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好感度マイナスの恋巫女候補に転移しましたが、領地だけは建て直します  作者: 御堂あゆこ
第3章

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16-2. 正ヒロインは、奇跡を起こす

「病人が出たと聞きました」


 彩葉の声が、ふっと低くなった。


「まだ、具合の悪い方がいるんですよね?」


「ええ。汚染の拡大は止めましたが、体力の落ちた方はまだ回復途中ですわ」


「……会わせてもらえますか?」


 私は一瞬だけ考える。


 神々がここにいる以上、何らかの加護が使える可能性は高い。

 案内するなら、重症度の高い家からだ。


 ただ、汚染そのものは切り離しても、衰弱まで消えたわけではない。神の加護が身体にどんな負荷をかけるのかもわからない。


 それでも、目の前に回復の手段があるなら、使わない理由にはならなかった。


「わかりました。こちらです」


 私は彩葉たちを、病人たちが休んでいる家へ案内した。


 辰蔵さん一家の家に入ると、なっちゃんの母親は、半身を起こすのもつらそうにしている。なっちゃん自身も、熱は下がり始めているが、まだ頬に赤みが残っていた。


 彩葉はその光景を見た瞬間、息を呑んだ。


「ひどい……」


 声が震えている。


 彼女は布団のそばに膝をつき、なっちゃんの顔を覗き込んだ。


「苦しかったよね。もう大丈夫だからね」


「……お姉ちゃん、だれ?」


「桃園彩葉です。澄音さんと同じ、恋巫女候補なの」


 彩葉は柔らかく微笑む。

 その笑顔は、まっすぐで、あたたかくて、きらきらしていた。


「照国様」


 彩葉が振り返る。


「この子たちを、助けてあげたいです」


 照国は当然のように頷いた。


「よかろう。君の願いならば」


 その言葉と同時に、室内の空気が変わった。


 冷えた部屋の中に、ふわりと陽だまりのような気配が満ちる。薄暗かった壁が、光を受けたように柔らかく輝き始めた。

 彩葉の手元に、淡い金色の光が集まっていく。


 ただ、助けたいと願う。

 そして、神々がそれに応える。


 彩葉がなっちゃんの手をそっと包むと、金色の光が指先から流れ込んだ。


「……あ」


 なっちゃんの浅い呼吸が、すう、と深くなった。頬の赤みも、少し引いている。


「おとう……」


 そばで見ていた辰蔵さんが、弾かれたように布団へ近づく。


「なつ……!」


「からだ、軽い……」


 その声を聞いた瞬間、辰蔵さんの顔がくしゃりと歪んだ。


「よかった……よかった……!」


 彩葉は次に、母親へ手を伸ばした。


 津々巳が静かに目を伏せる。


「彼女は、まず水の巡りを整えよう」


「お願いします、津々巳様」


 彩葉がそう言うと、今度は淡い藍色の光が金色の光に重なった。


 母親の呼吸がゆっくり整っていく。乾いていた唇にわずかに色が戻り、こわばっていた肩の力が抜けた。


「……楽に、なりました」


 母親がかすれた声で呟く。


 彩葉の目に、涙がにじんだ。


「よかった……」


 そのあとは、早かった。


 彩葉は神々の加護を借りながら、まだ熱の残る者、咳が続く者、衰弱して起き上がれない者の手を取っていった。


 照国の陽が体に力を戻し、津々巳の水が乱れた巡りを整える。伊主那は淡々と病人の状態を見極め、加護を与える順番を指示していた。


「次は、その子だ。熱は下がりかけているが、消耗が大きい」


「はい!」


「そちらの老人は後にしろ。先に水分を取らせる必要がある」


「わかりました!」


 彩葉は素直に頷き、言われた通りに動いていく。


 村人たちの間から、驚きの声が上がった。


「顔色が戻った……!」


「さっきまで起き上がれなかったのに」


「神様の加護だ……!」


「彩葉様が、助けてくださったんだ」


 その声に、彩葉は何度も首を振った。


「私だけの力じゃありません。澄音さんが先に病の広がりを止めてくれていたからです。私は神々のご加護を賜って、そのあとを少し手伝っただけで……」


 村人たちの目に映る奇跡は明らかだった。


 弱っていた者が起き上がり、苦しそうだった子どもが笑う。

 泣いていた親が、神々と桃園彩葉に手を合わせた。


 私は、それをただ眺めていた。


 皆が元気になってよかった。


 心からそう思う。

 けれど同時に、別の感情が私を苛んだ。


 私が一晩かけて成したのは、病がこれ以上広がらずに済んだということだけだった。

 彩葉が一瞬でもたらしたのは、苦しんでいた人が起き上がるという、圧倒的な奇跡だった。


 比べてしまえば、自分のしたことはあまりにも地味で、誰の記憶にも残らないもののように思えた。


 最後に加護を受けた子どもが、母親の腕の中で小さく笑ったとき、彩葉は涙を拭いながら嬉しそうに笑った。


「よかった……本当に、よかったです」


 その声に、村人たちが何度も頭を下げる。


 ほんの数時間で、この世界が彼女を愛する理由を思い知らされた。

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