第十三話 精霊使いとの対面
ざわざわ
村に着いた翌朝、シンとリイナは村の集会場にやって来ていた。
集会場と言っても何もない広場に村人たちが集まって話し合いなどをするだけの場所で今日はルルドが街で買って来た物が村人に渡される為、村人が集まっていた。
シンとリイナは村長に連れられて、精霊使いに会う為にこの集会場とは名ばかりの広場にやってきた。
「んおお、いらっしゃった。
あの方が精霊使い様です」
村長が示した先にいたのは質素な、しかし村の人たちと比べれば上等な司祭のローブに身を包み、自身の傍らに精霊使いの証である錫杖を携えた男だった。
クセのない肩までの長さの薄茶色の髪を首の後ろで緩く結わえ、髪と同じ薄茶色の目は光の加減で僅かに金色の様にも見える。
どうやら村人たちの相談に乗っているらしい、穏やかな顔で村人ひとりひとりに真摯に向き合い助言している様子はとても無実の人間を陥れて悪魔の贄にする様な人には見えなかった。
だが、シンには見えていた。
その精霊使いを包む黒いモヤ、禍々しくどす黒い欲望の塊が、ああ、これなら確かに悪魔と契約を交わすだろう。
欲深い者は悪魔たちにとっては都合のいい手駒だ、自分たちのエサを運んでくるための働き蜂。
そう思われているとも知らずに自分たちが悪魔を利用しているのだと思い込んでいる愚かな人間、本当に利用されているのが自分たちだとも気付かずに、ああ本当何て醜くて醜悪なんだろうか。
そんな自分の中の嫌悪をおくびにも出さず、シンは村長に礼を言って、精霊使いの周りにいる村人たちを押しのけ、縋るような顔をしながら精霊使いの元へ一歩、また一歩近づいていく。
「精霊使い様ですか?」
シンはそれまで被り続けていた穏やかな青年の仮面を脱ぎ捨て新たな仮面を被った。
シンが新たに被った仮面それは・・・
「ええ、そうですが貴方は?
他の方たちを押し・・・・」
「お願いします。
母を、どうか母の病を治してください!!」
大切な母を助ける為に形振りかまわない息子の仮面だった。
戸惑いながらも、村人を押しのけない様に窘めようとした精霊使いの言葉を遮り、どうか母を助けてくれと跪き地面に額を擦り付ける様に哀願する青年の姿に怒鳴りつけようとしていた村人もただ事ではないと察したのだろう。
一先ずは矛を収めて成り行きを見守る事にした様だ。
「私はシンと申します。
病にかかった母の為、妹と共に平癒の巡礼をしている者です。
ここより一つ前の教会で精霊様よりお告げを頂き、このアルカ村に参りました。
どうか・・・
どうか母を・・・
母をお助け下さい。
幼い頃に火事で父を亡くした私たち兄妹にとって母だけが唯一の庇護者なのです」
お願いします。母を助けてください。
何度も何度もそう繰り返すシン。
騒ぎを聞き付けたのだろう、村人に物を渡していたルルドがやって来てシンに駆け寄った。
「シン!!
お前さん何しとるんたべぇ!!
精霊使い様、どうかお気を悪くしないでくれ、こいつぁ昨日わしが村に戻る途中で会ったもんで事情を聞いてほっとけんくて村まで・・・・・・」
そう叫んで、すぐさま地面に膝をついているシンを立たせようとするが、精霊使いがそれを押しとどめる。
「大丈夫ですよルルドさん。
シンさんと言いましたね、詳しいお話をお聞きしてもよろしいでしょうか?
他の方々も申し訳ないのですが相談は急ぎでないのであればまた後日に回して頂いてもよろしいでしょうか?」
安心させる様にルルドに微笑みかけた後、精霊使いは服が汚れるのも気にせずにシンの前に膝をつき、顔を上げる様に慈愛の笑みを浮かべて促した。
村人たちも口々に病気の母親の為なら仕方がないと精霊使い様に任せておけば大丈夫、早く良くなるといいなと励ましてくれる者も中にはいた。
しかし、それらは全て偽りだった。
村人たちは相も変わらず感情と表情のない顔をして、声だけがいつも通りのお日常を刻んでいた。
ここでは落ち着いて話が出来ないと判断したのだろう。
シンたちは場所を移して精霊使いに相談する事になった。




