Episode5
シン…とした部屋の中で、言葉にできない感情が心を巣食い、あまりの身勝手さに体が震えた。
その後の数か月は、とことん話し合いを重ねた。
話し合いから逃げられることも多々あったけれど、私は何度も泣き、自分を責めて、未来を諦めたくないと譲歩を重ねた。
それでも、拓哉の気持ちは変わらなかったのだ。
自宅は一気に冷戦状態となり、帰宅しても口を利かない日々。
家庭内別居が続く中、とうとう私から口にした──
「拓哉、解散しよう」
“離婚しよう”と言えなかったのは、まだ拓哉を愛していたからなのかもしれない。
そして、最後の話し合いの日。
大声で泣いたのは、いつぶりだっただろう。
人があんなに大粒の涙を流す姿を、これまで見たことがあっただろうか。
泣き止むまでに何時間かかったかわからない。
二人で鼻をすすりながら、淡々と家具や指輪、車などの共有財産の分与を決めていき、日を改めて心が落ち着いた段階で離婚届を提出した。
「凜ちゃん、結婚してこれからってときに幸せにしてあげられなくてごめん」
「私、幸せだったよ。拓哉といる時間、ふざけあってる時間、全て大切だった」
「本当にごめん。さようなら」
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もう二度と、こんなに人を好きになることはない。そう思い、私はただ真っ直ぐに仕事に打ち込んだ。
レベルアップのため転職しようか、思い切って海外で暮らそうか、前向きに考えたこともあった。
けれど、結局無理をしていたのだろう。
私は適応障害で仕事に行けなくなった。
笑い合い、ふざけ合い、同じ映画を見て感想を言い合い、未来を描き、隣で眠る──
いつの間にか当たり前になっていた日々の尊さを、痛感せずにはいられなかった。
嘘をつき、借金を隠して逃げた男でも、私にとって拓哉は世界で一番愛した人だった。
言葉では言い表せないが、拓哉という人間そのものを、私は愛していたのだ。
こんな人に、生きていて出会えること自体が奇跡なのだと。
だから、私はもう未来に期待することをやめた。




