【再会と成長】
それから間もなく、廊下の向こうから複数の足音が近づいてきた。
扉の前で足音が止まり、すぐにノックの音が響いた。
「どうぞ」
アリアが答えると、扉が開いた。
最初に姿を見せたのはメルヴァリスだった。
その後ろには、ルミシェナとロゼリアもいる。
三人とも部屋へ入るなり、寝台のそばに立っているアリアへ目を向けた。
「アリア様……」
普段の落ち着いた様子はなく、確かめるようにこちらを見ていた。
「本当に……アリア様なのですね」
「うん……」
その返事を聞き、メルヴァリスの緊張がようやく解けた。
「よかった……」
続いてルミシェナも近くへ来る。
「主様」
いつもの穏やかな声音だったが、そこには隠しきれない安堵が混じっていた。
「お戻りになったと聞いても、実際にお会いするまでは信じきれませんでした」
「ルミシェナ……」
目の前にいる彼女を見て、アリアの胸に複雑なものが込み上げる。
災厄の魔女として出会った同じ名の女性とは違う。
自分と共に過ごしてきたルミシェナが、確かにここにいる。
「ご主人様」
ロゼリアも歩み寄った。
「無事なお姿を見られて安心しました」
「ロゼリアも……」
三人の顔を順番に見ているうちに、アリアは何を言えばいいのか分からなくなった。
自分にとっては、それほど長く離れていたつもりはない。
けれど、彼女たちにとっては一年もの間、自分が行方不明だったことになる。
「……ごめん」
自然と、その言葉が出ていた。
三人が揃ってこちらを見る。
「一年もいなくなってたなんて、私には全然分からなくて……」
どう説明すればいいのかも定まらないまま、アリアは続けた。
「心配かけたよね。本当にごめん」
「謝らないでください、アリア様」
メルヴァリスがすぐに答える。
「こうして戻ってきてくださった。それだけで十分です」
「主様が望んで姿を消されたわけではないのでしょう?」
ルミシェナの言葉に、アリアは小さくうなずいた。
「うん……私も、どうしてこうなったのか分からない」
「でしたら、ご主人様が責任を感じる必要はありません」
ロゼリアも静かに続ける。
三人の言葉を聞き、胸の重さが少しだけ和らいだ。
それでも、分からないことはあまりにも多い。
最後に覚えている崩壊した街。
消えてしまった、もう一人のルミシェナ。
気づけばセレミリアの近くにいたこと。
そして、自分の知らない間に過ぎていた一年。
アリアは三人へ向き直った。
「そういえば、みんなはどこに行ってたの?」
カリナから遠くへ出ていると聞いていたものの、行き先までは教えてもらっていなかった。
「ギルドの依頼です」
メルヴァリスが答える。
「南の地で、かなり強力な魔物が確認されたため、その討伐へ向かっていました」
「三人で?」
「はい」
ルミシェナが続けた。
「数日前に受けた依頼です。先ほどセレミリアへ戻ってきたところでした」
アリアは少し驚きながら三人を見る。
以前なら、自分も一緒に依頼を受けることが多かった。
その一年で、三人だけで行動する機会も増えていたらしい。
「かなり強い魔物って言ってたけど、大丈夫だったの?」
「問題ありませんでした」
ロゼリアが答える。
「無事に討伐を終えています」
その言葉に、アリアはほっとした。
「そっか……よかった」
するとメルヴァリスが、少し嬉しそうに口を開く。
「それと、アリア様がおられない間にも、私たちはいくつもの依頼を受けてきました」
「いくつも?」
「はい。その結果、三人とも現在は金章になっています」
「え?」
予想していなかった言葉に、アリアは三人を見回した。
「全員?」
「はい、主様」
ルミシェナが答える。
「メルヴァリスも、ロゼリアも、私も金章へ昇格しています」
「すごい……」
アリアがいなかった一年の間も、三人は立ち止まっていたわけではない。
冒険者として経験を重ね、金章へ昇格するまでになっていたのだ。
アリアは改めて三人の姿を見つめた。
見た目に大きな違いがあるわけではないが、どこか雰囲気が変わっているように感じる。
「一年もあったんだもんね……みんな、色々あったんでしょ?」
「そうですね」
メルヴァリスが答えた。
「最初の頃は、アリア様を探すことを優先していました。ただ、手掛かりが見つからないまま時間だけが過ぎていきましたので、その後は捜索を続けながら依頼も受けるようになりました」
「数多くの戦闘を経験して、私自身も以前より力をつけました」
「そうなんだ」
アリアはロゼリアを見る。
「ロゼリアは?」
「私も、刃翼の扱いは上達しました」
ロゼリアがルミシェナへ目を向けながら口を開いた。
「ルミシェナが一番変わりましたよね」
「どんな風に変わったの?」
その問いに、ルミシェナが答えた。
「以前は攻撃を得意としていませんでしたが、今はメルヴァリスたちには及ばないものの、それなりに戦えるようになりました」
「なんか……すごいね」
一年という時間が、急に現実味を帯びてきた。
自分の知らないところで、三人は経験を積み、成長していた。
それを嬉しく思う一方で、その日々を一緒に過ごせなかったことに、少しだけ寂しさも感じた。




