【二人組の冒険者】
「その二人、冒険者のような格好だったんですよね?」
聞かされた特徴を思い返し、アリアは口を開いた。
「だったら、ギルドで聞いてみます。登録していなくても、誰かが見かけているかもしれません」
「ふむ。そちらから探るのもよかろう」
エルヴァルドは提案を受け入れ、言葉を継いだ。
「こちらも引き続き調査を進める。ラゼルムを連れ出すまでに、何らかの準備があったはずだ。その痕跡を追わせよう」
「お願いします。私も、何か分かったら知らせに来ます」
会談を終えたアリアは席を立ち、一礼して退出した。
城門を抜けると、通りには荷車や買い物客が行き交っていた。店先から呼び込みの声が届き、焼きたてのパンの香りが漂ってくる。
その人波に交じり、冒険者ギルドへ向かった。
二人組が立ち寄っただけでも、装備や容姿を覚えている者がいる可能性はある。
やがて目的の建物に着き、扉を押し開けた。
中では武具を身につけた男女が掲示板を囲み、報酬を受け取った一団が出口へ歩いてくる。彼らとすれ違って窓口へ進むと、書類を整理していたミレシアが顔を上げた。
「こんにちは。今日はどのようなご用件でしょうか」
「少し、相談したいことがあるんです」
アリアは声を抑えた。
「ラゼルムが王都から逃げたと聞きました。二人組の手引きで連れ出されたそうなんですけど、詳しい方法も、向かった先も分かっていなくて」
ミレシアは手元の作業を止めた。
「その件で、国王陛下とお話しされたのですか?」
「はい。二人とも冒険者風の見た目だったそうなので、ここなら何か手がかりがあるかと思って」
アリアは続けて、調査を頼んだ。
「依頼の記録や、見かけた人の話を調べてもらえませんか?」
ミレシアは周囲の客へ視線を配り、声を落とした。
「王国の貴族に関わることですから、なるべく内密にしたほうがよいかと。ここで広く聞いて回ると、噂が先に広まってしまいます」
「ただ、冒険者らしい身なりというだけでは、相手を絞り込むのは難しいですね」
「この窓口にも、毎日大勢の方がいらっしゃいます。似た服装の二人連れも珍しくありませんから」
「……そうですよね」
アリアは肩を落とした。手掛かりになると思っていた特徴も、ここではありふれたものに過ぎない。
「ですが、調べられる範囲で当たってみます。ほかの職員が覚えている可能性もありますし」
「ありがとうございます。お願いします」
アリアは窓口を離れ、依頼掲示板を眺める人々の脇を通り抜けた。扉を押し開けて外へ出ると、通りを走る馬車の車輪が石畳を鳴らしていた。
背後で戸が閉まり、館内のざわめきは遠ざかった。
ギルドの外で待つメルヴァリスたちに調査を頼んできたことを伝えた。
「でも、服装だけだと探すのは難しいって。何か分かるまで、待つしかないのかな」
「王都の調査は、陛下とギルドにお任せしてよいと思います」
メルヴァリスはそう答え、別の案を出した。
「私たちはセレミリアにも行ってみませんか」
「セレミリア?」
「ラゼルムと出会われたのは、あちらの西の森でしたよね。その辺りで活動していた者なら、現地の職員が何か知っているかもしれません」
逃亡先を探すことばかり考えていたが、以前の足取りを確かめる方法もあった。
「そっか。ラゼルムのことを聞いてみるんだね」
「はい。連れ出した二人についても、そこからつながりを探れるのではないかと」
ルミシェナも賛同した。
「主様、カリナさんにご相談してはいかがでしょうか。事情を説明すれば、どこを調べるべきか教えていただけると思います」
「うん。ここで待っているより、できることをやってみよう」
方針が決まり、四人は出立の支度を整えた。
王都を出発した四人は、途中で休息を挟みながら街道を進んだ。旅の途中でも、アリアは西の森での出来事をたどり直したが、逃亡につながりそうな心当たりは浮かばなかった。
セレミリアに到着すると、その足でギルドを訪れた。
入口から中へ入ると、卓上に地図を広げ、行き先を相談している冒険者たちの間を抜け、四人は受付へ並んだ。
先客への応対を終えたカリナが、こちらに気づく。
「アリアさん! 皆さんもご一緒なんですね。今日は依頼をお探しですか?」
「ううん。カリナさんに聞きたいことがあって」
挨拶を交わしたあと、アリアは少し身を寄せた。
「人に聞かれたくない話なんだけど、今、大丈夫?」
「はい。奥でお伺いします」
カリナは四人を奥の相談室へ案内した。
「前に私が西の森で会った、ラゼルムって人のことなんだけど……」
王城で知らされた経緯と、ミレシアへ協力を求めたことを順に説明する。カリナは口を挟まず、最後まで耳を傾けた。
「それで、こっちでも何か分からないかなと思って」
「ラゼルムという方については、私ではお力になれそうにありません。ただ、お話にあった二人連れに、少し心当たりがあります」
思いがけない返答に、アリアは机に手を添えた。
「本当? ここに来たことがあるの?」
「ええ。以前、二人組で何度か依頼を受けていらっしゃった方々がいます」
カリナは慎重に補足した。
「ただ、その方々が今回のお話にある二人組かどうかは分かりません」
「うん、それは分かってる。でも、少しでも手掛かりが欲しいんだ」
「でしたら、私の知っている範囲でお話しします」
「ありがとう。どこから来た人たちなのか、分かるかな」
カリナは記憶を確かめるように少し考えてから答えた。
「こちらから、ずっと東にある村の出身だと伺っています」
「東の村……」
アリアはその言葉を胸に留めた。王都ではつかめなかった手掛かりが、ようやく一つ見つかった。




