↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/69

【地下に眠る少女】

その名を聞いたアリアは、どこか引っかかるものを感じた。


自分の知るルミシェナと、この村で語られている災厄の魔女。


同じ名前というだけなら偶然かもしれない。


人を何人も殺したとされ、その後、突然いなくなった魔女。


しかも、城館にいるルミシェナの故郷もラトナ村だった。


考えれば考えるほど、無関係だと言い切ることはできなかった。


「その魔女が住んでた家って、まだ残ってる?」


女性は問いかけに少し驚いた様子を見せた。


「ええ。村の外れにあるわ。誰も近づかないから、ずっとそのままよ」


「場所、教えてもらえる?」


「行くつもりなの?」


「うん。確かめたいことがあるの」


女性は心配そうにしていたものの、やがて家までの道を詳しく伝えてくれた。


朝食を終えたアリアは礼を言い、外へ出る。


村の中では、昨日壊された場所の修理が続けられていた。


作業する人々の間を抜け、教えられた道を進んでいく。


中心部から離れるにつれて建物は少なくなり、人の姿もほとんど見えなくなった。


やがて道の先に、一軒だけぽつりと建つ家が現れる。


周囲には伸びた草が広がり、手入れされていないことが遠目からでも分かった。


アリアは足を止め、その建物を見つめる。


ここが、災厄の魔女ルミシェナが暮らしていた家だった。


アリアは古びた扉へ手をかけ、ゆっくりと押し開けた。


中には、長く人が入った形跡がなかった。


床には厚く埃が積もり、倒れた椅子や割れた食器があちこちに散らばっていた。壁際の棚も傾き、中に残されていた物の多くが床へ落ちている。


足元に気をつけながら奥へ進む。


居間を抜けた先には小さな寝室があり、寝台が一つ置かれていた。


掛け布は破れ、木枠にも傷みが目立つ。


その脇を通ろうとしたところで、寝台の下の床板がわずかにずれていることに気づいた。


アリアは身を低くし、その隙間をのぞき込んだ。


暗がりの奥には、地下へ続く石段が見えた。


「こんなところに……」


アリアは階段を隠すように置かれた寝台へ両手を添え、そのまま横へ押していく。


重い音を立てながらずれ、隠されていた地下への入口が現れた。


下から冷えた空気が漂ってくる。


石段の先は暗く、ここからでは底まで見通せない。


アリアは慎重に一段ずつ地下へ降りていった。


石段を下りきると、家の地下とは思えないほど広い空間へ出た。


天井近くには細い採光口があり、そこからわずかに光が差し込んでいる。


石造りの壁に囲まれ、家具らしい物はほとんどない。薄暗い室内の中央には、長方形の台が置かれている。


その上には、人の姿があった。


「……え?」


思わず声が漏れる。


横たわっていたのは、一人の少女だった。


長い緑色の髪。


整った顔立ち。


その容姿には、見覚えがある。


城館で何度も顔を合わせ、共に旅をしてきたルミシェナと瓜二つだった。


服装こそ違うものの、見慣れた彼女そのものに見える。


「ルミ……?」


呼びかけても返事はない。


少女は台の上で静かに横たわったまま、身じろぎ一つしなかった。


目の前の少女が何者なのか知るため、アリアは〈鑑定〉を使う。


情報が意識へ浮かび上がった。


《災厄の魔女ルミシェナ》


その表示を見つめていると、台の上で少女の指先がかすかに動いた。


閉じていた瞳が開き、緑色の目がアリアを捉える。


少女はゆっくりと上体を起こした。


「あなたは……どなたですか?」


警戒している様子はなく、ただ知らない相手を見るような反応だった。


「私のこと、知らない?」


「はい。あなたのことは知りません」


迷いのない返答だった。


その態度に、アリアは戸惑う。


「私はアリア・フェルロード」


アリアが名乗っても少女の反応は変わらない。


城館にいるルミシェナなら、自分を忘れているはずがない。


「じゃあ、やっぱり別人なのかな……」


そう考えても、目の前にいる少女を簡単に別人とは思えなかった。


髪の色も顔立ちも、声までよく知る彼女を思わせる。


同じ名を持つだけの他人だと片づけるには、不自然なほどだった。


考えていても答えは出そうにない。


アリアはひとまず、もう一つ気になっていたことを尋ねた。


「聞きたいことがあるんだけど」


少女は何も言わず、こちらを見る。


「昔、この村の人たちを襲ったのって、あなたなの?」


返事はない。


「どうしてあんなことしたの?」


それでも少女は口を開かず、アリアは少し待ってから話を続けた。


「理由があるなら聞く。でも、本当に村の人たちを襲ったなら、このままにはできないよ」


少女の表情は変わらない。


「今から一緒に村へ行こう。何があったのか、ちゃんと話して」


そこで、少女はようやく口を開いた。


「誰に、お話しするのですか?」


「誰って……村の人たちにだよ」


少女は静かに告げた。


「村の人たち……? ここに村はありませんよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。