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妖精の森、時は巡りて  作者: たろんぱす


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刈り取る秋4



 新聞を見せてくれた男はデュークと名乗って、フィンの友人だった。情報収集が得意で、最近はそれを生かして傭兵団に情報を売って生活しているらしい。

 フィンの頼みでぐるりと首都を巡って帰ってきたそうだ。今日は労いも込めて、夕飯でもてなし泊まっていくらしい。

 フィンとデュークは大きくて、二人そろうと六人用のダイニングテーブルが狭く感じるのに、エラが張り切ってテーブルいっぱいにご馳走を用意したので、ますます狭く感じた。


「ほとんどがデュークさんのお土産だけどね」


 と言って、鳥の丸焼きをテーブルの真ん中にどん! と並べる。


「うわぁ、すごーい」

「立派だな」

「まぁね? まぁねー? 来る途中に石でちょちょいっとねー。はっはっはー」


 褒められたデュークはわかりやすくドヤ顔で胸を張る。石で仕留めたとか凄すぎる。


 食前の感謝をデュークに捧げて、フィンがナイフで鳥をバラす。筋肉に沿ってナイフを入れて、関節を外してと鮮やかに熟す。

 晩餐会でテーブルに並べられる鳥の丸焼きは飾りで、食べる分は既に切られ皿に飾られてから出される。目の前で切り分けられるのは初めてだ。


「ほら、セオ皿」

「あ、ありがとうございます」

「鳥バラすの面白い?」


 食い入るように見ていたからか、デュークに聞かれてこくりと頷く。


「ふふ、礼儀正しくてもやっぱりセオは男の子ね」


 エラにそう言われたのは、なんだか恥ずかしかった。やっぱりなんて付けなくても僕は男だ。

 僕も大人になったら、こんなふうになんでも手際良く出来るようになるんだろうか?


 


 食後、エルシィは片付けをするエラの手伝いに行った。いつもだったら僕も片付けを手伝うのだけど、今日はお酒を片手に話す大人達の方が気になった。


「お、セオも呑むか〜?」

「アホ、それは酒だ。セオはこっちだ」

「うん」


 特に邪魔だと言われずに、ジュースのコップを渡される。大人の仲間に入るのはちょっとドキドキする。

 

「首都はどうだった?」

「あー、ね。フィンの言った通りだったわ。負け続きのせいか終戦を望む声が多くて、そっちに動いている貴族が民衆から支持されてる感じ。なんなら傭兵が戦争を長引かせている悪って感じの言われざまでさぁ、やんなっちゃう」

