Episode6
―――拓哉と出会うずっとずっと前の話。
物心ついた頃からよく会っていた5歳年上の諒太という男の子がいた。母親同士が友人だったと記憶している。
家も離れていて、年も違う。どちらかの自宅で遊んだり、公園に行ったり、私はいつも諒太の後ろをくっついて歩いていた。いつのまにか会うこともなくなって記憶からも薄れていっていたある日、高校からの帰り道に偶然駅前で再開した。遠くに立つ諒太を見つけた瞬間、お互いずいぶん変わっているはずなのに不思議とすぐにわかった。
―――私はあの瞬間、初恋の相手にもう一度、一目惚れをした。
諒太は地元の高校を卒業後、都内の大学へ進学。得意の英語にさらに磨きをかけ、大手企業へ就職して着実にキャリアを重ね、今はアメリカ駐在員として奮闘しているらしい。
そんな諒太の世界の話を聞いて、ますます憧れが強くなっていった。
しかし現実の私は卒業単位すら危うい。出席日数はギリギリだったが、成績はそこまで悪くなかったからか進路調査票に「大学進学」と記入して出したところ推薦枠をもらえた。
その後、無事卒業し大学に進学したものの、気の合う友達もできず、受けたい講義もない。将来どころか明日何がしたいかもわからない日々を過ごす。目的を見いだせないまま高い学費を払い続けるのも親に申し訳なく、大学を2年で中退。派遣会社に登録し、未経験でもできる一般事務の仕事に就いた。
PCを扱うのは割と得意だったからか、仕事の吸収は早かったと思う。部長や課長などと喫煙所で会話をしたりすることも多く、休日には会社の人数人でツーリングに行くことも増えていった。
そんなある日、海外で暮らす諒太から一通のメールが届く。
「LAでの滞在が1年延びたんだけど、遊びに来ない?」
私は迷わず「行く!」と答えた。
そして、連絡が来てから3ヶ月後。初めての一人飛行機、10時間の耐久レース。諒太にロサンゼルス空港まで迎えに来てもらい、輝かしい街で過ごす一週間が始まった。
諒太と私は、友達以上恋人未満の関係で、密度の濃い時間を共にした。
手をつないで歩き、同じ部屋で眠り、酔った勢いで「好きだよ」と言ってしまった夜。
でも、私と諒太は恋人になれる関係ではない。その後の進展もなく、一週間を楽しんで帰国。旅行以来会うこともなかった。
それから一年後”どうしても諒太に近づきたい”と強く願った瞬間、私は行動を起こした。
驚異的なスピードで片道航空券を取り、語学学校を予約し、家を見つけ、海外へ飛び立ったのだ。
ワーキングホリデーの制度を利用してオーストラリアへ。期間は一年と決めて、私は必死に生きた。
目に見えるもの、匂い、行きかう人々、全てのことが刺激的で外国の友達も少しだけ作ることができた。オーストラリアの国内を旅行したり、街を散策したり。バイトを見つけるのは苦戦したが、飲食店や空港のレンタカーなどやりたいと思うことは全てやり尽くせたと思う。
もちろん、心が折れそうなことも多かった。
語学力が足りずバイトをクビになったり、夜中に騒ぐ外国人ルームメイトと喧嘩したり、自分の常識がみんなの常識ではないことを痛感し、母に泣き言を送る日々。「いつでも帰ってきていいんだよ」という言葉を支えに、多くの人と触れ合い、生きるスキルを少しずつ身につけることができた。




