第二十一話 本当に崩れ去ったもの
ガラガラと自分が信じていたものが崩れていく音が聞こえた気がした。
だが、同時にそれは本当に自分が信じていた物なのかという疑問がふと湧いてきた。
『お前は狂っている』昔誰かにそういわれたことがある気がする。
あれは誰だっただろう。
何故そう言われたのだろう。
ああ、そうだ
確か幼い頃精霊様を馬鹿にした奴がいてそれで近くに会った角材を掴んでそいつを殴りつけた時だ。
何度も何度も殴りつけた。
気が付けば自分は周囲の大人に押さえつけられ、精霊様を馬鹿にしたそいつは虫の息になっていた。
その時に言われたのだ、『あの子供はおかしい、狂っている』と、確かに周囲の人間の言う通り自分はおかしかったのかもしれない。
自分が殴りつけた相手は精霊様を馬鹿にする様な事を言いわしたが、それは日常の中で誰もが口にする様な戯言でもあった。
しかし、そんな戯言にすら自分は我慢できず、それから何度か似た様な事を繰り返した。
そんな自分を両親は何度も諫めた、何度も何度も涙すら浮かべながら。
周囲から何を言われても気になりはしなかったが、両親のそんな姿を見て自分は本当におかしいのだと理解した。
でも、如何し様も出来なかった。
如何しても自分を抑えられないのだ。
自分がおかしいと分かっているのに、両親の悲しむ顔など見たくないのにこの自分の内側にある狂気を抑えるすべが分からなかった。
そんなとき、彼らに教会の騎士たちに出会った。
清廉潔白で、教会の教えを厳格に守り時には盾としてまた剣として精霊様の意向と共に人々を守る彼らの存在を。
彼らの様になりたいとそう思った。
自分の中の抑えられない狂気を人々を傷つけるだけだった自分の忌まわしい性を変えたいと変えるのだとそう思って騎士を志した。
正直に言えば自分の中の狂気を抑えるのは並大抵の事ではなかった。
何度か、抑えきれず人に危害を加えてしまったこともあった。
それでも、いつか必ずあの日、あの時見た騎士たちのようになるのだと願いを夢を抱いて努力を続けた。
やがて、人々を傷つけ様とする狂気は鍛錬に打ち込む事で抑え込める様になり、ついには正式な騎士になる事も出来た。
これで、自分がかつてあこがれた彼らの様に自分も人々を傷つけるのではなく人々を守れる存在になれたのだとそう思った。
だが、今、目の前で二人の上司から聞かされたのは自分が今まで抱いていた清廉潔白な騎士のありさまを打ち壊す、まさに騎士団の暗部の話だった。
リンドカルドは自分の内で何かが崩れていく音を確かに聞いた。
自分が信じていた騎士の姿は偽りだった。
騎士団は教会は清廉潔白などではなかった。
悪魔と契約してでも栄華を掴もうとする強欲な者たち、それと少しでも関わった者を粛正する騎士団。
それがどうした!!
それで、一人でも多くの罪のない人々を救えるというのなら喜んで、この手を血で濡らそう。
リンドカルドは唐突に理解した。
自分が聞いた崩壊の音は自分が信じていたものが崩れ去る音ではなかった。
自分の中にある狂気を抑え込むために自ら作り上げた鎖が崩れ去る音だったのだ。
自分の中の狂気はこのために、悪魔と関わった罪深い者たちを粛正するために与えられたものなのだ。
「ジュール隊長、レイヴン副隊長
この不肖リンドカルド騎士としての役目を果たせるようより一層精進いたします」
リンドカルドは二人の上司に向かって騎士の礼を取り、笑みを浮かべてそう言った。
それはそれは綺麗で真直ぐな信念に満ち溢れた笑みを浮かべていた。




