19-1. 私が切り拓き、繋いでいたもの
「……何を、間違えていると言うのですか」
「君が数えているのは、できぬことばかりだ。神に頼れぬこと。桃園彩葉のように奇跡を起こせぬこと。誰かの一番になれぬこと」
「……事実ですわ」
「事実の一部だ。私は前に言った。誰かに選ばれるのを待つな。自分の手で切り拓け、と」
森で聞いたあの言葉が、今さらのように意味を持ってよみがえった。
「君は、神にすら見放されたこの北領地を、自らの意思で選んだ」
「それは、難易度が高いほうがやりがいがあると思っただけですわ」
「この地を、君がよいと思えるやり方で立て直したいと望んだ。神に頼れぬと知っても投げ出さず、自ら考え、自ら動いた」
「自分で選んだことなのですから、投げ出さないのは当然ですわ」
「当然だと言うが、それを誰もができるわけではない。君はそのうえで、淀みの広がりを止めた。桃園彩葉も言っていたはずだ。君が病の広がりを止めたからこそ、今ここで人を救えているのだと」
守り石の光が、淡く揺れる。
「それだけではない。観測者にすぎなかった私の輪郭を、君はこの世に縫い留めた」
「……それを、私がしたことに数えてよろしいのですか」
「君でなければ、道は開かなかった」
吐く息だけが、白くほどけた。
けれど、さっきまで肌を刺していた寒さは、もう同じようには感じられなかった。
「君は、自分の手で切り拓いたものを、まだ数えていない」
「……氷冥」
名を呼んだ瞬間、守り石の光がふっと強まる。
指先から、わずかに力が抜けた。
「名を呼ぶなと言ったはずだ」
同じ言葉なのに、前ほど冷たくは聞こえなかった。
「……慰めてくださっているのですか?」
「事実を述べた」
「……でしょうね」
思わず、息が漏れた。笑えたのかもしれない。
「氷冥」
あえてもう一度、名前を呼んだ。
指先がまた少し冷えたけれど、彼はもう止めなかった。
床下の光が濃くなり、よりはっきりと人影が結ばれる。
銀の髪。薄青の瞳。
ここ数日、しらたまと一緒に村を回った。
汚染を止め、守り石に触れ、何度もこの土地の霊気を見た。
その積み重ねが、彼をここに留める助けになっているのかもしれない。
「……先ほど、思ったのです。私がいなくても、この世界は続くのかもしれない、と」
氷冥は何も言わなかった。
「彩葉さんがいれば、神々は力を貸します。照国様は食べ物を作れる。津々巳様も伊主那様も助力してくださる。領民も、わかりやすい奇跡に救われる」
自分で言っていて、嫌になるほど冷静だと思った。
状況を整理し、根拠を並べ、結論を出そうとする。
そういうところが、たぶん私は可愛くない。
「私がやったことにも確かに意味はあったのでしょう。汚染を止めた。病の広がりも防いだ。けれど、それは誰か別の人でもよかったのではありませんか」
「違う」
「根拠は?」
「君でなければ、しらたまとは繋がらなかった」
思いがけない名前に、一拍、返事が遅れた。
「……しらたま?」
今回は長くなりそうなので、2回に分割させていただきます。
後半は数日以内に、なるはやで更新予定です(*- -)(*_ _)ペコリ




