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憑依体質エージェント 瀬尾茜の事件簿 ~ドジな私が「天才」と呼ばれるのは、七人の幽霊さんのおかげなんです~  作者: ざつ
事件7:能力者兵器化阻止作戦

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第24話:見せない顔

「ねえねえ茜、聞いてよ。今度クラスの男子に告白されそうなんだけど」


 放課後、下校中の桃香が、いつも通りの調子でまくし立ててくる。


「え、それはすごいじゃない。誰なの?」

「それが、誰だかまだ分かんないんだよねー。噂だけ先に回ってきて」

「順番、逆じゃない?」


 思わず突っ込むと、桃香はけらけらと笑った。


「まあでも、告白されるされないより、そもそも今、気になってる人がいないのが問題なんだよね。刺激が足りないっていうか」

「刺激て。恋愛にそんなの求める?」

「求めるよ! ドラマチックな出会いとか、憧れちゃうじゃん」


 こういう他愛のないやり取りに救われている自分がいる。詳しい事情は何一つ話せないけれど、それでも、こうして隣を歩いてくれる存在がいるだけで、気持ちがずいぶん軽くなる。


「もし告白されたら、どうする予定?」

「んー、まずは相手をじっくり観察してから――」

「観察て」

「大事でしょ、恋愛は戦略だよ、茜」


 そんな益体もない話をしながら公園の脇を通りかかった時、見覚えのある人影が目に入った。ベンチに一人腰掛けている、美咲先輩だった。


 私服姿の美咲先輩は、いつもの隙のない佇まいとは違い、心底疲れたような顔で、ぼんやりと空を見上げていた。肩の力が抜けきった、初めて見る表情だった。膝の上に置かれた手は、ぎゅっと握りしめられている。


――あの人にも、あんな顔する時があるんだ。


 なんとなく声をかけそびれ、桃香を引っ張って物陰から様子を窺ってしまう。


「な、何、何。誰かいるの?」

「し、静かに。知り合いの人」


 小声でそう伝えると、桃香も興味津々な顔で覗き込んできた。しばらくすると、美咲先輩は小さく独り言のように呟いた。


「……昔、道場で……」


 そこで言葉を止め、小さく首を振ると、何事もなかったかのように立ち上がり、颯爽と歩き去っていく。いつもの、隙のない後ろ姿だった。


「え、誰? 茜の知り合い?」


 隣で桃香が、興味深そうに首を傾げる。


「あ、えっと……バイト先の先輩、みたいな人」


 咄嗟に誤魔化す。


「ふうん、綺麗な人だね。……でも、なんか、いつもと違って見えた」

「完璧に見える人にも、色々あるんだろうねえ」


 桃香は、いつになく静かな声でそう言った。木々の隙間から漏れる西日が、その横顔を照らしている。


「あたしもさ、昔、完璧を求めすぎて空回りした恋、あったなぁ。理想ばっかり追いかけて、目の前の相手のこと、ちゃんと見てなかったっていうか」


 初めて聞く話に、私は思わず桃香の横顔を見つめる。普段の彼女からは想像もつかない、しんみりとした口調だった。だが、その真面目な空気は一瞬で霧散した。


「――なんてね! そんな重い話はやめやめ! それより、さっきの告白の件だけどさ!」


 いつもの明るい調子に戻り、桃香はまた饒舌にまくし立て始める。私はその変わり身の早さに、思わず笑ってしまった。


「桃香って、たまに大人っぽいこと言うよね」

「たまにはね。でも基本はこっちが素だから!」


 夕暮れの道を、二人で並んで歩く。空はオレンジから紫へと、少しずつ色を変えていた。他愛のない話をしながらも、頭の片隅では、さっき見た美咲先輩の疲れた顔が、なぜか離れなかった。


――「昔、道場で」って、何を言おうとしたんだろう。


 そう考えていた矢先、制服のポケットで端末が激しく震えた。ASTRAの緊急招集アラート、しかも最上位の警戒レベルだった。桃香と話す声が、遠くに聞こえる。


「茜? どうしたの、急に難しい顔して」

「あ……ごめん、ちょっと用事、思い出しちゃって!」


 早口でそう言い残し、私は駆け出していた。画面に表示された文字が、頭から離れない。


――ASTRA重要施設、武装勢力による占拠発生。至急、本部へ。


 心臓が、嫌な音を立てて跳ねる。これまでとは、明らかに規模の違う何かが、始まろうとしていた。


――また、うちのチームだ。数えてみれば、この数ヶ月だけで、もう何件目になるんだろう。


 走りながら、ふとよぎったその疑問を、今はまだ、深く考える余裕がなかった。


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