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妖精の森、時は巡りて  作者: たろんぱす


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赦しを待つ夏2

※性的に痛いシーンがあります。ご注意下さい。苦手な方はご遠慮下さい。



 湯浴みを終えてエラの寝室へ行くと、彼女がきつく目を閉じて祈っていた。昔見た、恋人がいるのに金持ちのオヤジに身売りしなければならない女の姿と被った。


(好いた男でもいたか……)


 確かにこの結婚は王命だが、俺は嬉しかった。相手にもそんな風に思っていて欲しかった、なんて我儘だろうか。

 貴族は早くに婚約者がいると聞くし、エラにもいたのかもしれない。別れてまで来たとか?


(勝手に悪者にされても)


 だだ確かめればよかったのだ。だけど拒絶されたら、それはショックだ。そんなささくれ立った気持ちのまま、俺は事に及んだ。

 彼女は時々うめくように声を上げるだけで、何も言わず、名前すら呼んでくれなかった。この事が余計に俺の気持ちを逆撫でた。


「エラ、エラ……」

「う……ぃっ」


 こちらを見ないエラに気持ちを押し付けるように接した。よく考えもせず、今までの女と同じように。

 後から思えば、俺は初めての女を初めて抱いた。つまり加減をしなければいけなかったわけで。


「なっ、なっ……何でこんなに血が出るんだよおぉーー!! つか痛いなら痛いって言えぇーー!!」


 俺はズボンだけ履き、明け方に村長宅へと駆け込んだ。

 事情を説明すると、村長夫人が近所の奥さんと三人で領主邸まで来て、エラの世話をしてくれた。


「信じられない……初めての娘にここまでする? 賊じゃないんだから」

「鬱血痕が赤通り越してド紫なんだけど。怖っ」

「怖かっただろうねぇ。奥様頑張りましたねぇ」


 小さい村だ。この噂は瞬く間に広がり、俺は村中の奥さんにゴミ虫を見る目で見られるようになった。めっちゃ居づらい。だけど家を出ようものなら多分二度とエラの顔を拝めなくなる、くらい「責任とれ」の圧がすごい。


 その日エラは目覚めず、次の日の昼に意識を戻した。何とか水とフルーツを口にし、再び眠り、夜間の看病は俺が請け負った。

 額の濡れ布巾を時々替えて、目覚めたら水やフルーツを食べさせた。

 エラは俺を責めることは無かった。


「旦那、様。私に構わず、試しの小屋へ、行って下さい」

「君の熱が下がったらちゃんと行くから。良くなってくれ」


 エラが気にしていたのは村の風習の方だった。どうしてそんなにそんな事を気にするのか。

 俺は、エラの肩や二の腕、腰にくっきりついた俺の手形の方が気になって仕方ない。


(こんなに肌が薄く柔いなんて。跡が残らないよな?)


