第十一話 まやかしの村
思った以上に長くなってしまいました。
ルルドの不安の様に分けようかとも思ったけどそれをすると中途半端な長さになりをウだったので一つにしました。
ルルド、リイナとともに村に着いたシンが見たのは楽しげな声を上げながらルルドのもとに集まる子供たちの姿だった。
しかし、その子供たちの顔には一切の表情が存在していなかった。
ただ、表情のない顔で感情を映さぬ目で声だけが楽しそうな子供たち、その子供たちの問いに答えるふりをして目を覗き込み、シンは昨夜から抱いていた疑念を確信へと変えた。
何も気づいていないかの様に子供たちの問いに答えながら、シンはルルドの帰還に気付いた大人たちが集まって来るのを待つ。
やがて、子供たちの声でルルドが戻って来た事に気付いた村長と村人たちが集まって来る。
やって来た村長と村人たちもまた、先に集まって来た子供たちと同じ様に表情のない顔と感情を映さない目、ただただ声だけが、ひたすらに楽しげで平和な村であるかの様に響いている。
それはあまりにも異常でおぞましい光景だった。
気の弱い者ならば自分は気が狂ってしまったのかと思ってしまうだろう。
『でも、まぁ、どちらでも異常である事に変わりはないか』
シンは声に出さずに一人胸の中でそう呟く。
そう、例えこの村の者たちが本当に平和を享受し、楽しげに過ごすのもまた、ありえない事なのだ。
リイナは気付いてはいない、違和感自体は感じている様ではあるがその違和感の正体がなんであるかまでは分かっていない様だ。
湯あみを終え、村長の家に案内されたシンたちは長旅で疲れているので早めに休ませてもらいたいと伝え夕食後の団欒を辞退し、宛がわれた部屋へと入る。
「おい、リイナもういいぞ。
術でこの部屋での会話は外には聞こえないし、例え誰かが様子を見に来たとしても見えるのは寝台で眠る俺たちの姿だ悪魔に気付かれる心配はない。」
シンは寝台にドカリと座り込んでリイナに向かってそう言う。
「そう・・・
シン、あなた本当にいろいろな術が使えるのね。」
リイナはシンの言葉に感心した様に呟く。
「教会から異端認定受けて逃げ回ってんだ。これくらい出来なきゃとっくに捕まってる。
必要に迫られて覚えただけだ。
それよりもリイナ」
リイナの呟きに生き延びるために覚えただけの物だと言い放ち、シンはリイナにも座るように促す。
「リイナお前、この村に来て何が変だと思っただろう?」
シンの言葉にリイナはびくりと体を震わせた後、小さく頷く。
「最初は気のせいかと思ったし、今も何がおかしいのか自分でも分からないけど、何か変な感じがするの。
村はいつも通り、平和そうに見えるんだけど・・・」
「いつも通りなのがおかしいんだろ。」
ため息交じりそういうシンにリイナは分が分からないという目でどういう事なのかと問いかける。
「曲がりなりにもこの村では異端認定を受けた一家が出たばかりだぞ。
村人たちはどうしたって疑心暗鬼になる。
そうなればどう取り繕ったところで村の空気はギスギスする。
こんなに穏やかな空気それこそあり得ない。
聞くがリイナお前たちが異端認定を受けた後、村の空気は穏やかだったか?」
『違うだろ?』
問いかけの形を取ってはいるが、それは断定だった。
異端者を出した村が平和であるはずが無い。平穏であるはずが無いという断定。
「一人でも異端者を出した村がかつての平穏を取り戻すことはまずない。
なぜなら、前にも言ったが教会にとって異端者ってのは悪魔に捧げるための贄だ少なくて困る事はあっても多くて困る事はない。初めの異端者がいなくなった後、教会がするのは次の贄を用意する事だ次の贄つまりは異端者だ異端者はいなくならない。
村人は異端者は誰かと疑い続ける。そんな状態でどうやって平和で穏やかに人々が過ごせる?」
シンの言葉にリイナはゾッとした。
先程まで見ていた村がまやかしだと理解したのだ。
「・・・・・・あんたにはどんな風に見えてたの・・・」
「表情も感情もない村人たちがこれだけは楽しげに会話をしていたよ」
シンのその言葉にリイナはますます怖気が立つ。
シンはそんな悍ましい物を見ていたのか。
そんなリイナを痛ましげに見つめながらシンは更にリイナを追い詰める事実を告げなければならなかった。
「リイナ、村の人間は誰一人信じるな。
ルルドと村長もだ」
「どうして?