「そうか」


 デュークはつまみに出されたピクルスをバリボリと齧る。


「新聞に傭兵が連続して野盗に襲われた事件載ってたろ? あれもさ、傭兵が悪い! って野盗を捕まえる動きはない」

「だろうな」

「オレ達、何で戦ってたんだろーねー?」

「それは生きる為だ。もう酔ったのか?」

「うんにゃ、それもそうか」

「あの、戦ってたんですか? お二人とも」


 遠慮がちに声をかけると、二人が同時に僕を見て、驚く。聞いてはいけないことだったろうか。


「俺は、エラとの婚姻を機に傭兵を辞めた」

「オレも傭兵だったんだけどねー、ある日突然、何でかフィンにスカウトされて情報屋に転職したんだ。本当何でなの、何処でオレのこと知ったのー?」


 デュークと一緒にフィンを見る。フィンはスンと澄ました顔でワインを飲んだ。


「…………」

「はい、だんまりー。まぁいいけどね。オレ的には感謝してるし。いつか教えてくれると嬉しいけど」

「いつかな。それはそうと町に寄ったんだろう? ジャックは元気にしてたか?」


 これ以上話す気はないらしく、サクッと話題を変える。デュークは僕に「フィンがいた傭兵団の人のことね」と教えてくれてから、ジャックの近況を話した。


「元気してたよ。フィンの忠告を聞いて暫くは参戦しないって。やー、参ったみたいよ? 鈍臭貴族の依頼(お守り)が」

「だろうな。俺も御免だ」

「暫くは町の何でも屋でもやるかー、って言ってた」

「そうか。良かった」


 話が切れたところでエラが追加のつまみをもって顔を出す。


「これも食べてね。セオ、そろそろ寝る時間よ。行きましょう」


 エラのスカートにくっついているエルシィが眠そうに目を擦る。もうそんな時間なんだ。だけどもう少し話を聞いていたかった。僕の知らない世界の話を。

 僕が返事しないのを見て、フィンが言った。


「セオは俺が寝かすよ」

「そう? じゃあお願いするわ。あんまり遅くさせないでね」

「ああ、おやすみルーシー」

「おやすみなさい」


 フィンは凄い。周りをよく見て、情報を集めて冷静で大人だと思う。

 僕のこともよく見てくれてる。最初は怖かったけど、今ならわかる。エラに近づく人を見極めていたんだって。

 尊敬の目でフィンを見ると、明らかに口角を下げて嫌そうに言った。


「おい、俺をそんな目でみるな。言っとくが俺は大した人間じゃない」

「いやいや、フィンは凄いって」

「僕もそう思います」

「本当に違うから、やめてくれ……」

「へいへい。ああ、そうだ頼まれてたやつー」


 デュークは、一度丸めて伸ばしたような皺だらけの紙切れを何枚か纏めてフィンに渡した。


「悪いな、ありがとう」

「それはなんですか?」

「あ、セオは昼間も新聞に興味示してたな、そういや。これもね、新聞だよ。ナルディアナの」

「えっ!」


 席から立ってフィンの横から見る。


「個人でナルディアナと繋がりがある家への荷物に緩衝材として詰め込まれてたやつだからね。大したことは書いてないよー。国にバレるとその家庭が危ないから内緒な」

「はい!」


(日付はおよそ三ヶ月前、年代はやはり十年後……! 内容は、コラムと劇場の宣伝。商品の広告、カーネスを見下す風刺記事)


「武器屋の広告の量が減ってないな」

「そそ。まー三ヶ月前のだけどー」

「商人ってのは結構耳が早いはずだがな」

「そこはオレも気になってる」


 話の筋がわからない僕に、デュークが大まかに解説してくれる。

 今、カーネスは反戦派の貴族が働きかけ、ナルディアナと終戦に向けての話し合いがされているんじゃないかと。

 カーネスは白旗を振る、その条件として首都とそれ近郊の自治権を要求し、後は賠償として全て差し出すつもりなのだ。


「そんな都合のいいことに、なりますかね?」

「ならないだろうな」

「子供にも分かることだよなー。ナルディアナは乗ってこない。だから武器の生産量が減ってない」


 その晩は、初めて聞く話ばかりで全然眠気が来なかった。流石に夜も更け、フィンに部屋まで送られたが、ベッドに潜っても目が冴えていた。


 僕が生まれるずっと前から、十年先の未来までも、ナルディアナとカーネスは戦争している。

 当たり前のように思っていたかもしれない。いつか誰かが終わらすって? だとしてもそれは僕たち王族じゃないの。父は、兄は何をしているの?

 僕は、何をしているの?


「帰れるのかな……」


 帰りたいのだろうか。捨てられたあの日に。あの場所に。


 浅い眠りは、剣戟の音で覚まされた。

 音のする方の窓を見下ろすと、フィンとデュークが撃ち合いをしていた。二人の息は白く、体からも湯気のように白い靄が立つ。

 僕は急いで着替えて、下へ降りた。居間を抜けてテラスへ飛び出す。

 ギンッと目の前で切り結ぶ、その迫力に釘付けになった。


(か、かっこいい……!)


 お城では暗記だけ強要する三流教師と厳しいマナー教師から強めの体罰を受け鬱屈としていた。


 剣術の先生も王妃による嫌がらせというか、王太子になる妨害の一貫だったんだと思う。派遣されてきた人は騎士一年目の年若い平民男性だった。

 だけど彼は真面目で、「未熟な自分が王族の指南役なんて恐れ多い」と言い、丁寧な指導を心がけてくれいた。

 そのおかげもあり、体を動かす授業はストレス発散出来て割と好きだった。あんまり気に入った素振りを見せると先生が変えられてしまうかもしれないので、他の授業と同じ態度を崩しはしなかったけど。

 野犬に襲われた時、まともな突きを繰り出せたのは単に先生のおかげといえる。


 目の前の二人が間合いをとったところで僕は声をかけた。


「僕にも手合わせさせて下さい!」


 二人は顔を見合わせてから、デュークが僕に手招きしてくれる。長剣は重いので短剣を渡され、フィンの前に立った。


「よろしくお願いします」

「ああ」


 冷えて澄んだ朝の空気に、高い金属音が響く。フィンは僕の剣を軽く受けて、流して、いなしてと余裕でさばいていく。

 僕も集中して全力で振った。剣を振る度に僕のもやもやが一緒に払われて、気持ちのいい時間だった。


 朝食の席で改めて自分に剣術を教えて欲しいと伝えたら、フィンは渋い顔をした。


「ダメ、ですか?」

「駄目ってか……俺の習った剣は生き延びる事をメインにしてて、泥臭いっつーか、騎士とかに比べたら野暮ったいっつーか。俺に習って癖がつくと、ちゃんと習った時に直すのが大変だぞ?」

