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好感度マイナスの恋巫女候補に転移しましたが、領地だけは建て直します  作者: 御堂あゆこ
第4章

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21-2. 疑われた魔獣と、雪の下の知恵

 村へ戻る途中、私は雪に埋もれかけた一角で足を止めた。


 崩れた木杭が、いくつも地面から突き出している。

 畑というには荒れすぎていて、ただの空き地というには、人の手が入っていた痕跡が残っていた。


「ここは、何かに使っていた場所ですか」


 私が尋ねると、清十郎さんが少し考え込んだ。

 その横で、老女がおずおずと口を開く。


「……昔は、そのあたりに芋や根菜を埋めておりました」


「埋める?」


「はい。冬の前に、雪の下へ。雪が多ければ多いほど、春先まで保つことがあったのです」


「雪の下に、野菜を?」


「ええ。けれど今はもう……人手もなく、畑も荒れて、霊気も悪くなりました。埋めても腐るだけだと、皆が言うようになって。古い、貧しいやり方でございます」


「確認しましょう」


 私が言うと、清十郎さんと老女は目を瞬いた。


「え?」


「本当に何も残っていないのかどうかは、掘ってみなければわかりません」


 古い貧しいやり方。

 そう切り捨てるのは簡単だ。


 でも、今の話は迷信ではない。

 雪を断熱材として使い、温度と湿度を一定に保つ保存方法だ。


 元の世界でいう冷蔵庫も、まともな倉庫設備もないこの領地で、雪そのものを保存庫として使えるかもしれない。


「ここを掘りましょう。少しだけで構いません」


 清十郎さんは頷くと、いったん村の方へ戻り、古びた鍬と木べらを持ってきた。

 老女が、雪に埋もれた木杭の位置を確かめながら、おそるおそる指先で場所を示す。

 私は木べらで雪を払い、清十郎さんが固くなった土を崩していった。


 氷冥は少し離れた場所から、黙ってその様子を見ている。

 しらたまもまた、雪の上にちょこんと座ったまま、こちらをじっと見ていた。


 やがて、土の中から丸い塊が出てきた。


 老女が息を呑む。


「……氷芽芋(ひょうがいも)でございます」


「氷芽芋?」


 表面は土にまみれているが、腐ってはいない。

 小ぶりで、皮は薄く青白い。霜のような筋が走っている。


「食べられますか」


 私が尋ねると、老女はおそるおそる芋を手に取った。


「味はよいものではございませんが、火を通せば食べられます」


 火を借りるために老女の家へお邪魔すると、すぐに小さな火が起こされた。

 薄く切った氷芽芋が、鉄板の上でじゅう、と音を立てる。


 白い湯気が上がった。


 焦げる匂い。土の匂い。そして、ほんの少し、甘い匂い。


 焼き上がった薄片を、私は受け取った。


「澄音様、本当に……?」


 清十郎さんが不安そうに声をかける。


「最初に確かめるべきは、わたくしですもの」


 熱を冷ましてから、そっと口に運ぶ。


 ほくりと崩れた。


 覚悟していた土臭さやえぐみは、全くない。

 派手な甘さではないけれど、冷えた身体にじんわり届く、やさしい甘みがあった。


「……甘いですわ」


 その言葉に、老女が目を見開いた。


「甘い……?」


「ええ。雪の下で味が変わったのかもしれません」


 老女がおそるおそる欠片を口にする。

 しばらくして、その表情がゆっくり変わった。


「……本当です。美味しゅうございます」


 清十郎さんも続いて口にし、一瞬黙ったあと、驚いたように芋を見下ろした。


「あの氷芽芋が、甘い……」


 老女と清十郎さんの表情に、ほんの少しだけ明るさが差した。

 雪の下には、まだ食べられるものが残っていた。


 私は、手の中の氷芽芋を見る。


 寒さにさらされた作物は、凍りつかないように内側のでんぷんを糖に変えることがある。

 元の世界で、雪の下で保存された野菜が甘くなると聞いたことがあった。


 北領地の雪が、外気の冷たさをやわらげ、土の湿り気を保つことで、作物を甘くするのだとしたら。


 氷冥は何も言わなかった。

 ただ、こちらを見つめる薄青の瞳が、ほんのわずかにやわらいだ気がした。


 この土地はまだ終わっていない。


 戸口の外では、しらたまが雪の上に座ったまま、こちらを見ている。

 近づいてはこない。けれど、その白い尾が、小さく揺れていた。


 焼けた氷芽芋をもう一度見る。


 まずは、ここからだ。


 雪の下に残っていたものを、ひとつずつ掘り起こす。

 この領地が、自分たちの手で冬を越すために。

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