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妖精の森、時は巡りて  作者: たろんぱす


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エピローグ



──池の神、泉の神、湖の神、どれをとっても明白であろう。太古の人々はその存在を女性的に捉えてきた。日に輝き、しなやかに揺蕩う、闇に沈み、時に荒れ狂う、そんな面々が女性を連想させたのか。それとも本当に女神を見たとでも言うのか。さらにその多面的な印象から、水の神も別の側面を持つことが多い。芸術、美しさ、繁栄、そして時間。流るる水の如く、流れゆく時を神は見守り、気まぐれに操るという──




「お嬢さん! 着いたぞ」


 私は読み耽っていたおじいちゃんの手帳を閉じた。バックパックにしまい、荷物を持ってトラックの荷台から飛び降りる。そのまま窓の開いた運転席に近づく。


「ありがとうおじさん! 思ってたよりずっと早く着いちゃった」


 首都から国の端っこまで、ヒッチハイクで一週間かかったが、歩きだったらまだまだ着かなかっただろう。


「本当にこんな辺鄙なところの土地を継いだのかい? 町までは徒歩三時間はかかるから気をつけるんだな。じゃあ、幸運を祈るぜ」

「本当にありがとう! 気をつけてね」


 トラックに大きく手を振り見送ると、くるりと振り返る。トラックが走っていた土の道から向こう側は腰まである草がびっしり生えている。そのさらに向こうには鬱蒼と茂る森がどこまでも広がっていた。


「うわぁ、毒虫とか毒蛇とかに咬まれませんように」


 ジーパンの尻ポケットから手書きの地図を取り出して確認する。


「つっても道がなぁ。あの木と木の間かな。ちょっと間隔広いし」


 当たりをつけて雑草の海を掻き分けて前に進む。森の入り口まで来ると、人口的なロープが目に入った。木札がぶら下がっていて、“国有地”という文字の上から大きくバツ印が書かれていた。


「雑な対応だわ。回収していけばいいのに」


 ロープの下を抜けて森へと入る。不思議と、森の中はそこまで荒れていなかった。下生えは足首くらいまでだし、地面の起伏も困難な程じゃない。


「不思議ね。整備されているみたいに歩きやすい。遠目に見た印象と全然違うじゃない」


 なんとなく大きな木が街路樹のように並んで見えて、それにそって奥へと進んだ。三十分程夢中で進み、視界に残骸のような家屋が目に入った。


「あ……!」


 再び地図を出して確認する。


「広場から最初に見えるのが村長さん家で、広場の横にパン焼き竈。あ、竈ある。屋根は落ちちゃってるけど、石窯は掃除すれば全然使えそう。そんで近くに井戸。ここで間違いない! やったー!! 着いたー!」


 広場は石畳が敷かれていたらしく、雑草が少ない。それでも草は石をひっくり返して荒れてはいたが。


「私が貰った家は……あっち、か」

「誰だ?」


 くるりと方向を変えた時、背後から声がして私は飛び上がった。こんなところに人がいるなんて、脱獄犯とかだったらどうしよう……!

 恐る恐る振り返ると、そこにいたのはある程度清潔感のある三十前後の男だった。長く黒い髪を後ろでひとまとめにし、簡素なシャツの下には鍛えられた体、森を思わせる緑の瞳が印象的だ。肩に担いだ棒の先に事切れた兎がぶら下がっていて、その姿はまるで狩りを司る男神を思わせた。


「あ、えっと、不審者じゃないわよ。この先にある家を貰ったから見にきたの。本当よ。おじいちゃんの生家だって、オレンジの家って聞いたわ」


 男は一瞬目を見開き、私の事をまじまじと見つめてきた。はっきり言う。くっっっそイケメンなんだけど。


「その“おじいちゃん”とはレイのことか?」

「えっ! おじいちゃんを知っているの?」

「ああ、昔一度会ったことがある」


 男前は口の端を緩く上げ、私に手を差し出した。


「この森の番人をしている、セオだ」

「アレックスよ。暫く見て回るつもりなの。よろしくね」








──妖精の森、四季は巡りて。

 たとえ朽ちても、落ちた種は芽吹き、再び実るでしょう。

 きっと、あなたの側で。




〈妖精の森、時は巡りて・終〉





本編完結です。ありがとうございました。


後日エラ視点の番外編アップしますので、お時間ある時にでもよろしくお願いします(*^人^*)

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