「全然そんなことありませんでした! 僕はとてもかっこいいと思いました!」

「〜〜っ」


 エラとデュークは「フィンの負けね」「だね」とくすくす笑って、二人も僕の味方をして、フィンが僕に剣術を教えてくれることになった。



 デュークが再び情報収集へと旅立ち、フィンとの朝稽古が習慣化した寒い日。僕はお誘いを受けた。


「えっ、狩り!?」

「ああ、この前焼いた鳥バラすのに興味持ってただろ? セオの腕前なら付いてきても邪魔にならないだろうからどうだ?」

「行く、行きたいです!」


 次の早朝ということで、その日はブーツのお手入れやカバンの準備をした。勿論カバンはエラが貰ってきてくれたお下がりのヤツ。有り難く大事にしよう。

 フィンが森での注意点を色々教えてくれたのでそれもしっかり覚える。当日は見るだけで、絶対手は出さない事。離れない、邪魔しない、守らないと二度目はないと。


「おにいちゃんだけいいなぁ」

「ルーシーは私と美味しいもの作って待ってようね」

「むーぅん」


 拗ねてるけど、エラと美味しいものを作るのは満更でもないらしくて、エルシィは口を尖らせておかしな返事をした。




 次の日は暗いうちに起きた。エラとフィンはもう起きていて、一緒にスープを食べて荷物を確認した。もしもの為に固くなったパンも入れて、エラがお直ししてくれた外套を羽織る。

 空が白み初めた頃、静かに家を出た。

 いつもより早い朝は一段と寒い。急に消えた嗅覚の違和感に鼻を啜る。


「行こうか」

「はいっ」


 短弓と剣を装備したフィンの後をついて広場へ行くと、既に待っている村の人がいる。


「おはよう、トーマス」

「おはようございます」

「おはようございます、領主様。セオ、今日はよろしくね」

「はい、よろしくお願いします」


 村の男衆八人程が集まって出発となった。

 湖へは南の道を使う。果樹園を抜けて更に南西へ進むとあるんだそう。

 道中、フィン以外の人も、獣道や動物のフン、近づいてはいけないサインなどを教えてくれる。

 目的の湖が近くなり、皆が目配せして静かになった。フィンに手招きされて隣に行くと、湖がよく見えた。朝日にキラキラ光る湖の一角に羽を休めた渡り鳥がたくさんいる。

 僕は湖を見るのが初めてだった。湖とはこんなに大きく美しいものなのかと、見渡す。


(あれ……?)


 僕がぼんやりと見惚れている間にも、三人が素早く矢に網を結びつけ、二人で網が絡まらないように持ち、茂みの中を移動する。

 よく見える位置に陣取っていたフィンが合図を出すと、三人が一斉に矢を放つ。網が広がり何羽かが、引っかかった。その異変に他の鳥達が一斉に飛び立った。

 

 鳥が居なくなり見通しが良くなった湖をじっと見つめるが、見間違いじゃない。


(湖の真ん中が光っている)


 男達は網を回収したり、かかった獲物を締める為に動き出した。

 指示を出すフィンの服をギュッと握り、僕は尋ねた。


「フィン、あの光はなんですか?」

「光?」


 首を角度を変え、目を眇めるフィンに、その光は見えていないようだった。


「ごめんなさい、何でもないです」


 フィンは何にも言わずに僕の頭をひと撫でして指示役に戻った。


 鳥を血抜きした後、森の中を移動しウサギ狩りをする。帰り道では、冬に成るという食べられる小さな実を少し採って帰った。


「「ただいま」」

「おかえりなさい! 寒かったでしょう?」

「おかえりなさーい」


 帰ると二人が笑顔で出迎えてくれてホッとする。暖炉の前に座って、遅めの昼食を取る。食べなかった硬いパンとスープ。それからエラとエルシィが作っておいてくれたジャムサンドビスケット


「わたしが型抜きしたんだから」


 うふふと得意げに笑うエルシィに、帰りに撮った実をあげる。数粒だから全部エルシィにあげたけど、一粒僕の口に詰め込まれた。小さいけど甘くて美味しかった。



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