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【造られた生命】

新たに得た情報を頼りに、アリアたちはセレミリアを発ち、東へ続く街道を進んだ。


人通りの多かった道も次第に静かになり、周囲に広がっていた畑も見えなくなった。やがて街道は途切れ、四人は道のない土地を進んでいく。


「この先に、その村があるんだよね?」


「はい。教えられた道筋が正しければ、もう遠くないはずです」


メルヴァリスの返答に頷き、アリアは歩みを進めた。


しばらくして、前方に村が見えてきた。


だが、そこに広がっていたのは、予想もしなかった光景だった。


「……え?」


アリアは思わず立ち止まった。


何軒もの家屋が倒壊し、折れた柱や屋根の残骸が辺り一面に散乱している。


焼け焦げた壁が残る建物もあれば、土台だけを残して崩れ去った住居もあった。


道端には壊れた荷車が横たわり、井戸の石組みも大きく崩れていた。


どこを見渡しても、人の姿はない。


「ここが……探していた村なの?」


「そのようですが、ひどい有様ですね」


メルヴァリスも周囲の惨状を確かめていた。


「主様、どうかお気をつけください。何があったのか、まだ分かりません」


ルミシェナが警戒を促す。


「うん。油断せずに進もう」


アリアは慎重に集落の中へ足を踏み入れた。


倒れた木材を避けながら進むと、割れた食器や散らばった生活用品が目に入った。


「いったい、何があったんだろう……」


魔物に襲われたのか、それとも別の原因なのか。


今ある手掛かりだけでは、判断できなかった。


さらに奥へ進もうとしたところで、ロゼリアが声を上げた。


「ご主人様、あちらに誰かいます」


「えっ?」


示された方向へ顔を向ける。


崩れかけた建物の陰から、二つの人影が現れた。


どちらも旅装の上に防具を身につけ、それぞれ武器を携えている。


二人は瓦礫の間を抜け、アリアたちの前へ姿を見せた。


そのうち、背の高い方がアリアへ声をかけてきた。


「お前がアリアか?」


突然名前を呼ばれ、アリアは戸惑いながら答える。


「……うん、そうだけど。どうして私の名前を知ってるの?」


「やはり、そうか」


「あの方の言っていたとおりになったな」


もう一人が言葉を継ぐと同時に、二人の身体から異様な音が鳴り始めた。


「……え?」


名前を尋ねてきた男の両腕が、大きく膨れ上がりながら伸びていく。膨張する身体に押し広げられ、防具の留め具が弾け飛んだ。皮膚の表面には黒い鱗が浮かび始め、やがてほぼ全身を覆い尽くした。


もう一人の男の背中が大きく盛り上がり、衣服が内側から引き裂かれていく。両肩の下から新たな腕が一本ずつ生え出し、合わせて四本となった。露わになった肌には獣のような毛が広がり、腰の後ろからは太い尻尾が伸びていく。変形した口元からは鋭い牙がのぞいていた。


骨格までもが変形し、先ほどまで人間だったとは思えない姿へ変貌していく。


人間と魔物の特徴が混ざり合った、異形の存在。


二体は変化を終えると、アリアたちへ向き直った。


「なっ……何、これ……!?」


「アリア様、これはいったい……」


メルヴァリスも驚きを隠せず、ルミシェナもその異様な変化に息を呑んだ。


「主様……あの方たちは……」


ロゼリアも目の前の存在を凝視したまま、呆然としている。


アリアも戸惑いを隠せなかったが、まずは相手の力を確かめる必要があった。


二体を警戒しながら〈鑑定〉を発動する。


視界に浮かび上がった情報を確認し、その数値に驚愕する。


【鑑定結果:黒い鱗に覆われた男】

名称なし

レベル:90

筋力:2100

敏捷:1700

魔力:300

体力:3500

人造魔生命体


【鑑定結果:四本腕の獣人型】

名称なし

レベル:90

筋力:2900

敏捷:2000

魔力:420

体力:2500

人造魔生命体


「レベル九十……!? しかも、この能力値……!」


二体とも、これまで遭遇してきた魔物の中でも際立って高い能力を持っていた。


「みんな、気をつけて! この二人、ものすごく強い!」


警告を発した直後、黒い鱗の男が地面を蹴った。


巨体が凄まじい速度で迫り、拳を振り下ろしてくる。


「くっ!」


アリアは〈数字変換〉で筋力と敏捷を大幅に引き上げ、斧を本来の大きさへ戻した。


硬度を高めた刃で拳を受け止めると、激しい衝撃で足元の地面が陥没した。


「重い……!」


それでも踏みとどまり、続く攻撃をかわして懐へ踏み込む。


刃が触れる直前に重量を増加させ、男の脇腹へ叩きつけた。


黒い鱗が砕け、巨体が数歩後退する。


しかし、男はすぐに反撃へ転じた。


アリアも斧の重量を調整しながら応戦し、拳と刃が激しくぶつかり合う。


一方、四本腕の怪物にはメルヴァリスたち三人が立ち向かっていた。


「こちらは私たちで引き受けます!」


ロゼリアが八枚の刃翼を広げ、メルヴァリスも〈紅血刃〉を形成して左右から斬りかかる。


だが、怪物は四本の腕で攻撃を防ぎ、強引に二人を押し返した。


「なっ……!」


反撃の拳がメルヴァリスを捉え、地面へ殴り飛ばす。


ロゼリアも刃翼で防御を試みたが、凄まじい力に押し負け、空中から叩き落とされた。


「お二人とも!」


ルミシェナが光衣を束ね、怪物の腹部へ打撃を放つ。


しかし、相手はわずかに身体を揺らしただけだった。


振り下ろされた拳を〈白紗結界〉で防ぐものの、連続する攻撃によって結界が砕け散る。


「きゃあっ!」


守りを失ったルミシェナも殴り飛ばされ、地面へ倒れ込んだ。


「みんな、大丈夫!?」


アリアが声を上げるが、黒い鱗の男が再び迫る。


「こっちも手いっぱいなのに……!」


迫る拳をかわし、魔紋〈ネブラギオス〉を発動する。


左手から伸ばした触手で男の腕を打ち据え、体勢が崩れたところへ斧を振り下ろした。


強化された刃が肩口に食い込み、男が苦痛の声を漏らす。


だが、その勢いは衰えない。


猛烈な反撃をアリアも受け流し、互いに一歩も譲らない攻防が続いた。


その間、三人は何とか態勢を立て直し、再び怪物へ挑んでいた。


メルヴァリスは〈緋刃鞭〉で怪物の腕を拘束しようとしたが、鞭をつかまれて引き寄せられ、腹部に拳を受けて吹き飛ばされた。


ルミシェナも光衣で応戦するものの、圧倒的な膂力に防御を崩される。


ロゼリアは刃翼で斬り返そうとしたが、四本の腕と尻尾による連撃に押され、その場で崩れ落ちた。


「メル! ルミシェナ! ロゼリア!」


アリアは助けに向かおうとするが、黒い鱗の男が進路を塞いだ。


「邪魔しないで!」


触手と斧を立て続けに繰り出す。しかし、男を振り切ることはできなかった。


まともに戦えているのはアリアだけだった。


〈数字変換〉によって黒い鱗の男とは互角に渡り合えている。


しかし、残る三人と四本腕の怪物との能力差はあまりにも大きかった。


「どうしよう……このままじゃ……!」


アリアが戦いを続ける先では、傷だらけの三人が必死に立ち上がろうとしていた。


その前に、四本腕の怪物が悠然と歩み寄る。


三人が限界へ近づいていることは、誰の目にも明らかだった。

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