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憑依体質エージェント 瀬尾茜の事件簿 ~ドジな私が「天才」と呼ばれるのは、七人の幽霊さんのおかげなんです~  作者: ざつ
事件1:暴走するハイテク兵器

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第4話:ライバル宣言

 辰巳の憑依が解けた後、私はまだ床にへたり込んだまま、荒い息を整えていた。


「見事なものだ。専門知識を丸ごと引き出しながら、瞬時に切り替える。この柔軟性は、どんな訓練でも身につくものじゃない」


 柊先輩が、いつもとは少し違う言い回しで褒めてくれる。「常識を逸脱した」でも「予測不能な」でもない、もっと静かな賞賛だった。それだけに、胸の奥にじんわりと染みる。


「そ、そんな、私は別に……」


 誤解されている罪悪感と、憧れの人からまっすぐ向けられる言葉への高揚。二つの感情がせめぎ合い、うまく言葉が出てこない。


「美咲、聞いたか。瀬尾くんの解析、初動の三十秒で原因のあたりをつけていた」


 柊先輩が振り返って美咲先輩に話しかける。だが返ってきたのは、いつもの鋭い声ではなかった。


「……別に、聞いてません」


 短く言い捨てると、美咲先輩は残骸の片付けに戻ってしまう。その背中が、いつもよりずっと固く見えた。


「それにしても」柊先輩が、タブレットの案件履歴を眺めながら、ふと呟いた。「僕らのチーム、今月に入ってから、案件のペースが妙に早いな。他のチームは、まだ二件目とか三件目のはずなんだが」

「そうなんですか?」

「気のせいだろう。……気のせいだと、思いたい」


 柊先輩は苦笑しながらタブレットを閉じた。その時の私は、ただの偶然だとしか思わなかった。


◆


 その日の帰り際、廊下で呼び止められた。


「柊先輩」美咲先輩の声は、いつになく硬い。「次の作戦は、私が単独で担当させてください。彼女の力を借りなくても、私一人で結果を出せます」

「美咲、そういう話じゃ――」

「いいえ、そういう話です」


 美咲先輩は私の方を一切見ないまま、言い切った。


「私はこれまで、実力だけでここまで来ました。得体の知れない力に頼らなくても」


 その一言に、思わず肩が縮こまる。得体の知れない力。まさにその通りだから、反論のしようがない。


「美咲の実力は誰よりも認めている。だが今回の件は、瀬尾くんの適性が偶然噛み合っただけで、君の評価とは別の話だ」


 柊先輩がそう言葉を継ぐと、美咲先輩の目つきがさらに鋭くなった。


「別の話、ですか。……なら、なぜ次も彼女を現場に?」

「それは――」


 柊先輩が答えに詰まる。私自身、聞きたい問いだった。なぜ、いつも私なのだろう。


「次の任務で、証明します」


 美咲先輩はそれだけ言うと、振り返りもせず廊下を歩き去っていった。柊先輩は何か言いかけて、結局口をつぐんでしまう。困ったように眉を寄せるその横顔に、私にかける言葉は見つからなかったらしい。


「……瀬尾くんは、気にしなくていい」


 ようやく絞り出されたその一言が、逆に気になって仕方なかった。


◆


 放課後、屋上に続く階段の踊り場。私は親友の結衣にことの顛末を話していた。事件の詳しい中身は話せないから、いつもの通り「学校行事でうっかり大失敗した」くらいの体で誤魔化して。


「――で、また先輩に迷惑かけちゃって」


 結衣は手すりにもたれたまま、黙って最後まで聞いてくれた。彼女はいつもそうだ。詳しい事情を聞き出そうとせず、ただ隣にいてくれる。


「それで、美咲って先輩には、また睨まれたわけね」

「うん……。今日なんて、口すらきいてもらえなかった」

「あんたのそういうとこ、昔から変わんないね」


 ぽつりと零された一言に、私は瞬きをする。


「昔から、って? 結衣と会ったの、中学からじゃなかったっけ」

「……さあ、どうだったかな」


 結衣は曖昧に笑って、話をはぐらかした。


「まあ、いいけどさ。それより、その先輩とやら、今度は正々堂々と実力で来るんでしょ? だったら茜も、少しは自分の力を鍛えたら?」

「そ、それが……念動力の特訓は、今朝もぬいぐるみ一個動かせなくて」

「相変わらずね」


 結衣は呆れたように笑い、風で少し乱れた前髪を指で直す。その拍子に、手首で小さな星形のキーホルダーが揺れた。見慣れたはずのそれに、なぜか今日はやけに目が吸い寄せられた。


「そのキーホルダー、可愛いね。前から着けてたっけ」

「……うん。ずっと前から」


 結衣の声のトーンが、ほんの少しだけ低くなった気がした。深く聞くのも野暮な気がして、私はそれ以上尋ねなかった。


◆


 結衣と別れた帰り道、河川敷に寄り道して、こっそり自主練をすることにした。誰も見ていない場所で、空き缶を並べて念動力の的にする。


「動け……動け、お願い……!」


 念じても念じても、缶はぴくりとも動かない。代わりに、足元の砂利がわずかに音を立てて震えただけだった。


「……才能、なさすぎでしょ、私」


 思わず声に出してぼやく。今日一日で言われた「得体の知れない力」という言葉が、頭の中でぐるぐると回っていた。幽霊さんたちの力を借りれば何でもできるのに、素の自分は、こんなにも頼りない。


 それでも、と思う。せめて美咲先輩に「証明する」と言わせたこの状況で、自分だけ何もしないわけにはいかない。何度目かの挑戦で、また缶はびくともせず、私はその場にへたり込んだ。


◆


 夜、自室のベッドに寝転がりながら、天井を見上げる。


――見習い期間、残り10ヶ月かぁ。


 正規エージェントに昇格できなければ、能力を封印されて、静かにASTRAを去ることになる。そうなれば、柊先輩の隣にいることも、二度とできなくなる。今日みたいに、幽霊さんたちの力を借りて誤魔化し続けるだけの毎日にも、いつか終わりが来る。


――美咲先輩、本気で怒らせちゃったな……。


 今日の硬い背中を思い出すと、胸がちくりと痛む。彼女の言う通り、私は自分の力で何かを成し遂げたことなんて、一度もない。全部、幽霊さんたちに助けてもらっているだけだ。なのに、周りからはどんどん「天才」だと思われていく。積み上がっていく誤解の重さに、ときどき押しつぶされそうになる。


――今度こそ、自分の足で、ちゃんと立たなきゃ。


 そう決意を新たにしながらも、瞼はすぐに重くなっていく。明日からまた、慌ただしい日々が始まる。そんな予感だけを残して、私の意識はゆっくりと眠りに沈んでいった。


本作品はカクヨムで先行公開しています!

続きが気になる方はぜひカクヨムにも訪れていただけると嬉しいです!


あ、その前になろうでのブクマと評価もぜひお願いします!!

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