 エラの熱が下がるのに一週間かかった。一度下がるも少し動くと再び熱を出す、が暫く続き、途中月の経で体調を崩し、と動けるようになるまでひと月以上かかった。

 その間に体中についた痣が消えたのは良かったが、彼女は一回り痩せてしまった。


 そして。


「団長、仕事でーす」


 留守にしなくてはならなくなってしまった。


「私なら大丈夫です」

「そ、そうか? 本当か? 無理するなよ。沢山稼いで肉買ってくるから」

「ありがとうございます。お怪我なく帰って来てくだされば十分です。行ってらっしゃい」

「うん、行ってきます」




 仕事の内容は一番嫌いな貴族のボンボンに手柄を持たせるヤツだった。

 追い詰める所までは俺ら傭兵団で請け負い、敵の親玉だけを貴族が倒し手柄を得るってヤツ。

 この伯爵の長男だか次男だか知らんが、とにかく鈍臭くて、敵を前に尻餅をつく、転ぶ、剣を落とす。ぶっ殺したくなった。


「クソッ! マジイラつく」

「しぃーーっ! 団長ダメですよ! 誰が何処で聞いてるかわかんないんすから」


 すぐ終わると思っていた仕事は延びに延びて半年もかかった。しかも失敗の責任を傭兵団に押し付け、賃金を減らしてきた。剣や防具の整備代にもならない。赤字だ。


「このままじゃ帰れねぇー!!」

「やー、奥さん待ってんしょ? 帰りましょうよ」

「肉を買って帰ると約束したんだ」


 家に帰らずそのまま商人の護衛の仕事を受け、家に帰り着いたのは村を出てから八ヶ月も経った時だった。雪こそ降っていないものの、すっかり葉が落ち冬景色だ。




「あ、領主候補のおじちゃんだ」

「本当だー」

「もう来ないかと思ったー」

「奥さんに知らせてこよー」


 食糧や薪を乗せた荷車を引いて村に入ると、子供達にまとわりつかれた。ひとりは小走りに村の奥へ向かう。


「誰がおじちゃんだ、ざけんな。つか俺の家あるから帰るっての。ほら、飴やるよ」

「え、やったー」

「ありがと〜」

「おじちゃんありがとう」

「おじちゃんはやめろ」


 飴の入った瓶を差し出すと、わらわらと手が延びてひとつずつ取っていく。

 子供を引き連れて歩いて行くと、走って行った子供とエラ、と? 二人の子供がくっついて来た。


「旦那様、お帰りなさい! お怪我はありませんか?」

「ただいまエラ。体は大丈夫か?」


 エラを抱きしめようと思ったが、二人の子供がエラのスカートの右と左にしっかりとくっついている。二人とも黒髪と緑の瞳で、大きい方は男の子、小さい方は腰まで髪を伸ばした女の子だ。

 村の子供達と同じような古着を着ているが、肌は荒れなく綺麗で、明らかに何処ぞかの坊ちゃん嬢ちゃんの兄妹だ。


「えー、この子達は?」

「森のお客様だよ」

「二ヶ月前に来たんだ」

「大事にしないと」

「森のお客様ぁ? 何だそりゃ」


 子供達に説明を求めると、「森に迷い込んで無事に村に着いた人は妖精に滞在を歓迎されてるから、村にいていい人なんだ」ってことらしい。また妖精か。

 この村に妖精馬鹿馬鹿しいって思ってるヤツいないのかね?




「全く、馬鹿馬鹿しい」


 居た。割と近くにいた。

 帰宅し、挨拶に出て来た執事のハミルに買って来た肉を渡そうとしたら、子供達を見て小声で奴は呟いた。

 俺が見ているのに気がつくとハッとして奥に引っ込んだ。ハミルは妖精を信じていないようだ。それより冬の食糧が厳しい時期に食客が二人増えていることの方が忌々しいのだろう。


「旦那様、子供達を紹介させて下さい」

「ああ」


 やはり二人は兄妹で、兄がセオで十歳、妹がルーシーで六歳。

 二ヶ月前のこと、何処から来たのかは一切口にせず、ただ気がついたら村に来ていたと言ったそうだ。

 この村では森から迷い込んできた人を歓迎する風習がある。ふざけんな、盗賊とかだったらどうすんだ! と言いたいが、過去その例はないらしい。ため息ついていいだろうか。

 そんなこんなで、森のお客様は領主邸預かりとなっているとか。

 久々の自宅、久々の嫁さん。何にもするつもりはなかったけど、一緒に寝るくらい……と思ったが、子供達がエラと寝ていた。


 あまつさえ。


「エラ、皮むけたよ」

「エラ、お湯が沸いたわ」

「ありがとう二人とも」


 三人で暮らす基本のルーティンが出来上がってしまっていて、何とも混ざりづらい。


「旦那様、朝ごはんですよ」

「あ、うん」


 朝食には俺が買ってきたベーコンが使われていた。

 保存のきくソーセージや塩漬け肉ばかり買ってきたから、大事に食べてくれそうだ。

 席に着くとカトラリーの横に小皿が置いてあり緑色のビスケットの欠片が乗っていた。

 これは? と問う間もなく、三人がビスケットをパクリと口に入れ、子供達は間髪入れずにジュースをゴクリと飲んだ。

 エラの方を見ると、目が合い頷かれる。


「旦那様も」

「これはなんなんだ?」


 子供の様子から察するに不味そうだが?

 

「風習のひとつです。家内安全、無病息災を願う(まじな)いですね。この村では皆が毎日食べます」

「嘘だろ」


 意を決して口に入れる。


 まっっっっず!!! は? まっず!


 苦味と濃い草の匂いが口を満たす。これならただの草のがマシだろう。


「明日から俺はいらないから、君たちだけでどうぞ」

「えっ!? 旦那様、そんな」

「いや、風習ってだけでよくそんなに従えられるよな? 結局のところ俺達ってよそ者なわけだし、出来ることだけをすれば良いだろう?」


 困った顔をするエラに「ハミルは食べてるのか?」と聞いたら「食べてません」と返ってきた。やっぱりな。奴はやらないと思った。でも元気そうだし大丈夫なんだろう?




