合わせた様に見え・・・っう」
記憶を辿りながら、リイナはたどたどしく覚えているかぎりの事を答えていく。
しかし、限界が来たのだろう。突然口元を抑えて蹲った。
「おい、大丈夫かリイナ!?
水だ飲めるか」
リイナに酷な事を聞いているという事は自覚しているのだろう。
シンは用意していた水をゆっくりとリイナに飲ませる。
そして、申し訳なさそうに口を開いた。
「すまない、最後にこれだけ聞かせてくれ、人や動物を繋ぎ合わせた様だと言っていたが、それは変わったりはしなかったか?
さっきまで人の様だった部分が動物になったり、逆に動物だったのが人間なったりはしなかったか?」
シンのその問いに、リイナは体を震わせながら首を横に振り、小さな声で『わからない』と答えた。
「そうか、ありがとう。
無理をさせて悪かったな」
シンの感謝と謝罪の言葉にリイナはゆっくりと首を振って答えた。
言葉を出す気力がないのだろう。
それを見て、シンは自分の荷物の中からコップと何かの小瓶を取り出し、中にミルクを注ぐと何かを呟いた後、小瓶の中身をミルクに入れ匙で混ぜるとリイナに差し出した。
「飲め、少しは落ち着くはずだ」
リイナはそれをおずおずと受け取ると口をつけて、目を見開いた。
先程、シンがミルクを注ぐのを見ていたが火に当てていた様子はなかったなのに手渡されたミルクは温かく何よりも
「甘い」
農民であったリイナにとって甘味は貴重で滅多に口にできるものではなかった。
「落ち着いたか?」
「ええ、ありがとう」
夢中になってミルクを飲んでいたのが気まずいのだろう、ぶっきらぼうな返事にシンは思わず苦笑する。
「ねぇ、シンは何で悪魔の事を知りたいの?」
何故シンは悪魔について知りたいと思うのか、それがリイナには不思議だった。
自分はもうあの恐ろしい存在とは関わりたいとは思えなかった。
しかし、シンがリイナを助ける対価として求めたのは悪魔の情報、悪魔に呪われ異端の烙印を押されたにもかかわらず知ればさらに迫害されかねない事を何故、知りたがるのかリイナには分からなかった。
「俺は、俺を呪った悪魔を探している。
お前に贄の刻印を刻んだ悪魔について聞いたのはその手掛りを得るためだ」
「何で探してるの?」
「お前に答える理由はない。
俺はこの後お前のいた村に行く、今ならまだお前お贄に捧げた紛い者と悪魔がいるだろうからな。
お前はどうする?
もう二度とあいつらと関わりたくないと云うならそれでも構わない。
だが、その贄の刻印を消したいならついてくるか?」
何故、探しているのかシンは教える事はなかった。
だが、それよりもその後に続いた言葉のほうがリイナにとっては大事だった。
「・・・きえるの?
この・・・この刻印が・・・本当に消えるの!?」
「ああ、消える」
リイナの驚愕の声に対し、シンは淡々と答えを返した。
正直、あの悪魔とはもう二度と関わりたくはない、しかし、それと同じくらい、いやそれ以上に自分たち家族を陥れたあの偽物の精霊使いを許せないという気持ちもあった。
「私、行くわ
村に行く」
暫く悩んだ後リイナは覚悟を決めた目で信を見つめた。
村に戻って全てに決着をつける。
それがどんな結末を迎えようと自分は絶対にあの紛い者の精霊使いを許さない。
「わかった」
たった一言。
そのたった一言共にリイナのその覚悟をシンは凄絶なまでに美しい笑顔で受け入れた。
リイナが今の自分をみすぼらしいと感じているのは、シンと比較して劣等感を感じているわけではなく自分が今まで幸せだと感じていた物を失ってしまったと思ったからです。
今までは髪が傷んでも、仕事で手が荒れてもそれは家族との幸せな日々の暮らしによるものリイナにとっては幸福の象徴のようなものでした。
でも今は異端の烙印を押された結果与えられた拷問や贄に捧げられ傷ついて手や余計に傷んだ髪が昔とは違うものに見えてしまったんです。




