第二十四話 偽りの平穏
取り調べを終え日も暮れ始めた頃、野営地は夕食の支度で俄かに騒がしくなり始めた。
その様子を見てシンとラナは騎士たちに手伝いを申し出たが、騎士団の決まりで手伝わせるわけにはいかないとやんわりと断られてしまった。
騎士たちの様子を見れば慣れているのか随分とその手際は良く、辺りには直ぐに食欲を誘う様な香りが漂い始めた。
やがて作り終えたのだろう、リンドカルドが自分の分を含めた三人分の食事をもってやって来た。
「二人とも、腹が減ってるだろ?
食事を持ってきたから一緒に食べようぜ」
朗らかに笑いながら、リンドカルドは二人にそれぞれの食事を渡すと自分もドカリと地面に座り込んだ。
おそらく村人たちから材料を分けてもらったのだろう食事の内容は黒パンと野菜がたっぷりと入ったシチューに騎士たちが保存食として持ってきたのだろう干し肉までついた豪勢な物であった。
「わざわざ持って来て下さり、ありがとうございます」
「気にすんなって、どうせ自分の分を持ってくるついでだついで。
それより早く食おうぜ、俺もう腹が減って腹が減って・・・・」
感謝の言葉を口にするシンに気にするなと言ってそれよりも早く食おうといってリンドカルドは早速ちぎった黒パンをシチューに着けて食べ始めた。
黒パンの酸味にシチューの甘みが加わって口の中を満たす。
更にリンドカルドはかぶりつく様にして炙った干し肉を口にする。
そのあまりに見事な食べっぷりにシンとラナは呆然とリンドカルドを見つめた後二人して顔を見詰め合う。
『ぷっ』
そうしてしばらく見詰め合った後どちらからともなく吹き出してしまった。
今朝、あんな事があったばかりでまだ一日もたっていないのに、リンドカルドの食べっぷりを見ていると何故だが心がとても軽くなっていく様な心地がした。
そうして二人もリンドカルドに習って食事を食べ始めたのだった。
「ふぅ、食った食った」
そう言って、満足そうにリンドカルドは腹を摩りながら後ろに倒れ込む。
「リンドカルド様。
まだ片付け終わっていませんよ」
食事を終えて、そのまま後ろに倒れ込んだリンドカルドをラナが咎める。
「片付けなんて後でいいだろ。
それより見てみろよ、今日は星がよく見える」
そう言ってリンドカルドはシンとラナの腕を掴み後ろに引き倒す。
『えっ!!』
突然の事に驚いたのだろう二人の驚いた声が重なった。
「きれい・・・」
思わず零れてしまったのだろう。
リンドカルドの言う通り今日は雲一つなく、夜の星々がよく見えた。
声もなく星空に見惚れている二人を横目で見ながらリンドカルドは思う。
自分はこの二人を殺すのだ。
隊長たちは妹の方は悪魔については何も知らない可能性があると言っていた。
しかし、兄の方は悪魔について知っていた。
あくまで可能性の話であろうと確かに悪魔の力に縋ろうとしたのた。
その時点でたとえ知らなくとも一緒に行動している妹も粛清の対象に入る。
二人の粛清。
それが今回リンドカルドに与えられた任務だった。
二人と話しながら、リンドカルドは自身の狂気を再認識した。
二人との会話は楽しい、二人と過ごす時間は心地よい、このまま何事もなく過ごせば友人となっていたかもしれない二人。
いや、今ですら二人に友情めいたものを感じている。
それでも、自分はこの二人を殺すだろう。
何の罪悪感すら感じずに精霊様を裏切り悪魔に与した二人を殺せてしまう。
それが自分の持つ狂気なのだ。




