Episode8
ダイニングバルで食事をしていた私たちは、併設されたダーツバーへ移動した。躍る心を抑えたくて、普段は飲まないレッドブルウォッカを一気に飲む。
人たらし代表の諒太は「俺も同じやつにする」と、同じお酒を手にしている。
合コンで女の子が「私も君と同じハイボールにする」と言われると嬉しい、と聞いたことがあったけれど、なるほど、こういう気持ちなのか。確かに、少し嬉しかった。
「昔から凛は可愛かったし、今もここにいる女性の中で一番綺麗」
「ネイルそれ自分でやってるの?めっちゃ綺麗、器用だね」
その言葉は本音だけれど、本心ではない。わかってはいるけれど、一緒に笑い一緒に楽しんでいるこの時間が永遠に続けばいいと心から願った。
現実は残酷で、諒太には家族がいる。終電で解散した後、彼が何をしているのかも私は知らない。それでも、私の心にはずっしりとした感覚が残った。
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いい大学を出て、いい会社に入って、スキルアップのために努力するのが当たり前の世界の人たち。私はずっとそこに憧れていた。一度だけでも覗いてみたいと、胸の奥で欲望が騒ぐ。
けれど、自分の経歴では大手企業に入ることは不可能だった。その世界で彼らが選ぶ女性のスタートラインにすら私は立てていない。
時が経つにつれて、そんな願望は少しずつ薄れていった。そして、当時勤めていた会社の同僚、拓哉と出会い、付き合い、結婚したのだった。




