【変わった故郷】
それから四人はセレミリアを離れ、懐かしい土地へ向かった。
道を進むにつれ、見覚えのある森や景色が増えていく。
しばらくすると、木々の間から開けた場所が見えてきた。
そこに広がっていた光景に、アリアは思わず足を止める。
「……ここ、本当に私の村?」
記憶に残っている姿とは、ずいぶん違っていた。
以前は建て始めたばかりの家や天幕が目立っていたのに、今では何軒もの住居が立ち並んでいる。
整えられた道が奥まで伸び、その周囲には畑も広がっていた。
人の行き来も多く、荷物を運んだり、作業をしたりする人々の姿があちこちにある。
一年という月日で、ここまで変わったのだ。
「すごい……」
驚きながら歩いていると、隣にいたメルヴァリスが口を開いた。
「それと、アリア様。この村には名前がつきました」
「名前?」
「はい。今はアリアシェルと呼ばれています」
「アリアシェル……」
一度口にしてから、アリアは少し間を置いた。
「なんで私の名前入ってるの?」
「はい。この村は、アリア様に助けられた者たちを中心に広がってきましたので」
「その名を入れさせていただきました」
メルヴァリスは当然のように答える。
まさか自分の名前が村の名に使われているとは思っていなかった。
アリアは何とも言えない気持ちになりながら、改めて辺りを見渡す。
自分がいない間に大きく変わった村。
そこには建物が増え、人が増え、新しい名前までついていた。
それでも、懐かしい感覚は消えていない。
姿が変わっても、ここは自分が暮らしていた場所だ。
「帰ってきたんだ……」
やがて視界の先に、大きな城が見えてきた。
アリアは目を疑った。
「……え?」
そこに建っていたのは、自分の記憶にある城館とは比べものにならないほど大きな建物だった。
高くそびえる城壁。
いくつもの塔。
正面には立派な門が設けられ、その先にも多くの建物が続いている。
「これ……なに?」
「はい、アリア様」
メルヴァリスが答える。
「アリア様がおられない間に、少しずつ増築が進みました」
「少しずつって……」
アリアは改めて全体を眺める。
「もう完全にお城じゃない……」
村の変わりようだけでも驚いていたのに、自分が暮らしていた場所までここまで大きくなっているとは思わなかった。
「今はこちらを、ゼロフェル城と呼んでいます」
「ゼロフェル城……」
アリアは聞いたばかりの名前を口にしながら、目の前にそびえる城を見上げた。
すると、遠くから誰かの声が聞こえた。
「アリア様!」
名前を呼ばれ、そちらへ顔を向ける。
一人の住民が駆けてきていた。
その声に気づいた人々も、次々と作業の手を止めていく。
「本当に帰ってきたのか!」
「アリア様だ!」
「よかった……!」
いつの間にか周囲には多くの人が集まっていた。
見覚えのある者もいれば、知らない顔もある。
それでも、向けられる表情はどれも明るかった。
「みんな……」
あちこちから声を掛けられ、アリアは不思議な気持ちになった。
アリアには、一年が経ったという実感がほとんどない。
けれど、目の前に広がる村を見れば、それだけの時間が経ったことは嫌でも分かる。
知らない人が増え、見たことのない建物も並んでいる。
以前とは大きく変わっているのに、こうして帰ってきた自分を迎えてくれる。
そのことが、素直に嬉しかった。
その日の夕方。
村の広い場所には長い机がいくつも並べられていた。
その上には料理や飲み物が所狭しと置かれ、大勢が集まっている。
アリアが帰ってきたと知った住民たちが、急きょ祝いの席を用意したのだ。
「こんなにしなくてもよかったのに……」
そう言いながらも、これほど盛大に迎えてもらえたことは素直に嬉しかった。
「アリア様、お帰りなさい!」
誰かの声をきっかけに、周囲から次々と同じ言葉が上がった。
たくさんの声に包まれながら、アリアは改めて辺りを見渡す。
発展したアリアシェル。
すっかり姿を変えたゼロフェル城。
そして、そばにはメルヴァリス、ルミシェナ、ロゼリアがいる。
知らない時間が積み重なっていても、こうして迎えてくれる温かさは以前のままだった。
「……ただいま」
今度は、はっきりとそう答えた。
祝いの席は夜まで続いた。
やがて集まっていた人々も少しずつ家へ戻り始め、アリアたちもゼロフェル城へ向かった。
大きな門をくぐり、中へ入る。
広い玄関広間。
奥へ続く長い廊下。
アリアはメルヴァリスたちに案内されながら城内を進んでいく。
しばらくして、一つの部屋の前で立ち止まった。
「こちらが主様のお部屋です」
ルミシェナが扉を開ける。
そこには大きな寝台をはじめ、机や棚などが整えられていた。
以前使っていた部屋とはまるで違う。
「私の部屋までこんなに……」
「いつお戻りになってもいいように、用意してありました」
ロゼリアの言葉に、アリアは室内を見回した。
自分がいない一年の間も、この部屋はアリアのために用意されていた。
「ありがとう」
アリアがそう告げると、三人もそれぞれ応じ、部屋を後にした。
一人になったアリアは寝台へ腰を下ろす。
長い一日だった。
メルヴァリスたちとの再会。
大きく発展したアリアシェル。
城館から本当の城へ変わったゼロフェル城。
自分の知らないものが、あまりにも増えている。
それでも、自分が帰る場所だけは間違いなくここだった。
アリアは身体を横たえ、柔らかな寝具に身を預ける。
部屋の静けさに包まれているうちに、ようやく気持ちも落ち着いていった。
「……ここに帰ってこられて、よかった」
小さく呟き、そのまま目を閉じる。
アリアは、穏やかな眠りについた。




