表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
好感度マイナスの恋巫女候補に転移しましたが、領地だけは建て直します  作者: 御堂あゆこ
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/25

19-2. 私が切り拓き、繋いでいたもの

「君があれと繋がったのは、偶然ではない」


 その言葉に、こちらへ来る直前の白い空間がよぎった。


 適性を問う、五つの質問。

 それに答えたあと、最後に表示された文字。


 ――神獣契約、準備完了。


 しらたまと繋がったのは、きっとあのときだ。


「君は、物事の本質を見る目を持っていた。だから神獣の力に引きずられず、あれの中に残った古い縁を見誤らずに済んだ。だが、それだけでは繋がれない」


 氷冥の視線が、私の右手へ落ちた。


「神獣の主となるには、己を保つ芯がいる。あれは幼く見えても神獣だ。自分の軸を持たぬ者が繋がれば、縁を結ぶどころか、その縁に呑まれる」


 私は無意識に、右手の指輪に触れた。


「君には、神にも世界にも委ねきらぬ矜持もあった。歪みから目を逸らさず、正面から確かめようとする性質もあった」


 そこで、氷冥は一度言葉を切った。


「だが、あれが君に繋がったのは、力のためだけではない。君の中には群れに馴染みきれぬ孤独があった。主と名を失い、世の理から外れたあれは、君に同じ気配を見つけた」


「……孤独、ですか」


「孤独を知る者だからこそ、声にならぬ痛みに気づける」


 氷冥は静かに言った。


「そして君は、与えられた未来ではなく、自ら選ぶことを望んだ。そのすべてが揃ったから、あれとの縁は結ばれた」


「……それで、私はどう受け止めればよろしいのですか?」


 氷冥はすぐには答えなかった。


 その沈黙が腹立たしくて、ずっと見ないふりをしていたものが、少しずつ言葉になっていく。


「私は、自分で望んでこの世界に来たわけではありません。帰れるかもわからない。なのに、気づけば役割ばかり増えていく」


 答えは返らない。


「私は、いったい何を求められているのですか。答えてください、氷冥」


 指先から温度が抜けた。


「名を呼ぶな」


「では、教えてください。氷冥」


 彼の名を呼ぶたび、身体の芯が薄く削られていく。それでも、止める気にはなれなかった。


「君だけの問題ではない」


 氷冥の声が硬くなった。


「……どういう意味ですの」


「あれは今、君を拠り所にしている。君の存在が揺らげば、あれの存在も揺らぐ」


「しらたまは神獣でしょう。私とは別の存在です」


「別の存在だ。だが、今は君と繋がっている」


「……もっと詳しく説明してください」


「かつて、あれは私の眷属だった。私の意志を地上に伝え、北の民と私を繋ぐ神獣だった」


 氷冥は、遠い記憶をたぐるように目を伏せた。


「だが、やがて信仰は薄れ、私の力は衰えた。このまま繋いでいれば、私が消えるとき、あれも巻き込まれる」


「だから、縁を切ったのですか」


「そうだ」


 守り石の前で、しらたまが氷冥の名を呼んだときのことがよみがえった。


 ――思い出したい。


 あのとき、しらたまは確かにそう言っていた。


「記憶も、奪ったのですか」


 氷冥は答えなかった。

 否定しないのなら、そういうことなのだろう。


「勝手なことを」


 自分の声が、低くなる。


「守るためだったと言えば聞こえはいいです。でも、あなたは何も知らせずに切り離した。名前も、主も、全部忘れさせて」


「そうしなければ、あれは私を探した」


「探してはいけなかったのですか」


「消えるものに縋れば、共に消える」


「それでも、あなたのそばにいたいと望む権利は、あの子にもあったはずです」


 氷冥は、否定しなかった。


「私も、こちらの世界に来るときに、選んだつもりではありましたわ。けれど、何を選ばされていたのかまでは知らされていませんでした。あの問いに答えた結果、神獣との契約が結ばれるなど、誰が想像できますの」


 言葉にして初めて、自分が何に傷ついていたのかが形を持った。


「しらたまはそれすら許されなかった。あなたのそばにいるか、忘れるか、探しに行くか。何ひとつ、自分で選べなかったのでしょう」


「……そうしなければ、あれは消えていた」


「それは、あなたの意思ですわ。しらたまがどうしたかったのかまで、あなたが決めていいはずがありません」


 氷冥は苦しげに目を伏せた。


 彼もまた傷ついているのだとわかった。けれど、だからこそ余計に許せなかった。

 痛みを知りながら、しらたまの気持ちを置き去りにしたのだ。


「私が間違えたら、領民だけでなく、あの子まで消えてしまうかもしれないなんて」


 しらたまの顔が浮かんだ。


 名前をつけたとき、ぱあっと輝いた大きな瞳。私が倒れそうになるたび、慌てて寄ってきた温もり。


 ――しらたまが消える。


 その可能性を考えるだけで、自分の手が氷のように冷えていく。


「……重いのです。私は、そんなに強くありませんわ」


 そのとき、入口で小さな物音がした。

 振り返ると、戸の隙間に白い毛が見える。


「しらたま……?」


 白い毛玉が、そこに立っていた。薄青の瞳が、大きく見開かれている。


「……ぼく、氷冥の眷属だったの? そんな大事なこと、忘れてたの?」


「しらたま、今のは――」


 一歩近づくと、しらたまは後ずさった。


「澄音も、重いって思ってたの?」


「違いますわ」


「でも、言ってた」


 しらたまの声が震えた。


「ぼくがいると、澄音まで大変になるんでしょ」


 すぐに否定しなければならないのに、言葉が遅れた。

 違う。重いのは、しらたまではない。


「じゃあ、ぼくは迷惑かけてるの?」


 小さな声が、床に落ちた。


「氷冥に捨てられて、澄音に重いって思われて……ぼく、いらないの?」


「違います!」


 今度ははっきり声が出たけれど、遅かった。


 しらたまは身をひるがえし、倉庫の外へ駆け出した。


「しらたま!」


 追いかけようとして、足元がぐらつく。それでも戸口まで走った。


 外はもう薄暗い。北領地の冷たい風が、地面の霜を細かく舞い上げていた。


 白い毛玉が、路地の向こうへ消えていく。


「しらたま!」


 返事はなかった。


 さっきまで、自分はいなくてもいいのではないかと思っていた。

 それなのに、私は今、その痛みをしらたまにも味わわせてしまった。


 ――しらたまに、いなくなってほしくない。


 ようやく、ぐちゃぐちゃになった感情の中で、その気持ちだけが確かなものになった。

6月後半は少し立て込んでいるため、次回更新まで少し間が空きます。

ごめんなさい…(´;ω;`)

遅くても7月初めには再開できる見込みです。

物語は引き続き進めていきますので、のんびりお待ちいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