 そして帰ってきた次の日から俺は試しの小屋へ行くことになった。


「折角帰って来たのに……」


 いつもの様に両側に子供をくっつけたエラの先導で小屋へ向かう。バリケードのようで、全然エラに近づけないんだが。

 小屋は意外と奥に建てられていて、日当たりが悪い訳ではないが、なんとなく薄暗い気がする。


「どうぞ、鍵はありません。ベッドとテーブルに椅子、暖炉があるくらいです」


 中に入ると、まあ一人で暮らすには不自由ない広さではあった。壁際に薪が積まれているが、追加で拾ってこないと無くなりそうだ。幾つか木箱があり、中には根菜類、着替えや上掛けなど。暖炉には鍋がひとつ吊り下げられている。

 ここでひと月か。


 エラは水の汲める場所や食べられる草の生える場所など色々説明して、最後に暖炉上に置いてある缶ケースを手に取って、蓋を開けた。中はあの緑色のビスケットだ。


「旦那様はお嫌でしょうが、用意しておきました。朝起きたら、三つに割り、一つは暖炉へ。一つは水を汲み入れたコップと共に窓辺へ。一つはご自身で食べてください。食べる分は小さくてもいいので。二週間分のビスケットが入っています。無くなったら家へ取りに来てくださいね」


 心底心配そうに言われて、仕方なく「はいはい」と答えた。


 エラ達が帰り、シンと静まり返る小屋の中が落ち着かず外へ出て素振りをした。日が落ち切る前に小屋へ戻り暖炉に火をつけ芋を煮る。


「静かだな……」


 傭兵団にいる時は詰所で寝泊まりしていた。家庭がある奴は帰るが、一人もんは大体詰所にいた。

 独りというのは随分久しぶりだ。

 芋を食うと、薪を無駄にしないためさっさと寝ることにした。




 トントン。




 夜中、いつかはわからない。小屋をノックする音を聴いた気がした。


「くあっ〜、あー。朝か」


 起きて小屋のドアを開ける。


(足跡は無いな)


 夢でも見たのか。

 中に戻り灰を掘り返して火を熾す。水瓶から鍋に水を移し火にかける。沸いてから飲む用を木のコップに移し、コップが二つあることに気がついた。


『窓辺に』


 エラが言っていたのを思い出し、もう一杯湯を汲んで窓辺に置く。


「あー、ビスケットか」


 缶から一枚取り出して、真ん中で割るつもりが斜めに割れた。小さい方を暖炉に投げ込み、大きい方の端を小さく割って食べた。


「うぇ」


 一番大きいのを窓辺に置く。意味なんてない気がするけど。

 煮立つ鍋に根菜をナイフで削って入れて、塩で味を整えて食べる。


「肉欲しい」


 昼間は好きにしていいらしいから、狩にでも行くか? と思案する。

 ひとまず昨日聞いた水辺を確認して、水瓶の水を取り替える。鍋と食器を洗って、食べられる草とやらも確認する。ついでに乾いた枝を拾って薪の山に足して、お昼前にはする事がなくなった。

 村に行っていいそうなので、行くことにする。じゃないと暇死する。


「男達なら朝から狩りに行ったよ」


 しかし村には女子供しか居なかった。どの家も編み物やら機織りやらしている。子供はともかく女の目は厳しい。ゴミ虫を見る目は継続中だ。

 狩りと言っても動物を狩るばかりでなく、きのこや山菜などの食える物全般を指してるらしい。

 一緒に行きたきゃ朝来な、と言われ玄関を閉められた。

 村に来たついでと自宅へ向かうと、笑い声が聞こえてきた。エラと子供達だ。

 俺の存在に気がつくと、子供達は無表情になってしまったが、エラは笑顔で駆け寄ってきてくれた。

 正直、酷いことしたとは思う。だけど笑顔を向けてくれて嬉しい。癒される。


「旦那様! どうですか、小屋暮らしは。やっていけそうですか?」

「ああ、まあ。ビスケットも、食べたよ」

「まあ! お利口ですね」


 褒め言葉に面食らう。エラも子供に向ける言葉だったことに気がつき、はっと目を泳がせた。


「くっ、ふふ。そうだろう? お利口だろう」

「〜〜っ、すみません。最近子供達とばかりお喋りしているからつい」

「いいさ」


 そう言ってエラの頰にキスをした。


「ご褒美はこれで」


 驚いたエラが一歩飛び下がる。警戒する猫みたいで可愛い。

 エラは慌てながらも昼食に誘ってくれ、子供達に威嚇されながらだが楽しく一緒に食べた。

 帰りにエラが俺の土産のソーセージを包んで持たせてくれた。名残惜しく森の小屋へ帰る。


 この日も前日と同じく、早めの夕飯を軽く食べ、早めに就寝した。




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