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好感度マイナスの恋巫女候補に転移しましたが、領地だけは建て直します  作者: 御堂あゆこ
第3章

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16/26

16-1. 正ヒロインは、奇跡を起こす

 彼女は、こちらに気づくと、ぱっと表情を明るくした。


 赤茶の髪をふわりと揺らしながら、駆け寄ってくる。頬には血色があり、瞳はきらきらと輝いていた。北領地の冷たい空気の中でも、彼女の周囲だけ春の日差しが差しているみたいだった。

 後ろに立つ照国の存在感も相まって、少し眩しい。


「お久しぶりです、澄音さん。あの、急に来てしまってすみません」


「……いえ。こちらこそ、遠いところをようこそお越しくださいました」


 口から出た言葉は、いつものお嬢様仕様だったが、内心では、どう受け止めるべきか判断しかねていた。


 彩葉は胸の前で両手を合わせ、少し照れたように笑った。


「南領地のほうが、ひとまず落ち着いたんです。照国様たちのお力もあって、霊気も巡るようになって、村のみなさんも笑顔が増えて……」


 照国が満足そうに目を細めた。


「彩葉はよくやった。南領地は、着任から一週間足らずで初期達成条件を満たしている。民の幸福度、霊気循環、治安、資源、そして神々との親和。いずれも申し分ない」


 初期達成条件。


 頭の中でゲームの記憶が起動する。


 領地育成フェーズにおける序盤の到達ライン。


 霊気循環の安定。

 領民の幸福度の一定値突破。

 治安と資源の最低ライン確保。

 神々との親密度上昇。


 そこを越えると、その領地はひとまず自走できる状態に入る。

 もちろん最終評価は別にある。けれど、序盤の失格リスクは大きく下がる。


 着任から一週間足らず。


 その間、こちらは領地の現状を把握し、問題の優先順位をつけるだけでも手いっぱいだった。

 一方で、南領地はもう初期達成条件に到達している。


 なるほど。もう勝利は見えている、と言いたいわけだ。


 彩葉はそんな私の内心など知るはずもなく、まっすぐな目でこちらを見る。


「それで……北領地は大変だって聞いたので、私にも何かできないかなって思ったんです」


 悪意はない。それはわかる。


 彩葉は本当に、北領地のことを心配している。私を追い詰めようとしているわけでも、自分の優位を見せつけようとしているわけでもない。


 ただ、南領地で成功したから、余裕ができたから、困っているこちらへ手を差し伸べに来た。それだけだ。


「お気遣い、ありがとうございます」


 私は静かにそう答えた。


 彩葉はほっとしたように笑った。


「よかった。澄音さん、きっと一人で頑張りすぎているんじゃないかと思って」


 一人で頑張りすぎている。


 その言葉は、たぶん優しさだ。

 けれど、胸の奥に小さな棘みたいに刺さった。


「ご心配には及びませんわ。北領地には北領地の状況があります。まずは、現状をご覧いただいた方が早いかと」


 そう言うと、彩葉は力強くうなずいた。


「はい。私、できることなら何でもします!」


 その言葉に、照国が柔らかく微笑む。


「彩葉らしい。己の領地が整えば、次は他者を思いやる。愛とは、そうして広がるものだ」


 私は黙ってその言葉を聞いた。


 愛。またそれか。


 北領地の空気は冷たい。倉庫にはまだ異常の痕跡が残り、病人たちは回復途中で、食糧不足も解決していない。

 けれど、今この場には、南領地を早々に安定させたヒロインと、その成功を祝福する神々がいる。


 この世界はたぶん、彼女の方を正解と呼ぶ。

 いや、元の世界でも同じだ。

 明るくて、素直で、誰かに頼ることも、手を差し伸べることもためらわない人。そういう人の方が、多くの場所で受け入れられる。

毎回1話が長くなりがちなので、今回は2回に分割します。

後半は本日午後にアップします(*- -)(*_ _)ペコリ

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