二人とも魔除けのおかげで悪魔から身を守れたんじゃないの?
他に魔除けを渡された人たちもさが・・・」
昨夜のルルドの話から、魔除けを持っている相手ならば協力を得られるのではと考えていたリイナはシンの言葉にどういう事なのかと問いかける。
「リイナお前は上手な嘘の付き方を知っているか?」
「えっ?」
突然何の脈絡もなく上手な嘘の付き方について聞いてくるシンにリイナは戸惑いの声を上げるが、シンは答えなど聞く気はなかったのだろう。
戸惑うリイナを気にする事なく話を続ける。
「上手な嘘の付き方は嘘の中に本当の事を混ぜるのさ。
この村にいる悪魔はそれと同じ事をしたのさ、たった一人だけ完全に操る事をせず、本人の意識を残したまま操ったのさ。
それがルルドだ」
「・・・・・っ!?」
何も言えずただ絶句するリイナにシンは更に続ける。
「おそらくだが、ルルドが村長に相談した時には村長を含め魔除けを渡された者たちもまだ悪魔に操られてはいなかったんだろう、だから昨夜ルルドが俺に話した事は事実だ嘘ではない。
それが悪魔の用意した罠だったんだ。」
「・・・罠」
「そう罠だ。
ルルドには本人の意識が残っているし、気質も善良だ。だからこそ悪魔の駒として本人も知らずに操られている。
ルルドは仕事柄村の外に出る事が多い、この村が辺境に位置するとはいえ精霊使いがいると知れば訪れる者はいる。
ルルドの役目はその旅人たちに村の状態を教える事だ。
ルルドの話から旅人はこの村の精霊使いが偽物であるかもしれないと知るが、同時に魔除けを持つ人間は信じても大丈夫だと教えられる。
元々辺境の精霊使いに縋ろうとする者たちだ、藁にも縋る思いでやって来る者たちが殆どだろう、そういう者たちは精霊使いが偽物かもしれないと知っても一縷の望みをかけるものだ、そうして辿り着いた村の住人たちは異端者が出たとは思へないほど平穏を享受している。
さぞ、不気味に見えるだろうなぁ。
そんな中あらかじめ悪魔に対する魔除けとそれを持っている者の存在を知っていたら?
この人なら大丈夫だと旅人は安心するだろう?
自分が悪魔の贄にされるとも知らずにな」
「・・・・・・・・・まよけは?
魔除けは偽物なの?
だから、みんな悪魔に操られてしまったの?」
魔除けには、村長とルルドが最後の頼みの綱とした魔除けは何の効果もない偽物だったのかリイナは縋る様にシンに訪ねた。
「魔除けは本物だ。
だが、こう言っては何だがこの村みたいな辺境の田舎の村にある様な魔除けでは大概が下級の悪魔を退けるのが精一杯なんだ。
この村にある魔除けはそれなりに力はある方ではあったから、昨夜見たときはオレももしかすればと思っていたが、思っていたよりも上位の悪魔の様だこれじゃあ、あの魔除けでは歯が立たないだろう」
シンの言葉にリイナの中に安堵と悔しさが込み上げてくる。
そんなリイナを見て、シンはポンとリイナの頭に手を乗せて『今日はもう休め』と言って寝台に横になるように促した。
リイナは黙ってうなずくと寝台に横になる。
明日に備えて、例え眠れずとも目を閉じ横になるだけでも大分ましになる。
疲労で動けなくなる事が無いようにリイナはしばしの休息をとるのだった。




