↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/69

【時を越えた帰還】

アリアは、魔力も体力も消耗して全身に痛みが残る中、乱れた呼吸を整えながら倒れたルミシェナへ歩み寄っていく。


ルミシェナのすぐ近くまで来たところで、彼女の手が瓦礫をつかむ。


「まだ……動けるの?」


ルミシェナは腕に力を込め、崩れた壁へ身を預けながら上体を起こした。


何度か体勢を崩しかけ、それでもどうにか両足で立つ。


青黒い光衣はすでに大きく崩れ、形を保てないほどに傷んでいた。全身には魔力閃射を受けた傷がいくつも残っていた。


「見事でした。私の光衣だけでなく、白紗結界まで破られるとは思いませんでした」


ルミシェナは身体を支えながら、アリアへ顔を向ける。


「あなたほどの方なら……」


アリアは、その言葉にわずかな引っかかりを覚えた。


「……いえ。何でもありません」


そう言った後、ルミシェナの周囲に淡い輝きが生まれ、残された魔力を絞り出すように次々と魔法弾が浮かび上がった。


アリアは斧を握り直す。


「まだ戦うつもり?」


「いいえ」


ルミシェナは静かに答えた。


「……ルミシェナ?」


「待って!」


だが、ルミシェナは止めなかった。


「これで終わりです」


魔法弾はすべてルミシェナへ向かって放たれた。


立て続けに光が直撃し、轟音が辺りへ響く。


やがてルミシェナの身体から力が抜け、そのまま崩れ落ちた。


倒れたルミシェナが、淡い光を帯び始める。


その光が全身へ広がった直後、ルミシェナの輪郭が一気に崩れ、無数の粒子となって宙へ舞い上がった。


そこに残っていたはずの身体は瞬く間に失われ、光の粒だけが辺りを漂う。


アリアは動けなかった。


宙を舞っていた粒子は次第に消え、その場には何も残らなかった。


「……嘘、でしょ」


声が震えた。


さっきまで目の前にいたはずなのに。


「ルミシェナ……」


返事はない。


アリアは呆然としたまま、何もなくなった場所を見つめ続けた。


ルミシェナが何を考えていたのか。


その真意を確かめることは、もうできない。


「そんなの……」


胸の奥に、やり場のない感情が残る。


考えがまとまらないまま、様々な思いだけが頭の中を巡っていく。


張り詰めていたものが途切れたことで、それまで無理に動かしていた全身が限界を迎える。


視界が揺れた。


意識が遠のき、そのままアリアの視界は暗く閉ざされた。


そこで、アリアの記憶は途切れた。


意識を取り戻したアリアは、ゆっくりと目を開けた。


見えたのは、知らない部屋の天井だった。


自分が寝台の上にいることに気づき、辺りを見回す。


「……ここ、どこ?」


身を起こそうとすると、身体のあちこちに鈍い痛みが走った。


「っ……」


アリアは無理に起き上がるのをやめ、寝台に手をついた。


室内には小さな机と椅子、それに薬や包帯の置かれた棚がある。


どこかの病室みたいなのはわかるが、それ以上のことはわからない。


記憶を辿ろうとしたところで、扉が開いた。


「目が覚めたんですね」


聞き覚えのある声に、アリアはそちらを見る。


入ってきた人物を目にした途端、思わず声が漏れた。


「……カリナさん?」


そこにいたのは、冒険者ギルドの受付をしているカリナだった。


「はい」


「え……なんでカリナさんがいるの?」


予想もしなかった相手の姿に、アリアは戸惑う。


カリナは手にしていたものを机へ置いた。


「ここはセレミリアの冒険者ギルドです。正確には、負傷した冒険者などを休ませるための一室ですが」


「セレミリア……?」


その街の名を聞いて、アリアは言葉を失った。


自分が最後にいたのは、ルミシェナと戦った崩壊した街だったはずだ。


そこからセレミリアへ戻った覚えなど、まったくない。


意識を失う直前の出来事が蘇る。


消えていくルミシェナ。


そして、その後の記憶は途切れている。


「ちょっと待って。私、どうしてここにいるの?」


カリナへ視線を向ける。


アリアには、自分がセレミリアにいる理由さえ分からなかった。


カリナは少し間を置いてから答える。


「あなたは、セレミリアからそれほど離れていない森で倒れていたそうです」


「森で……?」


「依頼から戻る途中だった冒険者が発見して、そのままギルドまで運んできました」


アリアは困惑した。


最後にいた場所は森ではない。


崩壊した街でルミシェナと戦い、その姿が消えるところまで確かに覚えている。


そこから先は意識を失い記憶がない。


「どういうこと……?」


自分がなぜセレミリアの近くにいたのか。


「倒れていたとき、私以外に誰かいなかった?」


「発見されたときは、一人だったと聞いています」


アリアは考え込んだ後、ふと別の疑問を抱く。


「そういえば、私ってどれくらい寝てたの?」


「ここへ運ばれてからでしたら、それほど長くありません」


カリナの返答に安心しかけたものの、その後に続いた言葉で思考が止まった。


「ただ、アリアさんがいなくなってからは、一年ほど経っています」


「……え?」


聞き間違えたのかと思った。


「一年……?」


「はい」


アリアは何も言えなくなった。


筏で流され、ラトナ村へ辿り着き、ルミシェナと北へ向かった。


自分の感覚では、そんな長い時間が過ぎた覚えなどない。


「待って。そんなはずないよ」


思わず声が強くなる。


「私がいなくなってから、一年って……本当に?」


「間違いありません」


カリナの答えは変わらなかった。


しばらく呆然としていたアリアだったが、あることに気づいて顔を上げた。


「メルたちは?」


カリナを見る。


「メルヴァリスと、ルミシェナと、ロゼリア。三人はどうしてるの?」


「メルヴァリスさんたちは、今は遠くへ行っています」


「遠く?」


「はい。数日も経てば戻られると思います」


「三人とも?」


「ええ」


アリアは少し考える。


一年も経っているのなら、三人がずっとセレミリアにいるとは限らない。


それでも、どこへ行ったのかは気になった。


「どこに行ったの?」


「……まあ、その話は」


「アリアさんも目を覚ましたばかりですし、まずは身体を治すことを考えましょう」


「え?」


「メルヴァリスさんたちのことは、戻ってきてから本人たちに聞いてください」


「本人たちに?」


「はい。そのほうがいいと思います」


どこか腑に落ちなかったが、今ここで聞いても詳しいことは教えてもらえそうにない。


アリアは気になりながらも、それ以上追及するのをやめた。


それから、アリアはギルドの一室で休みながら過ごした。


運び込まれた当初は全身に傷や疲労が残っていたものの、日に日に身体は回復していく。


食事を取り、自分で歩けるようになってからも無理はせず、治療を受けながら安静にしていた。


そして数日後。


傷もすっかり治り、身体を動かしても痛みを感じなくなった。


アリアは寝台から立ち上がり、腕や脚の具合を確かめる。


もう普段通りに動けそうだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。