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好感度マイナスの恋巫女候補に転移しましたが、領地だけは建て直します  作者: 御堂あゆこ
第3章

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17. 神様に頼らなかったら、詰められました

 病人たちの様子が落ち着いたあと、私は倉庫へ戻ることにした。


 回復したとはいえ、食糧不足も保存環境も、何ひとつ解決していない。


「あの、澄音さん。私も行っていいですか?」


 彩葉が遠慮がちに声をかけてくる。


「構いませんわ。ただ、危ないものには触れないでくださいませ」


「はい!」


 素直な返事がまぶしい。私は軽く息を吐き、倉庫へ向かった。


 倉庫の入口の前に、見張りを頼んでいたしらたまがちょこんと座っていた。

 私に気づいたのか、ぱっと顔を上げる。

 その姿に、彩葉の視線が吸い寄せられた。


「わあ……かわいい。澄音さん、この子は……?」


「ぼくはしらたま! 澄音と契約してる神獣だよ!」


「神獣……?」


 彩葉がぱちぱちと瞬きをする。どうやら、神獣という存在は知らないらしい。


「すごい……。初めて見ました。えっと、撫でてもいいですか?」


「いいよ!」


 しらたまは愛想よく胸を張った。彩葉がそっと頭を撫でると、指先がふわふわの毛に沈む。しらたまは気持ちよさそうに目を細めたが、すぐに私の足元へ戻ってきた。


「でも今は、澄音の補佐中だからね!」


「補佐……。しらたまちゃん、偉いんですね」


「えへへ、そうでしょ!」


 しらたまが得意げに尻尾を揺らす。


 そのまま倉庫の奥へ進むと、彩葉は守り石の前で足を止めた。


「この石……なんだか、不思議な感じがします」


「ええ。普通の石ではなさそうですわ。ただ、私にも詳しいことはまだわかっていませんの」


 私は守り石へ視線を向ける。


 石の奥で、青白い光が一度だけ淡く揺れた。


「今、光りました……?」


「……ええ。そう見えましたわね」


「はじめまして。桃園彩葉です。……ええと、石にご挨拶するのは変かもしれませんけど」


 先ほどの光が氷冥の反応なら、桃園さんの声に応じて姿を見せるかもしれない。

 三柱の神々の加護を、あれほど自然に引き出した人なのだから。


 けれど、石はそれきり沈黙したままだった。


 私は万象盤へ視線を落とす。


【参照:南領地/桃園彩葉】

 照国:100(MAX)

 津々巳:74

 伊主那:67


 ……氷冥の名前が表示されない。


 私の欄には出たのに。


 彩葉の声が届かなかったのではなく、そもそも出現の条件が違うのかもしれない。

 氷冥は、三柱の神々と同じ枠では測れない存在なのだろう。


 そう考えたところで、倉庫の入口に強い光が差した。


 振り返る前から、誰なのかはわかった。

 紅の衣、朱金の瞳。入口に立っていた照国は、さきほどまで彩葉に向けていた柔らかな表情を、もう欠片も残していなかった。


「……ずいぶんな有様だな」


 照国の視線が、倉庫の中をゆっくりとなぞる。


 湿って傷んだ米袋。使えるものと使えないものに分けられた備蓄。床に残る水気の跡。急場しのぎで整えた木箱の列。


 見られたくないものを、順番に見られている気がした。


「病人を出し、食糧を損ない、領民を不安にさせた。しかも、神の加護を求めるでもなく、己の判断だけで対処したと聞いた」


「照国さま、それは……澄音さんは、皆さんのために」


 彩葉が小さく声を上げる。けれど、照国はそちらを見なかった。


「彩葉。君が庇う必要はない。これは、青藍澄音の担当領地で起きたことだ」



 担当領地。


 そうだ。私はこの北領地を選んだ。選んだ以上、ここで起きたことから目を逸らすことはできない。


「保存環境には、以前から問題がありました。病人の発生原因も、汚染された食糧である可能性が高く――」


「ならば、なおさらだ」


 照国の声が、私の言葉を断ち切った。


「なぜ、最初から加護を求めなかった。なぜ、神へ願わなかった。恋巫女候補とは、神と心を通わせ、領地へ恵みをもたらす者だ。君はその役目を軽んじ、病と飢えが領民の命に関わる事態だと知りながら、神へ助けを求めることなく独断で処置を進めた」


 説明すべきことはあった。


 そもそも私は、神に助けを求められるだけの関係を、まだ築けていなかった。

 それは、神殿で最初から彼らの期待を外したからだ。恋巫女候補らしく振る舞えず、疑問を口にした。

 その結果、好感度はマイナス。祈れば応えてもらえるなどと、甘く考えられる状況ではなかった。


 だから、今できることから手をつけた。

 汚染された食糧を分け、病人を把握し、これ以上被害が広がらないように止める。

 それが、あの時点で私にできる最善だった。


 けれど。


 病人が出たことは、事実だ。

 食糧が足りないことも、領民が不安になったことも、事実だ。


 結果が伴っていなければ、どんな事情があったとしても言い訳にしか聞こえない。


 私は唇を引き結んだ。


 照国は、そんな私を見据えて告げた。


「これは、恋巫女候補としての怠慢ではないのか」


 倉庫の中が、しんと静まり返った。


 彩葉が息を呑む気配がする。しらたまが、私の足元で毛を逆立てた。


 怠慢ではないと、そう言い切りたかった。

 けれど、今の私には、その言葉を裏付けるだけの結果がなかった。

ここ最近、澄音にはちょっとしんどい展開が続いております。

さすがにこのまま長く放置するのは可哀想なので、次話はなるべく早めに更新したいと思います。

もう少しだけ見守っていただけると嬉しいです!

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