【消えたラトナ村】
「……え?」
アリアは言葉の意味をすぐには理解できなかった。
「何言ってるの……」
「ここに村があったのは、もう昔のことです。私がすべて壊しましたから」
冗談を言っているようには見えなかった。
「それなら、ご自分の目で確かめてみてください」
そう告げると、彼女は台から降りた。
アリアは戸惑いながらも、その後を追った。
二人は石段を上がり、荒れた寝室を抜けて外へ向かった。
家を出たアリアは、そこで足を止めた。
「……なに、これ」
目の前に広がっていた景色は、ここへ来る途中に見たものとはまるで違っていた。
村へ続いていた道は草に覆われ、形すらほとんど残っていない。
遠くに並んでいた家々も、多くが崩れ落ちていた。
屋根を失った建物。
壁だけを残した住居。
朽ちた木材が積み重なり、その間から背の高い草が伸びている。
昨日ガルグレドに壊された柵も、修理をしていた人々の姿も見当たらない。
それどころか、何年も誰ひとり暮らしていないように見えた。
アリアは数歩進み、辺りを見渡した。
朝まで人が行き交っていた場所は、静まり返った廃墟へ変わっていた。
「そんな……」
つい先ほどまで存在していたラトナ村は、見る影もなく荒れ果てていた。
アリアはその場にいられず、荒れた道を駆け出した。
伸び放題の草をかき分け、崩れた家々の間を抜けていく。
昨日まで人が暮らしていたはずの場所には、生活の気配すら残っていない。
それでも足を止めず、記憶を頼りに奥へ進んだ。
やがて見覚えのある場所へたどり着く。
アリアは一軒の家の前で立ち止まった。
村へたどり着いた自分を助け、食事まで用意してくれた女性が暮らしていた場所。
だが、そこにあったのは古びた建物だけだった。
壁はところどころ崩れ、屋根も大きく傷んでいる。
中から誰かが出てくる様子もない。
「どういうこと……」
確かにここで一晩眠った。
朝には食事を取り、女性とその母親とも話をした。
その記憶ははっきり残っている。
夢だったとは思えない。
けれど、目の前の光景はそれを否定していた。
何が本当なのか分からず、アリアは家の前に立ち尽くした。
遅れてルミシェナがやってきた。
「この家が、どうかしましたか?」
その声を聞き、アリアは振り返った。
「私、この家の人に助けてもらったんだ」
アリアは海を漂流してこの地へ流れ着いたことから話し始めた。
浜辺から歩いて村へたどり着き、井戸のそばで女性に助けられたこと。
食事をもらい、空いていた部屋で眠ったこと。
朝になると女性の母親とも会い、その後で村を歩いたこと。
そして、ガルグレドが現れ、住民たちが襲われていたことまで。
覚えている出来事を順番に伝えていった。
ルミシェナはアリアの話を聞き終えると、しばらく黙っていた。
「私はこの村を壊したあと、ずっと地下で眠っていました。ですから、今の状況については私にも分かりません」
荒れ果てた村へ目を向けた。
「けれど、昨日までここに人がいたというのは……妙ですね」
アリアは返事をせず、ルミシェナを見つめた。
話を聞くほど、胸の奥に引っかかるものがあった。
地下で出会ってから今まで接してきたルミシェナと、この集落を滅ぼした存在がどうしても結びつかなかった。
「……ルミシェナが、本当に全部やったの?」
「ええ」
迷いのない返答だった。
それでもアリアには納得できない。
「どうしてそんなことをしたの?」
ルミシェナはすぐには答えなかった。
しばらくして、静かな声で口を開いた。
「先ほどは私がやったと言いましたけれど、正確には少し違うんです」
「違う?」
「私の中には、昔から別の存在がいるんです」
アリアは黙って続きを待った。
「普段は眠っています。でも、あのときは私にも抑えきれませんでした」
「村を壊したのは、私の意思ではありません」
そして、自分の胸へ手を添えた。
「私の中にいる〈災厄〉です」




