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憑依体質エージェント 瀬尾茜の事件簿 ~ドジな私が「天才」と呼ばれるのは、七人の幽霊さんのおかげなんです~  作者: ざつ
事件4:ゴースト・ハッキング事件簿〜移動する機密データ〜

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第15話:秘密の重み

 その朝、目覚まし時計が鳴る前に、私は目を覚ましていた。頭の奥に、鈍い痛みが居座っている。ここ最近、こういう朝が増えた気がする。


「……また、寝不足かぁ」


 鏡に映る自分の顔には、隠しきれない疲労の色が浮かんでいた。学校に行けば行ったで、憑依体質のことを気取られないよう気を張り、放課後になればASTRAの任務が待っている。息をつく暇が、どんどん減っている気がした。他の見習いエージェントは、月に一、二件のペースだと聞いたことがある。私だけが、なぜかその何倍もの案件をこなしている。


 事件解決後の報告会。柊先輩は、いつになく真剣な顔で私を見つめていた。


「瀬尾くん。今回の件で、確信した。君の情報解析能力は、僕が思っていた以上のものだ。これからも、技術系の案件は積極的に君に任せたい」

「あ、ありがとうございます……」


 素直に喜べばいいはずなのに、頷く声が、どこか上ずってしまう。隣に座る美咲先輩は、いつもなら何か一言挟んでくるはずなのに、今日は黙って書類に目を落としたままだった。


「美咲、何か意見は?」

「……いえ、特には」


 短い返事だけを残し、美咲先輩は先に部屋を出ていってしまう。その背中を見送りながら、柊先輩は少し首を傾げていたけれど、深くは追及しなかった。


 報告会が終わり、一人で廊下を歩きながら、私は小さくため息をついた。


――嬉しい。嬉しいはずなのに。


 頼られれば頼られるほど、いつかこの「天才」の化けの皮が剥がれる日のことを考えてしまう。憑依体質のことがバレたら、柊先輩はどんな顔をするだろう。軽蔑されるだろうか。それとも、実験対象のように扱われるだろうか。考えるだけで、指先が冷たくなる。


 窓の外、夕暮れの街を歩く人々を眺めながら、私はふと足を止めた。あの人たちは、誰も彼も、自分の力で今日を生きている。私だけが、借り物の力で毎日をやり過ごしている気がしてならなかった。


 その日の夜、結衣に電話をかけた。事情は話せないから、いつも通り「バイトで疲れた」とだけ伝える。


「また先輩がらみ? あんたも大変ね」

「うん……なんか、頼りにされればされるほど、しんどくなる時ってあるんだね」

「贅沢な悩みじゃない。それだけ評価されてるってことでしょ」


 軽い調子で返されると、それもそうかと思えてくる。結衣の声を聞いているだけで、強張っていた肩から少しだけ力が抜けた。


「でもさ、無理して期待に応え続けるのって、しんどいでしょ。あんた昔から、そういうところあるし」

「昔から、って……また、その話?」

「さあ、どうだったかな」


 いつものように、はぐらかされる。何気ない一言のはずなのに、今日はやけに引っかかった。


「まあ、無理しすぎないようにね。あんたはすぐ抱え込むタイプだから」

「うん……ありがとう」


 電話を切った後、部屋の天井を見上げながら、私はぼんやりと考える。


――美咲先輩、あの日から、何も言ってこないな。


 配線の異常を、素の私が見抜いてしまったあの瞬間。美咲先輩の視線が、何かを探るように私の顔に留まっていたのを思い出す。あれ以来、皮肉も嫌味も、以前より少しだけ減った気がする。それが良い兆候なのか、悪い兆候なのか、判断がつかない。むしろ、何も言われない方が、じわじわと不安を煽られる気がした。


――いっそ、ズバッと嫌味を言ってくれた方が、まだ気が楽なのに。


 そんなことを思いながら、私は寝返りを打つ。


――柊先輩にとっての「天才の私」と、本当の、ドジでどうしようもない私。


 このまま、どちらか一方を演じ続けなければならないのだろうか。それとも、いつか両方とも、誰かに知られてしまう日が来るのだろうか。柊先輩が本当のことを知ったら、今のように優しくしてくれるだろうか。想像するだけで、胸の奥がきゅっと締め付けられる。


 答えの出ない問いを抱えたまま、私はベッドに横になる。見習い期間はもう8ヶ月足らず。積み重なる秘密と疲労が、静かに、しかし確実に、心と体を蝕んでいくのを感じながら、私はゆっくりと目を閉じた。


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