Episode12
会っている時間の健斗は、最上級に愛を伝えてくれる人だった。
何を着ても、何をしても「可愛い」と褒めてくれる。
触れ合っている時間も、とても優しい。
「もう一人で抱え込まないで。これからは俺がいるから」
「凛ちゃんが行きたがってたあの温泉、来月行ってみようか」
私の心は充たされていく。離婚の傷心も、過去の孤独も忘れるほどに。
けれど、会えない時間に私は置き去りにされている。
そして、ある日突然健斗からの連絡は返ってこなくなった。理由はわからない。最後の言葉も途切れた会話も、そのまま宙に浮いている。
どうしてあんなふうに優しかったのか。どうしてあんなふうに未来の話をしたのか。わからないまま答えだけがどこにもない。心が追いつかない。納得できないまま時間だけが過ぎていく。消えたという事実よりも理解できないという感覚がじわじわと私の中に広がっていく。
そんな恋愛にハマっている自分に気づいたとき、これはホストにハマった女の子の心情そのものだと確信した。
ホストとの恋愛に未来はない。ないと分かっているから、プレーヤーは未来の話をしない。
だけど、会っている時間だけは目の前の女の子を最高に幸せにする。
どうやら私は、どこの店舗にも属していないホストに沼ってしまったらしい。
そんな話を、学生時代の友人にしたんだ。
ホストみたいな人にハマった……とは言わなかったけれど。
ただ、虫の居所が悪いときに話してしまったのだろう。会話は思っていたより険悪になっていった。
「まだ離婚したばかりじゃん。次見つけるの早くない?聞いてる限りその人全然信用できない」
「私、もし今自分が離婚して子供いなかったら絶対仕事に生きる。だって仕事は裏切らないよ?」
「転職してみたり、資格取ったり、恋愛以外のことしなよ」
「大体、元旦那もゴミみたいなやつだったし、男見る目ないよね」
「てか、あの諒太さんだっけ?いつまでしがみついてるの?もう存在が邪魔じゃん」
言葉の凶器を向けられた私は、その場では愛想笑いをすることしかできなかった。
普段から少しきつい言い方をされることはあっても「こういう性格だよな」と割り切って付き合ってきた。10代の頃からの付き合いで良いことも悪いことも一緒に経験してきたし、仕事への向き合い方は素直に尊敬している。
私のことをどれだけ悪く言われても受け流すことはできる。
だけど、会ったこともない拓哉のことを、離婚の一面だけを聞いてすべてを否定するその言い方には、どうしても腹が立った。
―――彼のいいところを知らない他人が、どうしてそこまで言えるのか。
そして何より、諒太を否定されたことがどうしても許せなかった。
私はこの友人に「凛は優しすぎる。そこがダメ。もっと自分本位でいい」と何度も言われてきた。
でも、私が他人に優しく接する根源は、諒太が私にくれた無償の優しさにある。
だから、拓哉を否定することは、私の選択そのものを貶すことになる。
諒太を否定することは、私のすべてを否定されるのと同じだった。




